第20話 元恋人は『ブルースカイ』に加わってみたい

☆、応援コメントありがとうございます!

これから3話、エステルさんの昔話です。


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臨時で加わる予定だったハンネスにドタキャンされてしまった。


だけど、『三ツ星』はそれまで、ピンチらしいピンチになったことがないから、

「まあ、大丈夫だろ。」ってなって、61階以上に3人だけで挑戦することにした。


61階は問題なく突破して、62階を歩き出した。

しばらくなんにも起こらなかったんだけど、向こうからハイオーガが出てきた!


カロリーンたちのアドバイス通り、さっさと逃げ出してみたら、ハイオーガはホントに足が遅くて、簡単に撒くことが出来た。



だけど!

ダミアンが罠に引っかかって矢を2本も受けてしまい、さらにレッドキャップ5匹の奇襲を受けてしまった!

なんとかレッドキャップを倒したものの、ダミアンが受けた矢には毒が塗っていて、さらにダミアンはレッドキャップに顔を傷つけられていた。


そのうえ、リュークはダミアンをかばった時に、レッドキャップに膝裏を傷つけられてしまった。


唯一の中級ポーションをダミアンにかけて、低級ポーションをリュークにかけると、

二人は動けるようになったものの、万全には程遠い状態だった。


そんな時、さっき撒いたハイオーガが追いついてきたんだ。

私は、ハイオーガに自分の最強の魔法を放った。

だけど、ハイオーガには全く効かなかった!

ああっ!どうしたらいいの?


「エステル、逃げろ!」

「俺たちに任せておけ!」

リュークとダミアンが、初めて見せる悲壮な笑みを浮かべていた。

「そんな!みんなで逃げようよ!」

私はリュークとダミアンの腕をぎゅっと掴んだ。


「この体じゃ無理だ。エステルは味方を探してくれ。」

「それまで死なないように、いなしてみせるからさ。」

リュークとダミアンに軽く押されて、私は走り出した。


「すぐに戻るから!」

走りながら私は泣いていた。

仲間なんているハズがない!

もう2人とは会えないんだ!リューク!

だけど、私は助かったって安心していた。

自分がこんな、浅ましい人間だなんて知らなかった・・・


61階に上って、しばらくして『ブルースカイ』に出会った!

どうしてここに?

「助けて!」

「エステル?なんで一人なんだ?」

「助けて!62階で、リュークとダミアンが!」

「急ぐぞ!」


なんとか道を思い出して、現場にたどり着いたら、頭が無くなってしまった戦士と

右足の膝から下が無くなったリュークが倒れていた。

「リューク!!!ダミアン!!!お願い!二人を助けて!なんでもするから!」

私にしがみつかれたアルナウトは目を伏せて、シーラに指示した。


「超級ポーションをア・・・リュークに。・・・ダミアンはもう、無理だよ。ごめんな。」

「そんな・・・」

アルナウトは泣きだした私の肩を優しく抱きしめてくれた。


リュークは超級ポーションを掛けられるとすぐに目を覚ました。

そして慌てて辺りを見回し、倒れているダミアンに這って近づき、その体にしがみつき、号泣し始めた。

「ダミアン!!!」

私はそれを茫然と見ていた。


「・・・魔物が寄ってくるぞ。もう帰ろう。」

アルナウトの提案に肯き、私はリュークの肩に手を置いた。

「リューク、ダミアンを連れて帰ろう・・・」

「・・・うん。」

リュークは丁重にダミアンの体を抱え上げ、また肩を震わせながら歩きだした。


私がその後ろをとぼとぼと歩き出すと、セシリアとシーラが肩を抱いてくれた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ダミアンのお葬式が終わって、私とリュークは並んでぼんやりと立っていた。

まだ、ダミアンが死んだなんて信じられない・・・


「お前のせいだ!」

突然、大きな怒声が青空の下に響き渡った。


ダミアンの恋人、ダフネがリュークのお腹を思いっきり殴った。

「お前のせいだ!なんでお前が死ななかったんだ!

お前が死ねばよかったんだ!

返せ!  ダミアンを返せ!  返せ!」


何度も、何度もリュークを殴り続けたダフネをその両親が無理やり引き離し、そして引きずりながら連れて帰っていった。

私は呆然とそれを見届けていた。


「・・・リューク、大丈夫?」

「・・・うん。」


「悪いんだけど、ちょっと話いいかな?」

アルナウトの遠慮したような声が聞こえたので振り返ってみると、お葬式に参列してくれていた『ブルースカイ』が並んでいた。

「こんな時に悪いんだけど、リュークに使った超級ポーションのことなんだ。」

超級ポーション。時間が経っていなければ、四肢の欠損すら回復する凄いポーション。

お陰でリュークの足は元通りになって、普通に歩くことが出来ている。

いったい、いくらするんだろう・・・


リュークが慌てて、アルナウトに向かって頭を下げた。

「ああ、あの時は助けてくれてありがとう。いくら返せばいいのかな?

すぐには無理だと思うけど、必ず返すから!」

「大金貨100枚(5000万円)だね。」

大金貨100枚!

私が持っているのは、ようやく大金貨10枚なのに!


「そこで、提案があるんだ。リュークはまだ、足が万全じゃないんだろ?

リュークの足が治るまでの間1か月だけ、エステル、『ブルースカイ』に加わってくれないか?

今、80階で停滞しているんだ。ぜひ、エステルの手助けが欲しい。

それで、超級ポーションの貸しは無しにしてもいい。」


その言葉に私ははっとしてリュークを見つめた。

『ブルースカイ』に加わってみたい!

アルナウトの戦いを近くで見てみたい!


「・・・ちょっと、相談する時間をくれないか。」

「明日、ダンジョンに潜るつもりだ。できれば今すぐに返事が欲しい。」


リュークは小さく肯くと、私を促して歩き出し、木陰の下で振り返った。

リュークは困り切った顔をしていた。

「僕は・・・よくわからない。お金は大事だ。でも、エステルとずっと一緒にいたい。・・・エステルはどうしたい?」

そう私の意見を尋ねながらリュークの目は、一緒にいて欲しいと言っているような気がした。


ゴメン。

リュークのことは愛しているけれど、今は少し離れたい・・・

「・・・大金貨100枚を用意するのは難しいし、リュークは今、無理できないでしょう?『ブルースカイ』はみんな、私と同じように魔法と剣を使うらしいわ。

彼らと一緒に戦うことで、私はもっと、もっと強くなれると思う。1か月だし、

『ブルースカイ』で戦ってみたい。」


リュークは笑顔をつくって肯いてくれた。

無理やり作った痛々しい笑顔だった。

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