事務所爆散☆私は最強の歌姫

関原みずき

悪役令嬢系VTtberの私はドームでライブを行う

ドームライブ、それは全アイドルの夢。光り輝くドームライブに憧れた数多のアイドルがたどり着けずに散っていった。いまだにVTuberでドームでライブをできたことはない。


しかし、三人組VTuberグループ「Sファンタジア」はその扉をこじ開けようとしていた。最後の一ピースである私を加えて。今日は念願のアリーナライブが開催される、一万人の前で私は鮮烈なデビューを飾るのだ。


「みんな盛り上がってるかー、みんなー今日は私たちの音楽ライブに来てくれてありがとう。最後に本当に特別なお知らせがあるから、最後まで盛り上がってくれよー」


私の先輩達が今日最高のライブの始まりを告げる。

ーーーーーーーーーー

うおおおおおお、ファンたちのあらん限りの叫び声が会場にこだまする。チケットの争奪戦に勝ち抜いた猛者たちである。満員の会場は震えていた。思わず私の心も震えた。この完成を私も浴びたい、町中で突然スカウトされ、なぜかメンバーにねじ込んでもらったが、みんなの妹としてこれからやっていこう。


三人組としては最後のライブである。これまで個人個人でファンを増やしていたが、三人で歌うことで相乗効果が生まれ、理想の歌が歌えている。全力のパフォーマンスは見るものすべてを魅了している。

何曲もファンたちを盛り上げ、世界の中心に彼女たちは立つ。今日の主役はあの三人だ、きっとインターネットの向こうでも同時配信で盛り上がっているのだろう。流れるコメント欄は常にペンライトの絵文字で埋め尽くされている、彼女たち一曲、一曲ごとにペンライトは色を変え、音楽は心を動かしていく。


「今日のライブは本当に最高だーーーー。みんなもっともっと盛り上がれるかなー?」


うおおおおおおおおお。さいこーだああああああああああ。


「聞こえないなー、もっと声出せるんじゃないのかお前たちー。盛り上げろーー」


うおおおおおおおおおお。


夢のような最高の時間はあっという間に過ぎてしまった。ただのファンである私から「Sファンタジア」の新メンバーとしてふさわしい存在なのだとファンたちに認めさせなければいけない。今から私は、新しく作ったソロ曲を歌ってそのあと四人組新制「Sファンタジア」となって新曲を歌うのだ、そのあとドームライブの決定をファンにお披露目するのだ。私は親友からもらったお守りを握って緊張をへらす、このお守りはとっても効果があるのだ。時間である。


「お知らせの通り、私たち三人組で歌うのはこれが最後でした、そして私たちがパワーアップするために新メンバーが加わります、とってもかわいい子なのでぜひ受け入れてください」


会場は暗転して、私の姿がモニターに映る。このために必死の思いをして作った私のソロ曲を歌う。

イントロが流れる、未だにシルエットだった私の姿が初めて明らかなった。

会社として私のために新しく作った、超絶かわいい姿に会場中の人が叫んでいる。


「はじめまして、みなさん私が赤崎すみれです。今日は私の歌を聴いてください。「赤いすみれ」


私がどんな存在なのか、私はとってもかわいいのだとファンのみんなに主張する新曲である。

小さくてかわいい私がどんな存在なのか世界中に示せている。会場は非常にホットであり、私が言葉を発するたびに会場が沸く。


人差し指と親指で銃を作って右側にいるファンのみんなに一発撃つと会場が揺れる。もう一発撃つと今度は左側のファンが沸く。盛り上がりは最高潮のまま曲が終わった。モニター越しににしか会場の様子は見えないし、全身タイツに機械がいっぱいついている私は汗がすごいが先輩たちはもっとすごいことになっている。


会場の盛り上がりは最高潮だ。


先輩たちが私の横に並んできた、姿が会場のモニターに映る。四人の姿が見えると会場は盛り上がる、もう何しても全員すごく叫ぶ。


「ファンのお前たちに大事なお知らせがあります。心して聞いてくれるかなー?」


もちろーん。会場中でもちろんコールが発動している、あんなに騒がしかった会場がシーンとなっている。これから話す言葉を聞き逃しまいと。呼吸の一音一音まで届いているだろう。


