異世界の龍と共に
@417
第1話
蝉が鳴いている。
空は快晴だが、青々とした木々を揺らす風はじっとりと湿っている。山の天気は変わりやすいから、もしかしたら雨が降るかもしれない。
そんなことを考えながら俺は登山口の脇に置かれたポストへ登山届を入れた。
今回の登山、これから2日かけてこの登山道沿いに両親の痕跡を探すことが目的だ。
ちょうど一年前、この山を登った両親が失踪した。
警察や山岳救助隊はヘリを飛ばし様々な手を尽くして捜索を行った。試験導入されたサーモグラフィー搭載のドローンによる捜索もだ。
しかし、両親の痕跡は見つからなかった。
地元では神隠しだの自殺だの様々なことを言われた。現代の神隠しなんてタイトルで地方の新聞に載ったりもした。
滑落ぐらいじゃ、かすり傷しか負わない…というかそもそも滑落なんかしないような人たちだ。
それにここは俺が小さい頃から両親とよく登っていた山で登山道も知り尽くしてる。
登山装備だってしっかり整えていた。
だからこそ、何も残さず居なくなるなんてことはありえない。なにかあるはず。
そう思い、俺はこの山を登る。
これが四回目の捜索だ。
山頂へ目を向ける。
背負った荷物は多い。寝袋にテント、水に食料、一泊分の荷物だとしても意外と嵩張るものだ。
「よし、行くか」
リュックの肩紐を締め直し、一歩踏み出した。
1日目は順調だった。
標高が上がり、背丈よりも高い草木がなくなる境目。おおよそ標高にして1400mぐらいだろう。
一泊を過ごす予定の広場へ着いた。
到着したのは夕方5時。
テキパキとテントを立てる。
昔、北海道の山に登った際、外に置いておいた荷物をリスに漁られ散らかされて以来、テントの中に荷物を入れておくことにしている、だからテントは2人用の少し大きいサイズだ。
テントを組み終わり、荷物を仕舞えば次にやることは飯の支度だ。
カップ麺などで簡単に済ませる登山者は多いが俺は違う。山で食う飯は美味いがちゃんとした飯を食えばもっと美味い。それに両親は俺が山で作るご飯が大好きだった。
こんな風に料理を作っていればそこらの茂みからふらっと出てきてくれるんじゃないか…ふとそう思いながら、調理器具を取り出す。
今日のメニューはアヒージョだ。
エビとマッシュルームたっぷりのやつ。
料理は下準備が大事だ。
山登りの時は事前に献立を考えて、カット済みの野菜や小分けにした調味料を持ち込んでる。
冷凍してあったむきエビとブロッコリーをバックから取り出す。日中歩いている間にほどよく解凍されている。
小型コンロにスキレットを乗せ、オリーブオイル、ニンニク、唐辛子を入れ弱火で加熱。
ニンニクの香りが出てきたらマッシュルーム、むきエビの順で入れそのまま10分。
最後にブロッコリーを入れ、塩で味を整えれば完成だ。
もちろんフランスパンも忘れてない。
一口サイズにカットしたものに小分けの容器に入れてある。
コンロからスキレットを下ろし、湯沸かし用のポットをおく。初夏とはいえ、山は冷える。
ティーパックを入れ、そのまま煮出す。
ふと空を見上げると星空が広がっていた。
フォークでむきエビを刺し、口に運ぶ。
オリーブオイルとニンニクの香り、少しの塩気とエビのプリっとした食感。
夜空を見上げながら食う飯は美味かった。
気がついたら、スキレットに残ったオリーブオイルをパンに染み込ませ、最後の一口を放り込んでいた。
この満足感は街では味わえんと思いながら、折りたたみ椅子に深く腰掛ける。
食後に一息つく、この時間が至福だ。
しばらくのんびり過ごし、片付けを始める。
暗くなったこの時間にはヘッドライトが役に立つ。
夜風にあたりすっかり冷たくなったスキレットをキッチンペーパーで包み、ジップロックへ仕舞う。
この料理のいいところはゴミが出ないところだ。
今日は早々に寝ることにした。
痕跡を探しながらの登山は非常に疲れる。
テントの入り口の蚊帳を閉め、夜空を見上げる。
明日からは岩場を登る。もし両親が滑落してならば一番確率の高い地点だ。より一層目を凝らさないといけない。
そんなことを思いながら目を閉じればいつの間にか眠っていた。
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