第22話




藤也が貴都を押して室内に入ってくる。



「は…えー!樹、どした!

え、なに?あんた、なんか言った?」





にこにこしているが、藤也の目は鋭い。






「…ぁ、……」






とたんに喉がヒリ付き、声が出なくなる。

呼吸の仕方を忘れたかのように、息を吸うことさえできない。


暑くもないのに汗が吹き出し、足が震え、視線が彷徨う。





「……おい、藤也」





貴都の声がする。

後ろから伸びてきた手が、私の目を覆った。





「あっ、違うよ!藤也、違うよ!」






慌てたように樹が藤也をなだめ始める。




私は、うまく呼吸ができなくて、汗が止まらなくて、震えることしかできなかった。





「大丈夫、大丈夫だから。ゆっくり深呼吸」





貴都は、近くにあったタオルを私の口と鼻を覆うように当てて背をさすってくれた。



しばらくそうしていると、普通に呼吸ができるようになった。




でも、極度の緊張と恐怖に耐えきれなくなったせいなのか、そのまま視界が暗転してしまった。







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