後輩とシェアハウスすることになりました

ますぱにーず/ユース

始まりはいつも突然

「なぁ響谷」

「ん?」

「今日シェアハウスの子が来るから、よろしく」

「…はぁ?…え、…えぇ?今から?」

「今から。っていうか、まあそんな反応になるよな」

「『なるよな』じゃねえよ。こういう反応になる前に言えって…」

「生憎仕事が忙しくてな。…なに、女が一人増えるだけだ、十何年女と一つ屋根の下で過ごしてきたお前ならわけないだろ」

「言い方をどうにかしろ。…ってか、保護者を異性として見る訳ねぇだろ」

というかそれより、シェアハウスに来る人って女性なのな…。

「…ん~、それなりに魅力はあると思うんだがな」

「婚期逃したくせによく言うわ」

「うっせ。ってか私はまだ30代だ」

おう、そうだな。まだ、な。

「…まあ、もう殆ど40歳とは全然見えんがな」

「…そんじゃまあ、私はこれから友人と飲み行くから」

「…今から?」

「おう」

「…わーったよ。そんで、シェアハウス予定の子はいつ来る?」

「ん~…まあそろぼち来ると思うけど」


丁度そのタイミングで、葵のスマホから電話の着信音が鳴り響く。

「…はい、もしもし。…ん、着いた?…ちょっと待ってな、確か鍵…渡したはずだけど。…おう、入って来ても大丈夫」

…なんでインターホンを鳴らさないんだろう。

そんな事を思いながら、シェアハウスに来た人が家に入ってくるのを待つ。


それから暫く待っていると、リビングの扉が開いて、一人の女性が入ってくる。

「きょ、今日からお世話になります、綾川あやかわ朔乃さくのです…」

緊張して強張った声で自己紹介をした彼女が、俺と目線を合わせる。

「え…っと…その、よろしくお願いします」

「あぁ、はい。…綾川あやかわさんでいいですか?」

「はい」

「よろしく、月守つきもり響谷ひびやです」

「あれ、月守つきもり嘉山かやまじゃないんですか?」

あおいお前さぁ…。あ、おいこら目逸らすなや。

「あぁ…えっと、まあそれはちょっと事情があるだけなので…」

「そ、そうなんですね」

「…そんじゃ、私は飲み行ってくるから、あとは適当に親睦会でもしといてな~」

…はぁ。

「まあ、取り敢えず座ってください。…えっと、お茶で良いですか?」

「あ、はい」



取り敢えず綾川あやかわさんをダイニングの椅子に座らせて、お茶を淹れて綾川あやかわさんの前に置く。

その後、綾川あやかわさんの対面に座る。

「…えっと…」

「………」

…気まずい…。

「あの、月守、さんは…何歳ですか?」

「俺は…えっと、17ですね」

「あ、年上…。それで…学校は…」

綾西りょうせい高校の2年生ですね」

「…という事は、先輩なんですね。私も綾西りょうせい高校の1年生です。…あと、なのでその、ため口でお願いします」

「あぁ、ため口で良いの?助かる、敬語疲れるし。…じゃあ綾川あやかわさんもため口でいいよ」

「え?いいんですか?」

「うん、だって俺別に尊敬されるような人間じゃないし。『目上だから敬われて当然』みたいな考えはどっちかと言うと嫌いだし」


「そうなんですね…でもなんか、敬語の方がしっくりくるので敬語でお願いします」

「分かった。…あ、ご飯って食べてきた?」

「あ、いえ…まだです」

「りょーかい、なんか食べられない物とかある?単純に嫌いって理由なら特に気にせず料理するけど」

「食材のアレルギーとかは特にないです。好き嫌いもしない方だと自覚してます」

「分かった、それじゃあ適当に作るからちょっと待ってて」

「え、あの、先輩って料理できるんですか?」

「んー…まあ人並みに?」

「あの…別に無理して振舞わなくても、私料理できますよ?」

「うん、別に無理はしてない。あと料理も普通にできるから大丈夫」



そんなこんなで、取り敢えず焼き魚と味噌汁、ご飯をちゃちゃっと綾川あやかわさんの分と合わせて2人前。

…鯖が丸々1匹だったのが何だかなぁ。いつも切り身なのに…。あとであおいに文句言っておこ。

「…魚…捌けるんですね…」

「ん?まあ一応。最低限食えるレベルの食事なら作れる」

あおいの方が断然家事は上手いんだけどな。

「…まあ、不味かったらすぐに言ってくれな」

「はい。いただきます」

そう言って、綾川あやかわさんが塩焼きした鯖を一口食べる。

「…美味しい…」

「そう、良かった」


時折『美味しい』と呟きながら、中々のスピードで綾川あやかわさんの前にあった鯖や味噌汁が減っていく。

「…ごちそうさまでした」

「お粗末様」

「とっても美味しかったです」

「そりゃよかった」

「あの…先輩は食べないんですか?」

「ん?ああ食べる食べる」

俺も椅子に座って、ご飯を食べ始める。…若干塩が薄かったかも。なんて思いつつ、完食する。

「ごちそうさまでした。それじゃあ、食器とかの片付けはやっておくから、先にお風呂入ってきていいよ」

「私も手伝います」

「いいの?」

「はい」

「そんじゃあ…取り敢えず自分の分の食器洗ってくれる?」

「分かりました」



…先輩…少なくとも、悪い人ではなくて良かった。

それにしても…あの鯖美味しかった…。私が食べてきた料理の中で、過去一美味しかったと思う。…まあ、特別高級品とかを食べていたわけじゃないんだけど。

あおいさんは嘉山かやま…なのに先輩は月守つきもり…。なにか、複雑な事情でもあるのかな…。

私は浴槽に浸かりながら、そんな事を考える。…今更。シェアハウスをしているんだと実感が湧いてくる。

なんだか、明日から少し楽しみかも。


――――――――

作者's つぶやき:綾西高校、調べたら綾瀬西高等学校ってところがヒットするんですけど、全く関係ないです。

一応『綾西』という名前の学校は調べた限りなさそうだったので良かったです。

それにしても、私も少し響谷くんの料理が食べたいです。炒飯でもオムライスでも、美味しそうなので。

始まりはいつも突然…モモタ〇ス…佐〇健…うっ頭が…。

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