第0話 御徒町の銃砲店にて
JR御徒町駅の近辺は、ミリタリーマニアの聖地だ。エアガンやミリタリーグッズを扱うホビーショップと実銃を取り扱う専門銃砲店が軒を連ねる地区もあり、この手のマニアや防犯意識の高いサラリーマンでいつも賑わっている。
蔵前橋通りの裏路地にひっそりと看板を置いてあるガンショップ・サマンサは、そんなミリヲタ激戦区から一歩引いたところに店を構えている。常連客のおかげで何とか店が成り立っている寂れた店で、平日昼間は閑古鳥が鳴いている。
そんな店を訪ねる物好きに、来店を告げるチャイムが鳴った。肥満体の店主は、気だるそうな顔を上げて、来客に息を飲んだ。
「警視庁組織犯罪対策部の
「マル暴がうちに何の用だ?」
店主は分かりやすく緊張していた。嘘が苦手な手合いだろう。
「天童会の組長と若頭が殺された事件、知ってるよね?」
都内で生き残る数少ない暴力団の一つ。中でも港区とその周辺に不動産を持ち、政界にも顔が利くという厄介な手合いが天童会だ。
その組長と若頭が揃って縄張りの六本木で襲撃され、護衛と側近も含め十六名が殺害されたとあって、都内ではこの話題で持ちきりだ。
「現場に残された銃の中に、この店で販売されたものがあったんだ」
穂乃香はポケットから折りたたんだ紙を開いて、カウンターに置いた。
「アルクティカ・ファイアーアームズ製、APSー10。販売記録と卸元の情報、見せて」
銃器に対する規制緩和から四十数年。国内で流通する銃にはどれもこれも一意の識別番号が割り当てられ、銃本体と紐付けて管理されている。現場で回収された銃が正規のルートで購入されたものならこうして店に辿り着けるし、当然どこの誰にいつ売ったのかも店には記録が保管されている。
「令状がないと見せられねぇよ。護身用の武器は立派な個人情報だ。あんたも警察ならそのくらい――」
防犯とコンプライアンス遵守が叫ばれる今の時代ならではの逃げ口上。予想していた態度に、穂乃香は店主の襟を掴んでカウンターに叩きつけた。
「悪いけどあたしは気が長くないんだ。マイナンバーから辿るのには裁判所の許可やら銃器取締局への義理立てやらめんどくさい手続きがあって、そんなの待ってる時間が勿体ないんだよ」
「だ、だからって暴力振るおうってのか!」
「あぁそうだよ! 何なら病院送りにしてやるよ! さぁ、大人しく記録見せるか長期入院するか、今すぐ選べ!」
鼓膜を破らんばかりに怒鳴り付ける穂乃香に、店主はただ震えていた。
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