第46話 ハーフオークは大量のミスリルをゲットする
ミスリル・ゴーレムの攻撃が無くなって、坑道の入口でほっとしていると爺が嬉しそうに近寄ってきた。
「ふふん。黒旋風を返す気になったか?」
「この鉱山が使えなくって困っているんじゃないのか?」
「うっ。・・・それは別の奴らがアイツを倒せばいいんだ。」
「それが無理だから、俺に挑戦させたんだろ。」
「うっ・・・」
「兄さん。私が魔法を放とうと思うの。ミスリル・ゴーレムには魔法が効かないって話だけど、私の魔法なら効くかもしれないわ。
それに、坑道の入口から魔法を放てば、だれも怪我しないから、試してみる価値は充分あると思うの。どうかしら?」
トリクシーがいつもより、テンション上げて話しかけてきた。
トリクシーの魔法は威力がありすぎて、放つ機会があんまりないからな。
「それだったら、黒旋風を返せって言われるから、もう1回だけ、チャンスをくれ。
ディー、頼む。その大盾を貸してくれ。」
「いやや!この大盾はワイのモンや!」
ディーは大盾を大事そうに抱え込み、それを見た爺がニヤニヤ喜んでいた。
「ええぇ~。」
「代わりに、ワイがニイヤンの盾になって突っ込んだる!
ニイヤンはワイの後ろを小さくなってついて来るんや!」
「ディーデレック、危ないから、その盾をソイツに渡すんだ!」
「お爺ちゃんは黙っといて!『ハーフムーン』の盾師はワイなんや!」
爺の心配をよそに、ディーの赤い瞳は固い決意で燃えていた。
「・・・わかった。半分まで俺の前を進んでくれ。残りは俺一人で行く。
ディーは自分が絶対怪我しないように注意しろよ。」
「了解や!」
「ディーデレック、止せ。」
「ワイはこの大盾を作ったお爺ちゃんのために頑張りたいんや。」
ディーが爺に優しい言葉をかけると、爺の目は赤く潤んだ。
「おう、絶対にケガするんじゃないぞ。」
「おーきに、お爺ちゃん。」
ディーは爺に背を向けると、悪い笑みを浮かべた。
女優だ!演技派女優だ!
「よっしゃ、ニイヤン、行くで!」
「おう!」
ディーが大盾を構え、坑道に小走りで進入した。
俺も体を縮めに縮めてディーの後ろをついていく。
前から、ゴツン、ゴツンと大盾が石を弾く音が聞こえた。
一呼吸おいて、投石が大盾の上、ギリギリを凄いスピードで通過して、
ディーのアフロをなぎ倒していった!
「ディー!」
「ニイヤン、行くんや!」
俺の悲鳴を他所に、ディーの平然とした声が聞こえた。
まただよ!
シリアスがぶち壊しだよ!
俺はディーの横へ出て、スピードを上げる。
ミスリル・ゴーレムまであと5メートル!
ミスリル・ゴーレムが右腕、左腕から拳ほどの石を俺目掛けて投げてきた!
全力で走りながら一つの石は黒旋風で突きを放って粉砕した。
一つは左肩に当たってめちゃくちゃ痛いけど、我慢だ。
「痛いじゃね~か!」
俺はそのまま走って、ミスリル・ゴーレムが次の石を投げる前に、
黒旋風の突きをミスリル・ゴーレムの胸にさく裂させた!
ドゴォ!
膝立ちのミスリル・ゴーレムは、俺の突きを食らい
胸がベコリと凹んで倒れそうになったが、おきあがりこぼしのように、
起き上がろうとしてきた!
俺は黒旋風の振り上げ、ミスリル・ゴーレムの右ひじを狙った。
ガツン!
石を投げようとしていた右腕は黒旋風の一撃で肘がちぎれかけ、
ミスリル・ゴーレムの体はバランスを崩した。
さらに、左腕から投げられた石は大きく外れた。
チャンスだ!
今度は左手目掛けて黒旋風を振り下ろし、ミスリル・ゴーレムの左手を粉砕した。
大ダメージを与えたはずなのに、痛みを感じないミスリル・ゴーレムはちぎれかけた右腕で殴ろうとしてきた。
俺はその右肘にもう一度、黒旋風を叩きつけると、肘から先がボトリと地面に落ちた。
だが、ミスリル・ゴーレムは右腕を攻撃された反動で、左手首で俺を殴ろうとしてきた。
速い!
「「リュー兄ィ!!」」
キン!
ミスリル・ゴーレムの右肩関節に矢が当たったが跳ね返されていた。
キン!
