第46話 好成果と芽吹きだした想い

「お! 『オブシディアンシャード』じゃねぇか。珍しいな!」


「オプシディアン?」


「そうだ。油脂がつかねぇ、魔法の黒曜石だよ」


 黒曜石……昔、本で見たことがある。

 だが、これはただの黒曜石とは違うらしい。


「そいつぁな、料理人にはたまらねぇ素材だ。油も汚れもほとんどつかねぇし、切れ味も一生モンだぜ。だから、あの高級レストランのシェフなんかが競り合ってでも欲しがるんだよ、それ。」


 そう言いながら、ルーフェンさんが手渡してきた。


「わわ……そ、そんなにすごいのか……」


 驚きとともに受け取ったその石は、表面が滑らかで、手に吸い付くような感触をしている。ただの黒曜石とは明らかに違う。


「おうとも! そいつぁ、ただの石じゃねぇんだよ。これ一つあれば、腕が半人前でもな、最高の料理が出せるってもんさ。夢の素材ってのはこういうのを言うんだ。」


 ルーフェンさんは自信満々にそう語り、俺が感心している様子を見てさらに饒舌になった。


「実際、この素材を使った調理道具なら、一生モンだ。下手すりゃ孫の代まで使えるぜ。まぁ、装飾品として売りゃもっと金になるがな。」


「へぇ……すごいな……」


 俺はその特別な感触に圧倒され、しばらく石をじっと見つめてしまった。


 手に取ると、その滑らかな質感が指先に伝わってきた。

 普通の石とは明らかに違う、特別な感触だ。


「だが、料理道具なんてちっぽけな使い道だぜ」


「どういうことですか?」


「バカ! もっと金持ち向けに高く売れるんだよ。装飾品だってな!」


「……たしかに、この光沢なら装飾品としても映えそうですね」


 一通り観察したオレは、ルーフェンさんに戻したのだった。


 ―――


 オブシディアンシャード(変異した火成岩)


 変異元

 

 ストーンワーデンの外殻が圧縮と魔力の影響を受け、生成された特殊な火成岩の欠片。


 特性

 

 滑らかさと耐油性: 表面が極めて滑らかで、油脂や汚れが付着しにくい。

 高硬度: 通常の砥石では加工が難しいほどの硬度を持ち、驚異的な耐久性を誇る。

 耐熱性: 高温に強く、長時間の使用でも劣化しない。

 魔力適応性: 魔力を通すことで、表面の滑らかさや切れ味が向上する。

 

 用途

 料理道具: 包丁やまな板、フライパンなどの調理器具として最適。料理人の間では最高級の素材とされる。

 装飾品: 美しい光沢と耐久性から、高級装飾品としても人気がある。

 錬金術触媒: 特殊なポーションや薬品の生成時に、純度を高める道具として利用される。


 ―――


 なるほどぉ……って、これも鉱石扱いなんだな。


 ―――


 エターナルアース(変異した土壌鉱石)


 生成過程


 ストーンワーデンが長年、地脈や魔力場のエネルギーを吸収しながら圧縮されたことで形成される。ストーンワーデンの崩壊時に、他の岩石や土と異なる独特の色彩を持つ塊として現れる。


 外見


 深緑色や黒に近い色をしており、微かな発光を伴うことがある。その見た目は一見して他の土壌とは異なり、まるで「生命力」を持つかのような輝きを放つ。


 性質


 自然魔力の豊富さ: 自然界の魔力を極限まで含んでおり、植物や土壌に驚異的な影響を与える。

 再生力の促進: 地域一帯の土壌を活性化させ、植物の成長や土地の回復を大幅に加速させる特性がある。

 鉱石としての性質: 地質学的には鉱石として分類され、加工や保存が必要な特別な素材。


 採取量と希少性


 採取量: ストーンワーデン1体につきわずか5キロ程度しか採取できない。

 効率性: 1gで約10kgの促進材を作成可能で、非常に少量で高い効果を発揮する。

 希少性: 限られた個体からしか得られないため、市場では極めて高価な素材として取引される。


 使用用途


 植物促進材


 通常の土に1gを混ぜるだけで、その土が高品質な腐葉土に変化。これにより植物が驚異的な速度で成長し、農業や園芸に革命的な影響を与える。

回復ポーションの触媒

 魔力の癒し効果を強化する触媒として使用。自然治癒力を大幅に高める高品質な回復ポーションが作れる。


 魔法陣の強化


 土壌を浄化し、地脈から魔力を引き出す効果を付与。儀式や結界の効果を大幅に向上させる。


 制限とリスク


 魔力の枯渇: 使用しすぎると、土地そのものの魔力が枯渇し、不毛の地になるリスクがある。適切な量を使う管理が必須。

 腐敗の危険性: 保存方法を誤ると、内部の魔力が暴走し、土壌を毒化する危険がある。そのため、特別な保管容器や魔法的な封印が必要。


 ―――


 別のところからも、文字が……


 どこだ……?


 少し歩くと、次に目を引くものがあった。深緑色にほのかに光る土のような塊だ。


「これかぁ……」


 手を伸ばし触れると、ほんのり温かい感触が広がる。

 普通の土とは明らかに違う質感だった。


 土……みたいだけど、鉱石扱いなんだな、これも。


「お、レイ。それは『エターナルアース』かっ!  よく見つけた!」


 アベルが驚いた声を上げる。仲間たちもその塊に目を向けた。


「「「おおっ!」」」


「……これがエターナルアース?」


 その深緑色の塊は光にかざすと微かな輝きを放つ。触れているだけで、まるで植物の息吹が聞こえるような気がする――そんな不思議な力が宿っているのがわかる。


「今回、大当たりだな!」


「よーし、フォース結晶も四個手に入れたし、ランタンも松明もそろそろ尽きそうだ。戻るかっ!」


「「「おおっ!」」」


 仲間たちの歓声を聞きながら、オレも自分だけの収穫を手に取った。


 ――ゼロポイント結晶だ。


 これさえあれば、エリナの傷をさらに癒せる。どれだけ喜んでくれるだろう?

 エリナの笑顔を思い浮かべて、つい顔が緩んでしまう。


「なんだ、レイ? 気持ちの悪いにやけヅラしやがって。女か?」


 アベルのからかいに、オレは慌てて否定する。


「ちちちちがいますよっ!」


「ごまかすな。その反応が『そうだ』って語ってるぜ」


「……っ」


 言い逃れできないオレに、アベルは少しだけ真面目な顔を見せて肩を叩く。


「まぁ、こんな場所でも顔が思い浮かぶほどの相手だ。そんな機会、二度と巡ってこないかもしれない。どんなことがあっても守りたいって思える相手だろ?」


 オレは黙って頷いた。


 たしかにそうだ――エリナはオレにとってなくてはならない存在だと気づいている。


 いつからだろう……


 いつの間にか、エリナはオレの中心に存在するようになっていた。


 かつて、彼女が傷ついたあの日。

 オレが無力さを痛感したその瞬間からなのだろうか……?


 わからない……


 だけど、エリナの笑顔が見たい。


 その思いがあるのだけは確かだった。


「そう……ですね。たしかに、言う通りです」


 そう言うと、アベルは満足そうに笑いながら言葉を告げた。


「ほんと、オマエは素直だな。ガレックに似てるぜ、そういうとこ」

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