最高難易度攻略対象者の溺愛お約束ルートに変更希望です!~恋愛下手過ぎて手伝ってもらうことになった転生ヒロインですが、色々と大変で誰か助けて欲しい~
待鳥園子
第1話「挨拶」
「ブルゴーニュ会長っ……おはよう、ございます」
「ああ。おはよう」
この学園の生徒会長であり、金髪碧眼かつ美麗な容姿を持つ絵に描いたような王子様、ジョヴァンニ・ブルゴーニュは、勇気を出して挨拶をした私を見て微笑み、そして、廊下の先を進んだ。
これだと、ただジョヴァンニと挨拶を交わしただけ……ダメダメ! このままだと、せっかく作戦立ててもらったのに、何の成果も得られず終わっちゃう!
「あのっ……」
私が彼の背中に声を掛けたので、ジョヴァンニは立ち止まって振り返った。
「僕に、何か?」
ジョヴァンニの身分は王子様ではあるけど正統派メインヒーローだから、他の個性派攻略対象者たちとは違って、癖がない性格で優しく温厚だ。
ついこの前に、貴族しか持ち得ないはずの魔法の力に目覚め、平民の身でありながら貴族学園に入学することになった私が、こんな無作法をしたからって彼は怒らない。
ジョヴァンニは、いわゆる女の子の多数派が好む、望み通りの王子様。
けれど、ここからどうするべきかさっきまで考えていたはずなのに、頭の中は真っ白になってしまった。
かっ……会話だ! そうだ。自然な会話をしなきゃ!
待って。そもそも自然って、どんな感じだった? 混乱してしまった今……完全にわからなくなってしまった。
意識してしまった自然って、不自然になってしまわない……?
ジョヴァンニは自分をこうして呼び止めた癖に、何も言わない私を見て、不思議そうな表情になっていた。
気になりますよね。そうですよね。何か自分に用があると思って、立ち止まってくれた訳ですし、早く何か言えって話ですよね。わかっています。
待って待って。自然自然自然……自然な会話って、何かあったっけ。
この世界、乙女ゲーム『僕の心の扉を叩いて』つまり、略して『ここたた』なんだけど、攻略対象との会話は三つの選択肢から選ぶというあの頃の乙ゲーではあるあるなシステムだった。
今こそ私を助けて! 三つの選択肢、召喚!
現実逃避して心の中で必死に呼びかけても、ジョヴァンニとの適切な会話内容なんて、空中に浮かんで来るはずなんかない。
転生した私にとって、ここはただの現実。要するに、リアル乙女ゲームをプレイ中であるということ。
そもそも論で私は恋愛事が下手過ぎて、乙女ゲームでそういう選択肢を初見で正解を引いたことがない。
奇跡的に出て来てくれたとしても、何の意味もなかった。
……男性の思考が読めるなんて、皆エスパーか何かなの? もしかして、私の知らないところで『男性の心理講座』を受講してる? 恋するって何かしら、免許とか必要な感じ?
つまり、乙女ゲーム『僕の心の扉を叩いて』は、プレイヤーがそんな私の時点で詰んでしまう、超絶無理ゲーと化してしまう。
しかも、ここはゲーム内に転生した私にとっては抜け出せない現実なので、リセットボタンはどこにもないし、これが一回目なので、バッドエンドからのループルートがあるかもわからない。
入学した時に蘇った記憶で、現実世界から乙女ゲームの世界に転生していると気がついた時から、『無理。終わった』って思った。
それは……何故かって? 私の恋愛偏差値が、異常に低過ぎるから!
乙女ゲームもクリア出来ない子が、リアル恋愛攻略なんて、到底無理だと思うの。
けど、別に私は男の人と話せない訳ではない。相手が恋愛対象ではないと思うと、特に何も無く普通に話せる。
けど『もしかして、この人と付き合っちゃうかもしれない』とどこかで思ってしまうと『ついさっきまで持ってた言語能力を、どこかに落として来た?』とばかりに何も話せなくなる。
男の人の考えていることを先読みして、彼からすれば好ましい回答を選ぶなんて、それ以前な問題なのだ。
まず、恋愛対象者と思うと、適切な挨拶も出来ない。
いま現在、不可解の極みを表すかのような表情を、美麗な顔に浮かべているジョヴァンニ・ブルゴーニュは王子様で、幼い頃から決められた公爵家の婚約者だっていらっしゃる。
……そう。それって、つまり乙女ゲームの悪役令嬢のことだ。ちなみに私は、まだお会いしていない。それは何故かというと、彼女はとても怖いから。
そんな身分の高い二人があまり上手くいっていないとはいえ、婚約者が居る状態で、王族に声を掛ける貴族令嬢も居ない。
だから、平民の身分であるヒロインは、貴族の常識を飛び越えられる、とても珍しい『面白れえ女』になり得る存在なのだ。
……ジョバンニが私を気に入ってくれれば、きっと、向こうから話しかけてくれるようになる。
好感度が30を越えた辺りで個別ルートに入れば、こちらから探しに行かなくても、ジョヴァンニの方から探しに来る。
———-今はすぐ目の前に居るけど。
現在、どれだけジョヴァンニにとって、自分が不自然な存在になっているかを意識してしまい、ドキンっと胸が高鳴った。
……無理。胸の高鳴りが早くなって、動揺の度合いがどんどん増していく。
「っ……会長の趣味は、何でしょうか?」
無言の空気に耐えかね完全にテンパった私は、会話のきっかけに適切なはずの趣味の話を持ち出した。
「僕の趣味……? ああ……なんだろう。読書かな?」
優しいジョヴァンニは戸惑いながらも趣味は読書であると答えてくれて、私はもう既にその時点で限界だった。
会話、成立!! 目的達成(ミッションコンプリート)!!
「っありがとうございました!!」
パッと背後を振り返って闇雲に走り出し、擁護しようのない異常な行動を王子様に披露してしまった私は、道路を転がりたい思いでいっぱいだった。
恥ずかしい! 穴掘って、そこに当分篭もりたい!!
誰かと親密度高めようとする事が目的の会話で、趣味だけ聞いて走り去るなんて、ピンポンダッシュみたいな事をする人居る?
そうです! 犯人は私ですぅ!!!
「……おい!! リンゼイ!」
とにかくさっきの場所から逃げようと目に付く道を走っていた私は、急に大きな手で手首を掴まれて驚いた。
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