突然現れたディアナが居合一閃したが、左腕は斬れてない!
手ごわい!
俺は避けることが出来ず、ミスリル・ゴーレムの左パンチを鎧の肩当てで受け止めた。
ガチン!
殴られた俺は吹っ飛んで、背中を壁に激しくぶつけた。
「ぐふうぅ。」
右肩に激痛が走っていた。これ、右腕使えないんじゃ・・・
「ニイヤン!」
悲鳴を上げながらディーが回復魔法をかけてくれると、痛みが半減した。
殴られた肩も動くぞ!
「ありがとう、ディー。」
石を投げられなくなったミスリル・ゴーレムは立ち上がって、
右腕は肘で、左腕は手首でディアナを殴ろうとしていた。
でも、ディアナは、スピードで圧倒しているから、かすりもしない!
でもでも何度も斬りつけているが、剣が一切効いていない!
「ディアナ、ありがとう。俺がやる!」
「お願い、リュー兄ィ☆」
ディアナが後ろに下がると、ミスリル・ゴーレムは俺に相対した。
そして左手首で殴ろうとしてきた!
だけど、動きが遅い!
俺は黒旋風を思い切り振り上げ、ミスリル・ゴーレムの左肩に振り下ろした。
ガキン!
ミスリル・ゴーレムの左肩がつぶれ、左腕を無力化した!
痛みと恐怖を感じないミスリル・ゴーレムは右足で蹴って来た!
俺はバックステップして躱すと、今度は左膝に黒旋風を振り下ろした。
ガキン!
ミスリル・ゴーレムの左足がヘンな方向に曲がり、奴はバランスを崩して倒れた。
ミスリル・ゴーレムは腹ばいとなっていて、手と足を動かしているが、起き上がるどころか、前にも後ろにも動くことは出来なかった。
ふ~。
緊張感に溢れていた坑道内の空気が一気に弛緩した。
「どうやったら死ぬかな、コイツ。」
「ゴキブリは頭をつぶすにゃ。」
「やってみる。」
ミスリル・ゴーレムの頭に向かって、俺は思いっきり黒旋風を振り下ろした。
ガキン!
歪な球体だった頭が分厚いコインのような形になって、大きな亀裂が入っていた。
だけど、まだ蠢いている!化け物め!
「リュー兄ィ、もう一度、斬らせて☆」
ディアナが深呼吸してから、腰を落とした。
キン!
ディアナが居合一閃すると、ミスリル・ゴーレムの頭の亀裂から、
腰まで一直線に線が引かれていた。
パキッ!
「動かない状態だけでも斬れて良かった☆
次は、動いていても、斬ってみせるよ☆」
高く掲げた剣に向かって決意しているディアナがカッコ良かった。
ミスリル・ゴーレムの背中の切断面が広がっていて、左胸に光るものが見えた。
「ミスリル・ゴーレムの魔石、ゲットだにゃ!」
アレッタが魔石を胸から取り出すと、ようやくミスリル・ゴーレムは動かなくなった。
爺がミスリル・ゴーレムの切断面をじっくりと見ていた。
「なんだ、ミスリルは体の表面から3センチほどか・・・
まあ、それだけでも十分だが・・・」
ここの鉱山では1年に10キロのミスリルが産出するらしい。
このミスリル・ゴーレムからミスリルが50キロは軽く採れるだろう。
爺はニヤニヤが止まらないみたいだった。
「おい、このミスリル・ゴーレムは『ハーフムーン』が倒したんだから、
全部、俺たちのモンだぞ。」
「なんだと!こいつを倒せたのは黒旋風のお陰だろうが!
それに俺が口を利いてやったから、コイツと戦えることになったんだろが!」
「うっ!」
嫌味を言ったら、言い負かされてしまった。
トリクシーがミスリル・ゴーレムに殴られた俺の右肩を心配そうに触った。
「兄さん、殴られていたけれど、大丈夫ですか?
石も当たっていましたよね。私、心配です。
でも、ずるいです。私、また見ているだけでした。
私も役に立ちたかったのに。」
「あ~。・・・ダメだったら、トリクシーにお願いしようと決めていたから、
思い切って行けて、勝つことが出来たんだ。トリクシーのお陰でもあるよ。」
トリクシーは花が咲くように笑った。
「兄さんの役に立てて嬉しいです。」
いや、口から出まかせだったんだけど、喜んでくれてよかった。
トリクシーは素直で可愛いな!
「よし、じゃあ市長へ報告に帰ろう。」
爺は自分が倒したかのように、意気揚々と先頭に立って歩きだした。
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