勇者パーティー、魔王と対峙する

「剣士も意外と悪くないわね。私はこれで魔法を極めることにしたわ」

 などと意味のわからないことを言って女剣士は持っていた剣に炎をともらせ、襲いかかってきた魔物を両断した。


 女性陣の転職を無事済ませ、勇者、戦士、元魔術師の女剣士、元(?)盗賊の賢者という布陣になった我がパーティーは、戦力の底上げレベルアップもそこそこに世界中をまわって魔王討伐への手がかりを探していた。


 いや、魔王の居城へ行く方法はもう何千回もプレイしてるから十分知ってるんだがな。


 東の島国では魔物が化けた巫女を退治し、新大陸では王に化けた魔物を退治し、その他新しい町の立ち上げを手伝ったり、船が難破して死んだ若者の無念を晴らしたり、いろいろなことをした。


 そして勇者(俺のことだ)の父親が沈んだという火山の火口を経由して日の差さぬ暗闇の支配する山奥にある魔王の居城までたどり着いた。


「勇者よ、よくぞここまでたどり着いた」

 かつては世界一の栄華を誇った古代王国の、今は荒れ果て廃墟となった城の奥深くに魔王はいた。


 多くの魔物を操り、各国の中枢にまでその手先を送り込んでいた魔王。その姿は想像していたようなおどろおどろしい魔物の姿ではなく、二重顎で、腹の出た、金髪をオールバックにした冴えない中年のオッサンだった。


「なによ。この臭そうのが魔王なワケ?」

 転職しても相変わらず口の悪い女剣士が心底嫌そうな顔をして言った。彼女は脂ぎったオッサ……中年男性が何よりも嫌いなのだ。


「でも、いいもの持ってそうだよね。あたしの新開発の魔法、試してもいい? バッチリ盗めると思うんだ」

 魔法で各地の金持ちの屋敷に忍び込んでは盗みを働きまくっている賢者がうれしそうに言った。彼女は金を持ってそうなオッサ……中年男性が何よりも好きなのだ。


「あー、もう好きにしろ。魔王戦なんだから、ちょっとは戦士を見習って緊張感を持てよな」

 こいつらが俺の指示を聞かないことにはもう慣れた。俺は横で油断なく剣を構える屈強の大男を見た。こいつだけが頼りだよ、ホント。


 とはいえ、そういう俺も魔王戦に関してはあまり心配していない。魔王戦は攻略方法が確立しており、負ける要素がないからだ。


 そんな俺たちの雰囲気を敏感に察したのだろうか、魔王を自称する中年男性は顔を真っ赤にして地団駄をふんだ。


「だー、貴様ら! 我は魔王ぞ! 世界を恐怖に陥れ、破滅へと導く魔王だぞ! 少しは魔王に対する態度というものをだ――」

 ダミ声でオッサンがわめくもんだから、俺も少々イラッときた。


「あー、そういうのいいから早く正体をみせろよ。こっちは急いでるんだ」

 引っこ抜いた鼻毛を確認しながらぞんざいに言うと、さしもの魔王もカチンときたようだ。


「言われんでも見せてやるわ! あとになって吠え面かいても遅いからな!」

 もはや魔王としてはもちろん、成人男性としての威厳も全くなくわめき散らしながら、魔王は光に包まれ、巨大な竜の姿へと変貌した。


『フハハハハハ。貴様らごとき人間、骨も残らぬほどに焼き尽くしてくれるわ!』

「いくぞ! みんな、打ち合わせ通りにやるぞ!」


 こうして魔王と俺たちの戦いは始まった。

 結論から言うと、この戦いは事前の予測通り、俺たちが何の危なげもなく勝利した。


 さっきも言ったとおり、魔王は攻略方法が確立されている。

 魔王の攻撃は打撃、魔法、ブレスなどがあるが、それらの行動それぞれにダメージを緩和させる魔法を賢者が覚えている。しかし、それ以前にこの魔王、寝るのだ。


 大事なことなのでもう一度言おう。この魔王、魔法で寝るのだ。それも結構な確率で寝る。


 一度寝かせてしまえばあとは簡単だ。全員の最大火力をたたき込めばいくら魔王といえど、あっという間に倒せる。


「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらぁ!」

「みてみて勇者。魔王からこんな物盗んだよ。いくらで売れるかなぁ?」


 最後など女剣士は転職前の初級火炎魔法ファイヤーを乱射したり、賢者は盗めないはずのアイテムを盗んだりともうやりたい放題である。


「わ、我は諦めぬ……。必ず蘇り、貴様らのはらわたをくらい尽くしてくれる……」

 もはやお約束ミームになっている捨て台詞を残し、魔王は倒れた。


「さて、魔王も倒したし、帰るか」

 もはやルーチンワークでもある魔王討伐を果たした俺は、何の感慨もなくスタート地点の城下町へと戻っていった。

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