氷雨に猩猩緋

千崎 叶野

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暗くて持ってきたランプの光では足元を照らしきれない冷たい洞窟。イヴは慣れた足取りで奥に進んだ。手に持つランプはあくまでお飾りだ。歩きなれたこの道はイヴにとってなんの問題もなかった。階段の最終段はちょっとだけ感覚が狭くて、右に曲がったら大きな岩肌があるから気をつけること。もはや明かりは歩行の邪魔でさえあった。それでも毎度ランプを持ってくるのには訳があった。

「……アルカナ」

オレンジ色のランプをアルカナと呼んだ少女の頭の横に置く。薄く照らされた肌は滑らかで、長いまつ毛が頬に影を落としていた。そっと手で輪郭をなぞると、冷たくてぞっとする。それでも彼女は、綺麗だ。

「返事くらい頂戴よ」

それが今は叶わないことくらい分かっていたが、それでも声に出してしまった。氷のような美しい輝きの髪の毛を梳く。

彼女は伝説で、主である神で、私の最高作品。イヴはアルカナの頬に誓いの口付けを落とした。


目を開けると真っ暗闇であるが、少女には全てが見えた。立ち上がって裸足のまま洞窟を歩き回る。冷たくて気持ちが良い、自分にもそんな感覚が残っていたのだと驚いた。手を岩肌にかけると鋭く手のひらに刺さった。それでも強く押し付けると冷たくなってからすぐ暖かくなって、そしてじんじんと痺れてくる。生きていて、身体が自由に動き、生命が呼応している。死にきれなかった命が、また始まった。

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