4-2 仲間とパーティを楽しむ日々は逆ハーレムより上なのか
それから1週間ほど経過した。
薬屋の近くにある酒場を借り切って、未夏たちは街の住民たちとパーティを行っていた。
主催者はウノー。テルソスやディアナも今回は参加してくれた。
「さて、みんなグラスは持ったか?」
「ああ!」「ええ!」
「かんぱーい!」
そういいながら、ウノーの合図で全員がグラスをぶつけ合った。
こんな庶民の家にまでガラスのコップを置けるような鋳造技術があることについては、もう未夏は気にしないことにした。
「どうでしょうか……私の作った唐揚げは……」
「ああ、すげーうめーよ、テルソス! やっぱお前料理すごいな!」
「未夏様に教わったおかげですよ。こういう揚げ物という料理は……あまり私の国ではメジャーではないですからね」
そういいながらテルソスは少し恐縮した表情を見せる。
本当にメジャーではないのは、揚げ物のほうではなく和風の味付け(流石にこの世界に醤油はなかったので、魚醤で代用した)を用いた文化の方なのだが、テルソスは気づいていない。
ディアナはそれを食べながら舌鼓を打った。
「うん、美味しい! 未夏、本当にありがと! こういう脂っこいものも食べられるようになったのがすごい嬉しいよ」
「え? それなら良かったわ。ディアナに喜んでもらえたなら」
そういって未夏も嬉しそうな表情を見せる。
そのあとディアナはテルソスに向き直って尋ねる。
「ねえ、テルソス? よかったらこの唐揚げ、私の屋敷でも作ってくれない?」
「ええ、勿論ですよ」
そんな風に楽しそうに会話をしていた。
(ディアナが元気になったら、テルソスを必要としなくなるから別れると思ったけど……そんな風にはならなかったのね……)
それどころか、ディアナは病気が快癒してからというもの、今までの分を取り戻そうとばかりに、これまで以上にテルソスに甘えているようだ。
そのため今世でのディアナとテルソスはゲーム本編よりも距離を縮めるのが早いように感じる。
本編ではこの二人は幼馴染だが、意識して両者をくっつけようとしないと結婚しないほど進展が遅いため、未夏は少し驚いていた。
(まあ、嬉しいといえば嬉しいけど……寂しいのは事実なのよね……)
基本的に未夏はこのゲームに出てくる4英傑は全員好みのタイプだ。
そのため本音をいうと、ディアナと疎遠になったところを自分が慰め、テルソスの好感度を稼いで恋人の座を手にしたいという気持ちも少しあった。
(なーんか、私はいつも恋愛で蚊帳の外なのよね……積極的にいかないと、彼氏が出来ないのはこの世界も同じってことなんだろうけどさ……)
そうは思うが、良き友人に囲まれながら薬師として過ごす今の生活が充実していることもあり、未夏はパーティを楽しんだ。
そんな風に時間を過ごしていると、薬屋のドアが開いた。
「こんにちは、未夏。久しぶりですわね?」
ラウルド共和国の『冷血の淑女』ラジーナだ。
彼女は『因果律の鎖』に関する話をするために未夏が書簡を送ったところ、向こうから来てくれたのである。
当然、それを見たパーティの参加者は驚愕の表情を浮かべた。
まあ、つい最近まで殺し合いをしていた国の要人が来るのだから当然だろうが。
「ええええええ!?」
「どうして、ここにラジーナ様が?」
彼らは驚いた素振りこそ見せるが、彼女に憎しみの感情は向けてこない。
……未夏は、彼ら『転生者』が、ここで私怨を晴らそうとすることはしないと判断したため、このパーティに招待したというのもある。
そしてテルソスは驚いた様子も見せずに、一緒に来ていたエイドに声をかける。
「お久しぶりですね、エイド。最近は調子もよさそうで何よりです」
「ああ。ラジーナと毎日一緒に居ればな」
そんな風に気の置けない関係といった感じで声をかけあっている。
彼とエイドは親友なので、恐らくは連絡がいっていたのだろう。
「ラジーナさん、よかったら一杯一緒に飲まないか?」
ウノーは一応ラジーナとは、先の留学の一件で知り合いということもあり、少し躊躇した様子を見せながらもグラスを進めた。
ラジーナはフフ……と笑みを浮かべて、グラスを手に取る。
「ええ、そうですね。例の話は夜にするとして……思いっきりきついの、いただけます?」
「大丈夫なのか?」
「なにかあったら、エイドが守ってくださるもの」
「ああ……任せてくれ」
そうラジーナはエイドに甘えるようにうなだれる。
だが、未夏は知っている。……ラジーナはどんなに酒を飲んでも酔わない酒豪だということを。
「それじゃ、せっかくだから国際交流ということで、もう一度かんぱーい!」
ウノーはそういいながらグラスをぶつけ合った。
「ふう……」
それからしばらくして、宴会は終わりを告げた。
未夏も片づけはやろうと思ったが、それはウノーとテルソスが全部やってくれているので、自室で休んでいる。
「ねえ、未夏? 書簡でいただいた件についてですが……『因果律の鎖』ですよね? 教えていただけますか?」
