よろしくお願いします
「な、なんでここにあなたがいるんですか!??」
思わず声が上ずりながら僕は目の前にいる人に話かける。
「ん?あれ?もしかして何のお話も聞いていない?そのリアクション的に私の事は知っている感じかな?」
こちらの様子を心配して話しかけてきてくれる優しい声が、パニックになっていた僕の頭を少しずつ落ち着かせてくれる。
「いや何も聞いてないです。えっと、今日入学式で挨拶してましたよね」
「そうそう!君はうちの学園の新入生だったよね」
「はい。あ、僕の名前は
「これはご丁寧にありがとう。私は
お互いの自己紹介が終わり丁寧にお辞儀をし合う何とも平和な光景。
「じゃなくて!!」
「うわっ、びっくりした。急に大声出してなんですか?」
突然声を張り上げた僕に少し驚いた様子でこちらを見ていた。
「いや、挨拶は終わりましたけど、現状が全く理解出来てなくて」
「それ疑問だったんですけど、今日の事って葵あおいさんから聞いてませんでしたか?」
「母さんから?」
ここで出てくる葵といったら間違いなく僕の母親である神崎葵のことだろう。
母さん絡みの案件だと急に嫌な予感がしてきた。
二人で話しても埒が明かないのでひとまず母さんに電話してみる事にした。
「あ、もしもし母さん?今日入学式から帰って来たら、何か知らない女の子がいたんだけど」
「あー私何も言わないで家出ちゃったんだっけ?ごめんごめん。その子今日から家に住むから仲良くしてね」
は?
「いやいや!!何言ってんだよ!聞いてないとかのレベルじゃないんですけど!」
「何よー急に叫んでやかましいわね」
「そら叫ぶわ!なんでそんな話になってるの!?」
「美海ちゃんのご両親ってうちのパパと同じで海外でお仕事してるらしいの。それで今年から三人で暮らすつもりだったんだけど、想像以上に今の仕事が忙し過ぎてあんまり家にいられないらしいのね、娘一人で家にいる時間が長いのに、日本と比べると治安はあまり良くないから悩んでたんだって」
「それで?」
「だったらうちはどうですかーって美海ちゃんに提案したのよ。そしたらOKだっていうから今そこにいるの」
「いやだから全然説明になってないんだけど!そもそもなんで母さんと星宮先輩に交流があるの??」
「美海ちゃんのお母さんと私は教師時代の先輩後輩の関係でちょくちょく三人で会ってたのよ。日本に残る以上出来るだけ学校とか環境はあまり変えたくない、でも頼れる親族はいない。だったらどうですかって相談したってわけ」
「でもそれって母さんがいるからあっちのご両親は了承したんじゃないの??父さんについていったら話違くない?」
「そこは美海ちゃんのお母さんと意気投合しちゃって、逆にそっちのほうが面白いんじゃない?って。お父さんには話してなかったみたいだから、そろそろあっちでも話してる頃じゃないかしら」
とんでも無いこと口走ってるよこの人。。
ん?そろそろ話してるって事は…
「お話し中ごめんね?何か今うちのお父さんから電話があって。緋色君と話したいって言ってるんだけど」
終わった…というか僕は何もしていないから冤罪な気もするけど。
しかし電話に出ないわけにはいかない。まだまだ話したい事はあったが、一度母親の電話を切って先輩の電話を受け取った。
「もしもし、君が緋色くんかな」
「はい!初めまして。緋色と言います!」
「君の話は妻を通じて聞いているよ。こちらの都合で振り回してしまっているようだね。すまない事をした」
あ、これはすごく物わかりの良いパターンかな?
このまま話がスムーズに進めばいいんだけど
「だが!それはそれとして君が娘と二人で暮らすことを望ましく思っているわけではない!今すぐにでも…」
あれ?音声が途中で途切れたけど大丈夫かな?
そんな事を思っていると、代わりに電話の向こうから女の人の声が聞こえてきた。
「ごめんなさいね。びっくりさせちゃって。美海の母の深月みつきと言います。」
「あっと初めまして」
「君の事は葵からよく聞いていたわ。面倒見のいい優しい子だって」
「そこまででは無いですよ。でもありがとうございます。」
急に音声が途絶えた星宮先輩のお父さんの様子が気になる所ではあるが、素直にこちらを褒めてくれているし悪い気はしないな。
「そんな君だから美海の事をお願いしたいと思ったの。あの子外面はいいけど結構おっちょこちょいなのよ。一人暮らしだと防犯面の危険もあるし、決してノリだけで決めたわけじゃないの。」
「ノリだけじゃない所は同意しかねますが、少なくとも旦那さんは反対してませんでしたか?」
「あーあの人は無視でいいのよ。安全面がどうこう言って振り回してる原因はあの人だし。だからこちらとしては君が良ければお願いしたいと思ってる。ダメだったら美海は悲しみながら転校するしかないんだけど」
もはや脅迫である。というか肝心の意見が聞けていない。
「そもそも先輩はどうなんですか??急に男と二人暮らしって嫌じゃありません?」
僕の少しひねた発言に怪訝そうな顔をしながら
「葵さんの息子さんが悪い人なわけないでしょ?私としては友達と離れること無く通学出来るし特に問題無いかな。緋色くんさえ大丈夫なら一緒に暮らしてくれないかな?」
そんな風な事を可愛らしい声で言われてしまうと、僕に断れるわけが無かった。
「…分かりました。これからよろしくお願いします。」
「「やったわ!」」
電話の向こう側からはしゃぐ二人の母親の声が聞こえてきたが、もうツッコむ気力も無くなっていた。。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます