勇者、逃げの一手を打つ
そこにはいかにも気の強そうなつり目の女の子が立っていた。
年の頃は俺――勇者としての俺よりも少し年上のようだ。黒髪を肩の高さで切りそろえているいわゆるボブカットで、その頭の上に三角錐の帽子と、帽子とおそろいの色のローブを身にまとい、手には簡単な作りの杖を握っている、典型的な魔術師だ。
名前は『ぁ』。いや、聞き間違いではなく本当に『ぁ』なのだ。
ついでだから、ここいらでパーティーメンバーの紹介をしよう。
魔術師の『ぁ』の隣で俺を見て目を輝かせている白髪の少女はシーフの『ほ』。こいつは最初仲間にするつもりはなかったのだが、酒場でよりにもよって俺の財布を盗もうとしたところを取り押さえ、官憲に突きだそうとしたところ、どうもスリの常習犯だったらしくその場で街を追放。どういうわけか俺たちに着いて来やがった。
その後ろでぬぼーっと突っ立っているクソでかい男は『な』。
この、小柄なシーフの『ほ』の倍ほども巨大な戦士、腕は立つみたいだが極端な無口で、これまで一言も喋ったことはない。バトルの時にかけ声を上げるので、声が出ないというわけではないのだが……。それでも腕が立つので重宝している。喋らないのにどうやって酒場に登録したのかは謎だ。酒場の女店主に勧められたので仲間にした。唯一まともな仲間といえるだろう。
これが俺のパーティーだ。バランスの取れたパーティーといえる。
男二人女二人のパーティーということで、ラブ的な展開を期待されている読者諸氏もいるかもしれない。
しかし、そっち方面に関してはまったく期待しないでいただきたい。理由は……まあ、俺と仲間たちの会話(無口な戦士を除く)を聞いてもらえばわかることだろう。
「敵だ。全員散開!」
狭いダンジョンの中では不意にこういった遭遇戦に見舞われる。
「毒ガエルと巨大イモムシか。よし、逃げるぞ!」
RTAでは基本的に
俺は自分の背丈よりも大きなカエルとイモムシを前に、くるりと背を向けて走り出した。RTAのセオリー通り、逃げの一手を打つ。
しかし、数歩走ったところで俺は急ブレーキをかけた。靴底がダンジョンの床面と擦れあって摩耗する。
背後――敵モンスターがいるあたりで激しい爆発音が何発も聞こえたからだ。
「あいつ……! くそっ!」
振り返ると、そこには予想通りの光景が広がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます