RTA走者、見覚えのある部屋で目覚める
七年ぶりに
ベッドの中で輾転反側――何度も寝返りを打ちながら、漠然と今日の走りを振り返っていると、いつの間にか眠ってしまっていたようだった。
「……なさい。……ですよ。起きなさい」
優しげな女性の呼びかけで急に目が覚める。目覚まし時計が鳴った記憶がない。もしかして……と布団を跳ね上げ飛び起きた。『遅刻』の二文字が脳裏をよぎる。
が――
「ようやく起きたのね。もう朝よ」
部屋の入り口には見知らぬ女性が立っていた。
濃いめの茶髪を後ろでひとまとめにしており、シンプルなワンピースにピンク色のエプロンを着けている。右手にはフライ返しのようなものを持って俺の方を見つめていた。
どこだ、ここは……?
そう思いつつ周囲を見渡す。朝日が差し込んで明るくなっている六畳ほどの部屋の中には今俺が眠っていたベッドの他は何も置かれていなかった。昨夜配信に使用した
見たことのない部屋だった。
そうか。これは夢に違いないと再び布団を被り眠りにつこうとした。が――
「もう! 二度寝はダメよ! 今日はあなたの一六歳の誕生日。この日のために母さんはあなたを父さんと同じ勇者となるべく育てたんだからね。さあ、起きて朝ご飯を食べなさい。その後、王様に会いに行くわよ」
勇者? 王様? 何を言っているんだ。訳のわからないこと……。
そこではたと気がついた。
一六歳の誕生日。勇者として育てた。父親と同じ。王様に会いに行く……。妙に馴染みのある言葉。どこで聞いたんだっけか……。
「はっ……!」
がばりと再び布団から飛び起きた。
そこはやはり見覚えのない部屋の入り口に立つ見覚えのない女性。
「いや、見覚えが……ある!」
「どうしたの、ヘンな子ねぇ。お城に行くから緊張しているのかしら」
女性のどこかのんびりした声だけが聞こえてきた。
その後、『母親』に連れられるまま城へ行き、王に謁見して当面の旅費と装備を下賜されたあと、酒場に行って仲間を見繕った俺は『母親』に見送られながら旅立っていった。
倒すべきはこの世界を影から支配しようともくろんでいる『魔王』。
そう。俺はつい昨日世界記録を更新したばかりのロールプレイングゲーム『ドラゴニック・ファンタジア』の世界の中にいたのだ。
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