高校生活にも飽きてくる今日この頃
たくあん定食
第0話 社会的不幸な僕の誕生日
<杉浦灰斗の独白>
高校三年の五月、サッカー部に所属していた僕、
(サッカーはもうやらないかな、飽きた)
心の中でそう呟いてチームメンバーと解散した。
飽きたといっても、ただ飽きたのではない。サッカーは小学1年生の時からずっとやってきた。しかし既に、その積み上げてきたものを考慮したとしても、限りある人生を使ってまでやることではない、熱量を注ぐに値するものではない、と思うようになった。今後一切自分からサッカーをすることはない。自分の好きなものが一つ消えた。そして残ったのは、数学ただ一つだけだった。
部活が終わると受験勉強を本格的にやり始めた。大学で数学を勉強するために、数学科があるなるべくレベルの高い国公立の大学を第一志望にした。高校一年の前期に数学科に進学しようと決め、二年の後期に具体的に大学を決めた。
知り合いに数学科志望の人は居なかった。そもそも学校内で理学部志望の人が少なく、自分が少数派なのだと知った。親戚には、数学科は考え直した方が良いと言われる始末。自分には数学しかないのだ。これは一時の感情なんかでは決して無い。
そんなこともあり、経済的な不自由さは少ない家庭なので、県外の大学で一人暮らしをして、邪魔者無しで数学が勉強できる逃げ場所をつくろうと思った。
人生かけてやりたいことが数学ただ一つしかない。このことは、僕としてはそんなに悲しいことでもないが、社会から見た自分は、どうも理解できない存在であるらしい。
将来やりたいことが決まっている人が羨ましい、そんな意見をよく聞く。僕はそんなことは思わない。就職して働いて、結婚して、子供を育てて、そして死ぬ、そんな社会的レールから外れようとなど微塵も思わず、その営みが自分の幸せだと思えたらどれだけ良かっただろうか。僕はもう戻れないほどに思考が固まってしまった。それは、数学という、嫌いになることができないくせに、狭い進路しか存在しないような蟻地獄に捕まってしまったからである。社会的疎外感や将来に対する不安、これはもうどうしようも無いのである。
高校三年生に上がって間もない頃は、放課中はクラスの何人かと話して過ごしていた。そして、だんだんとクラスメイトの人柄が分かってくるわけだが、どうにもその中に価値観が合う人は居なかった。そして、興味のない話題を話すことにだんだんと疲れてきたので、新年度になってから一ヶ月経った頃には、既に1人で過ごすようになっていた。他人の容姿、恋愛沙汰、愚痴、内輪ノリ、ゲームアプリ、心の底から興味が湧かない。
僕は一人でいることを苦痛に感じないタイプの人間で、朝のホームルームや昼休憩、放課中も、騒がしい教室の中で一人で勉強して過ごしていた。
朝8時に起きる
自転車で学校へ行き 授業を受ける
学校が終わったら 塾で勉強
22時頃家に帰宅
ゴロゴロして24時寝る
毎日この単調な景色の繰り返しだった。
いつからこんなにも息苦しい価値観を持ってしまったんだろうか。
中学の卒業式、式が終わってから友達数人で今までの学校生活を思い返していた。ふざけあったこと、先生のこと、そして同級生のこと。そんな中で友人が、いつも一緒に過ごしていた恐らく友達であろう(少なくとも僕からはそう見えていた)人物のことを、気に入らなかったと、まるで僕を含めた周りの人が、当然そのことを以前から知っているかのように言ったのだ。僕以外の皆はそのことを分かち合っていて、その人の話で盛り上がっていた。知らないのは僕だけだった。
分からない。僕もその話題に上がっている人とはよく話していた。気に入らないなどと思ったことはない。ましてやその友人は気に入ってないのにも関わらず一緒に過ごしていたということだ。
分からない。あからさまに嫌われている人は何人か居た。しかしそういうのでは無く、感情を隠して接する、そんな気味の悪い関係性を持つというのは女子特有の習性だと思っていた。だから、それを皆が当たり前にやっていることだと知って、心底がっかりした。
その中学の友人には、自分と違って、己の像に対する縛りみたいなものが無いのだろう。ただ、僕が信じていたその縛りは、僕をじわじわと不幸へ追いやっていった。
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