「私たち、『Sファンタジア』はドームライブが決定しました」


背景に東京のドーム会場でライブが行われることが決定したことが大々的に表示された。現実を受け入れられないファンたちが騒然となる。一瞬静まり帰ったが直後にとてつもない歓声がイヤホン越しに聞こえてきた。モニターに映るコメント欄もあまりに一斉に撃ち込まれているのか完全に動きが止まってしまった。興奮どころの騒ぎではない。


やったーーー。

うおおおおおお。

なんてことだー。


「しかし、私たちは今ここで告発を行いたいと思います。」


会場中が完全に押し黙ってしまった、告発と聞こえたが、私の耳がおかしくなってしまったのだろうか。え……何も聞いていない。突然どうしたのか、


さっきまでの笑顔は三人とも完全に消えてしまった。真顔である、さっきまで笑顔だったのに急に真顔になり、覚悟を決めたような顔をしている。三人以外誰も状況を飲み込めていない。


「私たちは全員社長からセクハラ、パワハラを受けていて、ドーム公演をしたかったら、わかっているよなと毎日言われています。いままで我慢していましたがもう限界です。私たちは本日をもって引退します。この赤崎すみれは関係ないのでそこだけは申し訳ないですが、もう限界です。今までありがとうございました」


そういって先輩たちはマイクをおいて全身タイツみたいな服を脱ぎだした。私の周りにいるスタッフも呆然としている。このあと一曲残っているが、それどころではない。事態を飲み込んだ観客が私に怒号を浴びせだした。


社長ふざけんなー、死ね。

なんでやめなきゃいけないんだよ、社長が辞めればいいだろ。

戻ってきてー。

嘘だよなー、そうだよなー。

辞めなくでー、帰ってきて。

ドッキリだよな、ずいぶん悪質な、なあ。


観客は大混乱である。私も大混乱である、モニターから先輩の姿が消えて呆然と立ち尽くす私だけが映っている。


「先輩、待ってください本当に引退ですか、今からでも戻ってきてください」

「ごめんね、私たちもう限界だったの、復讐としては最高の時期でしょ。ごめんね」


マネージャーが慌てて追いかけていく、もう誰も何もできない。ライブは強制終了された。放送事故どころの騒ぎではない、事務所の危機である。誰もがこれからどうなるか想像できなかったが、もう取り返しのつかないことになっていることは私でも想像できた。


この後どうやって家に帰ったか覚えていない。

家に帰るとネットニュースになっていた。社長の全てのSNSは荒れに荒れ、すべて消えていた。通報されて公式アカウントも何も言っていない。私のマネージャーにも連絡がつかない。スタッフは私にこの場所に残るように言っていた気がするが、私はこの場所にいたくなかった。


ーーーーーーーーー

次の日、なぜか社長から連絡がきた。私のマネージャーからの連絡はいまだにない。いつもの事務所ではなく社長の家に呼び出された。社長に開口一番何か書類を見せられる。私の前ではとても仕事の出来そうな人なのに、デビューをめちゃくちゃにしやがって。


「この書類にサインして、もうこの事務所はお終いだから、契約は当然解除だ。同意書にサインを」


私はよく読まずに書類にサインをした。意味が分かんないがもう夢の未来はなくなってしまったのだ、悲しいがもうどうしようもない。やり直すしかないのだ。サインした書類を渡してもうどうしようもないので帰ろうとすると社長が話かけてきた。


「後はよろしく」


後も何も私はもうこの事務所とは何の関係もない人になったのだ、これからどうしようかと考えながら家に帰った。電話が鳴る。


「サインしたね、これで君はわが事務所の社長だ。借金の返済頼んだよ」


送られ来た写真には確かに私の署名があった。契約解除の書類ではない。確かに代表取締役の欄に私の名前が書いてある。

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事務所爆散☆私は最強の歌姫 関原みずき @sekiharamizuki

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