『魏略』三題

灰人

 陳壽撰『三國志』に注を施した裴松之が依った史料の一つに、魚豢撰『魏略』がある。この『魏略』については唐代の劉知幾撰『史通』に「魏時京兆魚豢私撰『魏略』、事止明帝。(内篇題目第十一)」とあり、魏代に魏の人によって編纂された同時代史で、それに伴う弊害もあるとは言え、資料的価値は高いと言える。


 一方、同書外篇古今正史第二で劉知幾は「魚豢・姚察著魏・梁二史、巨細畢載、蕪累甚多、而俱牓之以畧、考名責實、奚其䘮歟」とし、『梁書』の初編者であった姚察と共に「巨細畢く載せ、蕪累甚だ多し」と、真偽の定かでない逸話を載錄しているとする。裴松之自身も引用しておきながら批判を加えている例もあり、同書が散佚している事も相俟って、利用には注意が必要な書物と言える。


 ただ、如何に「巨細畢く載せ」ているとは言え、全く定見無く載錄しているとは思えず、何らかの意図があったと考えられる。そこで、批判が多いと思われる、蜀漢に係わる逸話三題に関して、既に各処で言及され、論究し盡くされた感もあるが、少し視点を変えて、その載錄の理由の面に着目して考察してみたい。

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