4-3 自分で主催したパーティに来てもらえないのは辛いもの
「誕生日おめでとうございます、オルティーナ様」
「うん……乾杯……」
今日は聖女オルティーナの誕生日で、パーティを行った。
去年までは※多くの人たちがパーティに来てくれて、そこでプレゼントに囲まれて楽しい時間を過ごしていた。
(※参加者が多かったのは無論洗脳の効果もあるのだが、ラウルド共和国と戦争を行っていたのも大きな理由として挙げられる。武器商人や、不足しがちだった塩や麦を高く売りつけたい他国の行商人がこぞって参加していたのである)
……だが今年は、招待した相手は皆都合をつけて欠席となったため、参加者はフォスター将軍と使用人だけであった。
「みんな、お葬式や職務があって、来てくれないなんて寂しいな……」
勿論、招待客が欠席した本当の理由は『テルソスたちに呼ばれたパーティを優先させた』など個人的な理由が殆どなのだが、それについては彼女は流石に知らされていない。
大量のご馳走がおかれた机と、誰も座っていない椅子。
それを前に、ぽつりとフォスター将軍はオルティーナにささやく。
「……私はオルティーナ様。あなたを独占出来て嬉しく思いますよ?」
「ありがとう……フォスター将軍、あなただけだね。私に優しくしてくれるのは……」
オルティーナはそういうと、窓の外に歩いて行った。
「みんな嫌い……。この世界の人は、外面のいい人にばかり優しくて……真面目に頑張ってる人に冷たいよ……」
(オルティーナ様……やっぱり、あなたが周りに疎まれていたことが……ショックだったんですね……)
フォスター将軍は、それを彼女の手前勝手な行動に起因する、自業自得だと思うような性格ではない。
彼女のことをどこか憐れむような表情で見つめていた。
「みんな……なんで私を好きになってくれないんだろうな……」
そんな風に言いながらオルティーナは、寂しそうな表情で満月を見上げていると、
「……え? あなたは……ぷ、プログリオ……?」
突然そんな声をぽつりと漏らし、ぶつぶつと虚空に向けて話しかけていた。
「そんな、私は……」
「うん……そうだ! 確か私は前世で……思い出した……!」
「え……うそ! 前世の記憶があるのは私以外の国民もみんな……?」
「……未夏は違う? あいつは……日本? そんな国あるの?」
「あいつをこの世界に呼んだのは……あんた? なんで? ……その方が面白いから? 因果律の鎖の取り合いが、私に有利すぎるから調整した? 余計なことを……」
そんな風に誰かに対して話しかけているようであった。
(……何をされているんだ、オルティーナ様は……)
そう思っていたが、しばらくするとオルティーナはフォスター将軍に向き直った。
(!)
その表情は、今まで見せたことのない、思いつめたような表情だった。
いわゆる覚悟を決めた『転生者の眼』とも違う、何かをやらかしそうな顔だ。
そして彼女はフォスター将軍に尋ねる。
「ねえ、正直に教えて? ……フォスター将軍は、前世の記憶は……ある?」
そういわれたフォスター将軍は、びくりと身体を震わせた。
「な、どうしてそれを……」
「全部……思い出した。……窓の外にいた道化師……プログリオに教えてもらったの!」
「道化師?」
前世の記憶を手繰って、フォスター将軍は思い出した。
確か彼女は時折『プログリオ』という見えない道化師と会話をしていた。
当時は彼女のイマジナリーフレンドの一種とも思っていたが、なるほど実際に『見えないが、存在するもの』だったのかと合点がいった。
「……今の私が嫌われている理由も大体分かった……。前世の記憶を持っていなかった私が、今まで周りに迷惑をかけちゃってたのが原因なんだね……」
「オルティーナ様……」
それを聞いて、『よくわからないが、自身の非を認めてくれた』と思ったのだろう。
フォスター将軍は一瞬嬉しそうな表情を見せた。……だが。
「だから、やっぱり転生は……幼少期から始めなきゃダメだったんだ……今度は上手くやらないと……」
「……は?」
「……『来世』は……失敗しないようにする……。お願い、フォスター! ついてきて!」
そういうとオルティーナは強引にフォスター将軍の手を掴んできた。
「ついてきてとは……どこにですか?」
「『永遠の輪廻の都』ってところ! 無理にでも連れてくから! どうせ『因果律の鎖』を起動するから、もうあなたの仕事なんて意味ないし……」
本当は、大事な会合が明日はあった。
だが、オルティーナのその鬼気迫る表情を見て思わずただ事ではないと思った。
そしてフォスター将軍は『今世でこそオルティーナには優しくする』と誓ったことも思い出した。
そのため、何も訊こうとせず、
「は……分かりました。では、至急支度します。食料など詰めた後、明朝に出立しましょう」
そう答えた。
「ありがとう、フォスター将軍。……そうだ、万一ってこともあるから……ちょっと後ろ向いて? おまじないしてあげる?」
「え? はい……」
そういうと、オルティーナはフォスター将軍の背中に何かの文様を書く。
「…………」
これはおまじないではなく、何かしらの術式なのは明白だ。
フォスター将軍は、自分が何かとんでもないことをされていることは薄々勘づいていた。
だが。
(オルティーナ様は……きっと、私を何かの道具にする気なんだな……恐らくは、使い捨てか……)
だが、彼もまた転生者だ。
その程度のことで怯えたり、ひるんだりすることはない。
(……望むところだ。私のことなんか、捨て駒としていくらでも利用すればいい……あなたがそれを望むなら、私は恨みません。今世でこそ、私はあなたを最期まで愛すると決めたのですから……)
そう覚悟を決めた眼をして、彼女の術式を甘んじて受けた。
そして術式が書き終わったようだ。
「……これでよし。……どうせさ、『因果律の鎖』が発動したら、死んだ人たちも生き返るから、問題ないよね?」
そうオルティーナは、ぽつりとつぶやく。
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