おかあさん

かすみん。

第1話 ハートのネックレス  

「これ、よかったら、使って。」

差し出されたのは、小さな可愛いネックレス。

リバーシブルになっているハートの形のトップが付いている。

母が言うには、表は、赤いルビーのハート、裏は、ホワイトサファイヤのハート。

「私には、もう、このデザインは若すぎるから。」

と、言って渡された。


アクセサリーをつけるのは、好きだが、メッキでないものをもらったのは、初めてだった。

母、と言っても、実の母ではない。のちの義理母である。

しかも、この時、私はまだ結婚していなかったから、まだ、母、と呼べる立場ではなかった。

だから、見るからに、高価そうなものを、もらっていいものか、すごく悩んでしまって、最初は受け取りをお断りした。

数回、遊びに行っただけの、息子の恋人である私に、母は、

「もし、息子と別れるようなことになっても、私は、ずっと、あなたと、お付き合いするからね。だから、遠慮はいらないのよ。」

と言った。


21歳の私には、その言葉を言った母の気持ちは、理解できなかった。


でも、この時、母は、私と彼が結婚することをすでに、わかっていたのかも知れない。



結婚して、子供もでき、34年の月日が流れた。

その間、いろんな、ネックレスをお祝いの時にもらった。


だけど、この時もらったネックレスは、一番の私の宝物である。


いつか、息子に結婚する人が現れたら、私は、これを一番最初に渡したい。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おかあさん かすみん。 @kasumin27

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画