信仰!狛犬ゲーマーズ!

@SIBAMARU

第1話 出会いの季節

春は出会いの季節!

...なんてよく言うけど、俺はこの春、全てを失った。


大学を卒業して約2年。勤めていた会社は超が付くブラックで、家に帰れるのは週に1、2日。

大学時代から付き合っていて、同棲までしていた彼女も、そんな仕事以外していない俺に呆れて出て行ってしまった。

それでも働き続けていた会社だったけど、結局俺も、先月体が耐えきれなくなって辞めてしまった。

俺に残ったのは、一人暮らしにしては無駄に広い部屋と、昔から集めてるゲームだけ。こんな状況なら仕事を探す間、引きこもりのゲーム浸り生活になるのは必然だろう。

でもこの昔から大好きだったはずのゲームすら、最近はなんだか惰性で続けているような、そんな感覚になる時がある。

「人生退屈だなぁ」

こんな言葉が口癖になる程に、俺は廃れた生活を送っていた。


「今日もそろそろ行くか...」

昼時も過ぎた頃、俺は重い腰を上げる。

流石に全く家を出ない生活はまずいと、最近日課にしていることがある。

近所の裏路地、ほとんど人に会うこともない道をしばらく歩くと、今の俺の生活と比べても良い勝負ができるほどに廃れた、古い神社がある。いや、恐らくもう管理もされていない廃墟に近いような場所だろう。

理由があれば外に出ることも苦ではないかと、ちょうど良い散歩になる距離のこの場所を毎日訪れては、なんとなく手を合わせて帰る。これが最近の俺の唯一の外出だ。

今日もいつものようにボロボロの鳥居に向かって手を合わせる。

「一緒にゲームする友達でもいれば、楽しくなるかなぁ」

お参りというシチュエーションのせいか、願望が不意に口に出る。


「いいぞ」

ん?...なんか聞こえた気が...恐る恐る顔を上げると、鳥居の下に白い毛の柴犬が行儀良くお座りしている。

いつの間に?今の声はどこから?そんな考えが頭を巡っているうちに、もう一度声がする。

「ゲームというのは現代の遊戯だろ?私も興味があるぞ!」

今度ははっきりと、目の前の柴犬から聞こえているのだと分かった。なんか尻尾も振ってるし。

唖然としている俺のことも気にせず、柴犬は続ける。

「私はこの神社を守る獅子...いや、今は狛犬と言うべきか」

「見ての通りここにはもうお前以外誰も訪れることもないから退屈でな」

「毎日お参りしてくれたお礼に、ゲームとやらに付き合うぞ!」

一通り話した柴犬は、得意気に胸を張って鼻を鳴らしている。

全く脳の処理が追いついていないけど、目の前の狛犬だと名乗る柴犬が喋って、ゲームを一緒にしたいと申し出てくれていることだけはなんとか理解した。合ってるよな?

「じゃあ...お願いします」

ゲーム友達が欲しいと願ったのは俺だ。俺にできるのは意味も分からぬままそんな返事をすることだけだった。

桜の花も完全に散ってしまった今日この頃。

俺にとっての春も、どうやら出会いの季節になるようだ。

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