相当な酒を飲んだはずなのに、ラジーナはけろっとした顔で尋ねている。
「ええ。……ですが一応訊きますが……エイド様もこの場にいてよろしいのですか?」
「勿論です。エイドは私が最も信頼する相手ですもの」
以前のラジーナであれば、こういう重要な話は国益からも彼の安全からも、エイドに聞かせたりはしなかっただろう。
だが、今ではどこに行くにもエイドを連れて行くようになったと聞いている。
「それでは、説明しますね……」
そういうと、未夏は詳しく説明を始めた。
この世界には『因果律の鎖』というものがあり、それを起動することによってこの世界を好きなように書き換えられること。
そしてこの今世自体が、聖女オルティーナの手によって書き換えられた『2周目の世界』ということ。
今まで自分たちの前に現れていたプログリオは、その因果律の鎖を管理するものであり、その起動を未夏にさせたこと。
そして……。
「エイド様。……あなた方の件も話していいですか?」
「ああ。……そういえば言ってなかったな。……俺たち聖ジャルダン国の国民は全員前世の記憶を持っている『転生者』なんだ」
未夏を除く、聖ジャルダン国の住民が全員転生者であること。
そのすべてを聴いた後、ラジーナは驚いた表情を見せていた。
「そんなことが……あるのですね……」
「信じてくれるのですか?」
「ええ……。そうでないと、先日のビクトリアの件や、兵士たちの異常な強さと精神性……それに、あのプログリオの姿を私と未夏が同時に見えていることの説明がつきませんもの」
そういうと、ラジーナは少し驚きながらもそう答えた。
「それで……その『因果律の鎖』はどこにあるのですか?」
「ここから南にある『永遠の輪廻の街』にあります……」
未夏が地図を指さすとラジーナは意外そうな表情を見せる。
「あら、そんなところに街なんてありましたか?」
ラジーナは他国とはいえ、長年スパイをこの国に送り込んでいたこともあり、聖ジャルダン国の地理は詳しいようだ。
「ええ……。私が先日起動したことで地上に現れているはずです。根拠はありませんが……」
「そうなのね……」
「危険なモンスターは出ない場所ですが……結構距離がありますね」
幸いというべきか、その『永遠の輪廻の街』周辺はエンカウントしないことを覚えていた。
これは、ルートによってはオルティーナが一人で向かうことになる場所だからというシステム上の都合だろう。
……だが、絶対に安全と断言できるわけではない。
(それに、オルティーナの記憶が戻ったら……プログリオのことだから、まさか……)
なにより気になっているのが、今日が実はオルティーナの誕生日だということだ。
万が一『前世の記憶を取り戻すタイミング』が今日だった場合……彼女と『因果律の鎖』を奪い合うことになるかもしれない。
「ところで、この話はまだ私以外にはしておりません?」
「ええ。……もっとも、誰に話しても信じてもらえないでしょうし、それに『因果律の鎖』の起動が行えないものに話しても意味はありませんので」
だが、それを聴いたラジーナはこくりとうなづき、エイドに声をかけた。
「その『因果律の鎖』の存在の確認だけでもしておくべきですわね。……エイド? 来てくれる?」
「ああ、任せてくれ」
エイドはそううなづいた。
だが、未夏は確実に確認しておきたいことがあった。
「ところで……ラジーナ様は、因果律の鎖を使って、世界を作り直すおつもりですか?」
もしラジーナがこの装置を起動して『この世界をもう一度やり直す』と考えているのであれば、それは許容できない。
だがラジーナは首を振った。
「……いえ……私は、今の生活……特にエイドとともに毎日を過ごせる、この世界が大好きですから。ね、エイド?」
「そういってくれたら……俺も嬉しいな」
そういって、ラジーナはエイドにキスをしてきた。
……まったく、彼氏のいない私に見せつけんじゃねえよと思いながらと、未夏は思いながら尋ねる。
「では、ラジーナ様は『復讐』に因果律を使うということは?」
「それは……したくありませんね。復讐は私達自身の手で行いたい……いえ、行わなくてはならないと思っていますから。……そしてなにより……」
そういうと、ラジーナは窓の外に顔を出した。
(あ、あいつ……)
そこにはプログリオがこちらの様子を見つめていたことが分かった。
ラジーナは彼に対して、強いまなざしでつぶやく。
「人間舐めるな……ですわ?」
『……ふうん……』
「そんなものに頼らなくても、私……ううん、私たちは復讐を遂げて見せますもの」
『あっそ。ま、君はそういうよね。けど……後悔しないでね?』
そういうと、プログリオはすっと姿を消した。
「それでは未夏。準備もあると思うので明日……いえ、明後日に出立しましょう」
ラジーナはそういうと、国の大臣であろう相手に早速書簡を書き始めた。
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