7-4. 目論見
全世界に展開されている環境問題の位置づけは、米中摩擦を加速させる『後押し』でしかない。
それを知らず、グラスを鳴らし飲み交わしては楽しそうに過ごす目の前の男女たち──。
聞こえている彼らの会話にはネガティブなものはなく、事を為すことが出来た万巻の思いでいっぱいなのだろう。……一部では男女の関係性を仄めかすような言葉や仕草も見られた。
──結構な限りだ。しばらくは踊っていてもらおう。
彼ら含め蜂起に参加している各々には蜂起の真の目的・意識共有はしていない。それは、得られる最大の結果を見て情報統制を敷いていたからに尽きる。
もとより、ここに集った者たちは法に抵触しようが自身の利益を求めて集った者たちである。
利益を最大限に求める彼らとは、はじめから向かう
……全体が全体、それに合わせてしまえば、それこそ成し得たい結果が中途半端になる。
それゆえ、各々にははじめから縦割りに割り振った
──『幹部』とされる者を除いては。
だからこそ、各々が自身にとって都合のいいように解釈している。
いま世間を騒がせているのは、自分たちであると錯覚して──。
改めて、環境問題という題材が優れていることに気付かされる。
取っつきやすい問題であることに加えて、万人受けする問題でもある。また、訴えの土壌となりやすい問題だけに共感も得やすく拡散もし易い。
それだけに世界各国に広がっていくことは容易に推察できた。
そのじつ、いまもまた一人、また一人と連鎖的に反応していっている──。
結果、世界における蜂起を切り口にした原子力発電に付随する環境問題は、環境破壊という問題だけに留まらず、この国の行政上の問題に繋がっていった。
そして、蜂起の切っ掛けとなった『要求』を受けて行政上の問題は米中摩擦へと切り替わり、渦中の隷属議員にまで伝播した。
……いずれ国内報道・論争も、その後押しを受けて、その渦中にいる隷属議員に
枝一本も残すことなく、大きく燃え広がって燃やし尽くしてくれることを待つばかりだ。
──じつにうまい。
グラスを口から離し傾ける。
この手の果実酒を扱ったカクテルは、苦手と感じていた。……特に甘さを受け入れられずにいた。
それが『勝利の美酒』というのか見事緩和させてくれていて美味く感じさせてくれる。不思議なものだな。
周りは変わらず歓談の華が咲き誇っていて、いまが蜂起している最中とは思えない程に遠くに感じる。
見やれば、個人個人が蜂起に参加した動機、思い。いまに至る経緯と労苦。はたまた息があったか連絡先まで交換し笑い合っていた──。
……よくも自身の口から情報をペラペラと曝け出すものだ。少なくともここでの繋がりこそ『足枷』にしかならないのにも関わらず。
いま開かれている式典は我々を纏め上げた『首領』による取り計らいだと伝え聞いている。
表向きは『気の早い祝勝会』であるが、聞けば『縁談』という意味合いもあるらしいではないか!?
なぜ、事を為したあとにも続けて彼らと縁を持ち続ける必要があろうか──。
むしろ、邪魔になる。後顧の憂いたる、枷に近いものを自分から近づいていく者はいったいなにを考えているのだろうか。
しかし、その疑問も思いのほか、すぐさま解けてしまう。
──なるほどな。
彼らの素振り、そして口にしている言葉の『本質』。
それらは自身の役目を大方無事果たせたことによるもの。
それ以上に、これからの自身に降りかかるであろう出来事を悲観しての思いが心内から溢れ出てしまって、どうしようもなくなった自分自身を納めようと、もしくは慰めてもらおうと意識を逸らしていた、のかもしれない。
思えば当然か──。
この『お祭り』も、いずれ終わる。
終われば──幕切れすれば、当然ここにいる者たち全員が鉄格子のなか──。
もしくは『いない』のだから。
だからこそ、短くも短いひと時を共にした者たちとの、いずれ来る別れを想わずにはいられないのだろうな。
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