買い物

「ほんと酷い目にあった…」


あの後、先輩のせいで取り巻きに囲まれ質問攻めにあった。


どこで知り合ったのか、どういう関係なのかなどしつこく聞かれたが親同士が仲良かった事(これは事実である)を話して何とかその場は乗り切る事に成功した。




ちなみに問題を起こした先輩は話しかけた事に満足したのか、そのまま競技に戻っていた。こっちを振り回しておいていいご身分である。


そんな事をしているうちに見学時間は終わったので、そのまま教室に戻る事になったが、改めて先輩の人気ぶりを体感させられた出来事であった。




「でも姫様と気軽に話せるとか羨ましいよ」


「親が知り合いって事は昔から仲良かったの?」




教室に戻ってきてからもまだ質問は続いていた。だが先ほどのような圧が強い質問攻めで無く、雑談の延長線みたいな感じだったので、クラスメートの質問に答えながら先ほどの連中の話を聞いてみた。


どうも先輩にはファンクラグのような物があるらしく、圧をかけてきたのは先輩のクラスメートでファンクラブの会員なんだろうという話だった。確かにあっちからしたら急に先輩と仲良くしている存在が出てきたらいい気はしないだろう。


しかも、今後の事を考えるとこれからもぶつかり合う存在になりそうなので、対応には気をつけないといけないな。




「ありがとう、助かったよ」


僕は快く情報を教えてくれたクラスメート達にお礼を言った。




「どういたしまして。まだうちのクラスは熱狂的なファンがいないからこんな感じだけど、他のクラスにはもしかしたらファンクラブ入るやつもいるかもだから気をつけな」




「ほんと助かるよ」




新しい問題が表面化したものの、うちのクラスは良い人ばかりで相談も気軽にできるのは嬉しい発見だった。そのおかげもあって午後はクラス内で穏やかに過ごすことが出来、この日は終了した。








放課後、僕は買い物に付き添うため、商店街の外れで先輩を待っていた。お約束なら校門や教室で待ち合わせるのだけど、ファンクラブに見つかって騒ぎになると買い物どころではなくなってしまうのでこっちで待ち合わせる事にした。




「同居しているのは隠すとはいえ、こうやって一緒に買い物とかは行くわけだから見つかった時の対策は考えておかないとなぁ。隠さなきゃいけない部分と出来る限り避けて生活したくないっていう先輩の気持ちのバランスがなかなか難しいけど、叶えられる願いは叶えてあげたいし…」


独り言のように呟いていると、道路の向こう側から手を振って近寄ってくる先輩の姿が見えてきた。












「今日はびっくりしたよー!見学って私たちの授業だったんだね」




合流してお店に向かう途中、自然と今日の授業の話になった。




「僕もびっくりしましたよ。いきなり声かけてくるので」




「ごめんって!顔見られて嬉しくなっちゃって思わず声かけちゃったの」




さらっとこんなセリフ言えるのがすごい。こんな風に言われてしまったらこちらは何も言えないよ。。




「まぁわざわざ知り合いである事を隠す必要もないのでいいですよ」




僕のセリフを聞いた先輩は嬉しそうにニッコリしながら


一言だけ伝えてきた




「ありがとう」




一言だけだけどそれ以上に意味を持つこの言葉。


これを聞けただけでも今回はカッコつけたかいがある。




「それにしてもみぃ先輩にファンクラブがあったなんて知りませんでしたよ」




「あぁ、何かあるらしいね。でもあんまりよく分かってないのよね」




「そうなんですか??今日だってコートの周り囲んでましたけど」




「周りにいるなとは思ってるよ、だけど直接交流する事ってほとんどないしね。たまに友達を通して連絡先教えて欲しいとかはあるけど、私自身は気にしてないの」




「そんなもんですかね」




「そーだよ。私からしたらよく分からない遠い人達よりも近い人達の方と過ごす時間の方が大切だし。もちろんひーくんもその一人だよ」




さっきからこっちが照れることしか言わないなこの人




「あ!八百屋さん見えましたよ」




「急に話しそらして照れちゃった?」




話のそらし方があからさま過ぎてバレたようだ。ニヤニヤしながら聞いてくる先輩を無視してお店に入る事にした。




その後、肉屋さんや魚屋さんを巡りとりあえず食料品系の買い物は終了となった。幸い、学園の生徒とも出くわすことは無く平和な買い物となった。




「あと何か買うものあったらついでに寄ってきますけど?」




「いや、今日はいいかな。このまま帰ろうか」




「了解です」


















「ひーくん明日お休みだけど予定ある?」




家路について、夕飯を食べていた時先輩から話をふられた。




「いえ、特に予定はありませんけど」




「そしたら明日また買い物付き合ってくれないかな?日用品とか服とか買いたいんだけど、どこかいいところある?」




「それなら少し電車乗りますけどショッピングモールの方がいいかもしれませんね」




「そんな所あるの??」




ショッピングモールという単語に先輩の瞳がキラキラしている




「はい、意外と近くにあるんですよ」




「やった!じゃ明日はそこにお願いします!!」




まるで子供のようにはしゃぐ先輩を見て思わず笑ってしまう。




「分かりました。では明日はそこに買い物と言うことで」




「楽しみにしてるね!」


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