第22話 二人のひみつ

 オレは自分の仕事を終わらせ、病棟へと向かった。

 当然、エリナの様子を伺いにだ。


 広場を抜け、少し細貼った道を進み、うす暗い場所にある病棟へと急ぐ。

 病棟の扉を開け、病室を目指し、エリナの寝ている部屋へと駆け込んだ。


 そこには、もう体を起こしても大丈夫なくらいに回復したエリナが、ベッドに座って窓の外を静かに眺めていた。

 

 その姿を目にした瞬間、オレは安堵し、気づけば無意識のうちにエリナに抱きついていた。


「よかった…本当に…よかった…」


 涙が止まらない。

 その言葉しか、出てこなかった。


 そんなオレに、エリナが穏やかな声で答えた。


「…ごめんね…レイ…本当に…ありがとう…」


 部屋には静かな時間が流れ、しばらくして、オレも気持ちを落ち着かせ、近くにあったイスに腰掛けた。

 エリナはベッドに座ったまま、オレをじっと見つめている。


「…どこか、まだ痛いところはないか?  苦しいところとか…」


 オレは慎重に尋ねたが、エリナはその問いに微笑みながら首を横に振った。

 そして、ふと真剣な表情になり、彼女の小さな手がそっと胸元に触れる。


「…ねぇ、レイくん。この石…」


 エリナは、胸元に隠されていた結晶を取り出し、オレをじっと見つめた。


「これ、レイくんが持たせてくれたんだよね?」


 彼女の目には疑問と感謝が混ざっているように見えた。

 その言葉にオレは、緊張したまま軽くうなずいた。


「…そうだよ。でも、それは…」


 言い淀むオレを見つめながら、エリナは少し視線を落とし、思い出すように語り始めた。


「…あの時、私はもう…ダメかもしれないって思ってたの。傷がひどくて、どんどん意識が遠のいて…」


 彼女の声は少し震えていた。


「でも、レイくんがこの石を置いてくれた時、なんだか急に体が楽になって…痛みも薄れていって…まるで奇跡みたいに。だから…これは普通の石じゃないって、なんとなく分かってたの。ねぇ、これって、何か特別なものなんだよね?」


 その問いに、オレは息を呑んだ。彼女は何も知らないはずだったが、その直感は正しかった。

 鉱石の力、そしてそれがもたらす危険を、エリナにどこまで話すべきか悩んだ。


「…エリナ、それは…」


 オレは言葉を選びながら、彼女の瞳を見つめ返した。

 真実を隠すことはできない、そう感じながらも、彼女を守るために、どう説明するかを考えていた。

 それが、オレとエリナの未来を決定づける瞬間になるのかもしれない。


「…エリナ…誰にも言わないと約束してくれるか?」


 オレはエリナを信じたい…

 エリナ自身の中だけでオレの秘密を守ってほしい。

 それを確認したくて、出てきた言葉…

 

 エリナを信じてないわけじゃない…

 だが…もし、ほかの人からこの力の噂を聞いてしまうとオレはエリナを疑ってしまう。

 それは、オレにはいやだった…


 だから、言葉でだけでも約束して欲しかったんだ。

 疑いたくないから…


「…わかった。だれにも喋らない…約束する」


 エリナは少し考え込んだ様子で、ぎゅっと結晶を握りしめた。

 数秒の沈黙があったが、やがて彼女は真剣な表情で頷いた。


 その顔を見て、オレはついにエリナにすべてを伝える決心をした。

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