第19話 絶望&希望
広場で寝かされていたエリナは、病棟の寝所の準備が整い、移送された。
病棟といっても、何をするにしても中途半端で使いにくい場所に建てられた簡易の病棟だ。
薄暗い小屋の奥に設けられた病棟は、剥がれかけた壁に囲まれた貧相な空間で、薄い布団のベッドが数台並んでいる。使用済みの包帯や薬草が散乱し、独特の匂いが漂う。訪れる者はまばらで、10数名が収容できるが、実際にはそれ以上の人数が運ばれることは稀である。静まり返った室内は、命の灯をつなぐ唯一の場所として機能している。
医者もいるにはいるが、とても機能しているとは思えないほどだ…
そんな場所にエリナは移送され、寝かされている。
やる気のない医者は「今夜を越えられるかどうか」と言っていた…
…ふざけるなっ!
何もかも失っても懸命に生きようとしている子が、こんな目に合っていいはずがない!
それが世界の答えだというのなら…俺たちの生は…命は何なのだ…ただ奪われるだけで終わる生なのか…
…納得できるわけないだろうが…
俺はこんな気持ちを知るために転生したわけじゃない…
そんなことされるくらいなら、本当に…なぜ、あのまま死なせてくれなかった…
ふざけんな…ふざけんな…ふざけるなっ!
「…ごめん、エリナ…どんなことをしても、オレはキミを止めるべきだった…ほんと、すまない…エリナ」
あれから、目を覚まさないエリナの手を握り、オレは涙に暮れていた…
「………」
リュウもカイルもそれぞれ、自分の仕事があるため、エリナの心配をしながらこの病棟から離れた。
だが、オレはそれなりにここでは自由に出来る…
けど…それでも限界がある…
そして、仕方なく、エリナの手を離して立ち上がった。
その時、オレのポケットから何かを落とした。
その何かを探していると、頭に文字がうかんできた。
―フォトン結晶―
理由: 光エネルギーを利用するため、適切な使用が求められるが、扱いを誤ると過剰な光が逆効果をもたらす可能性がある。
変異元: 自然界に存在する光を取り込み、特異な構造を形成した鉱石。
特性: フォトン結晶は、光のエネルギーを蓄積し、放出する能力を持っている。これにより、細胞の修復や活性化を促す効果があり、特に傷ついた組織の治癒過程を刺激する役割を果たす。
用途: フォトン結晶は、治療魔法の補助や医療機器の材料として利用されるほか、光を利用した攻撃や防御手段にも応用される。特に、戦闘時に相手の動きを鈍らせるためのトラップや防具に組み込まれることが多い。
―――
「っ!!」
そうだった! 思い出したっ!
これがあった!
オレは落としたフォトン結晶の破片を拾いながら、思い出していた。
この説明の一文「特に傷ついた組織の治癒過程を刺激する役割を果たす」
そして、この鉱石の他に後二種の鉱石を合わすと、細胞の修復活性化と説明が出ていた。
だからこそ、オレは少し危険そうでも欠片を隠し持ち帰っていた。
こんなところで、役に立つかも知れない。
オレは嬉しくて、自分がやったことが無駄じゃないと喜んだ。
いや、まだ喜ぶのは早い。
全てはエリナが回復したらの話だ。
それでも、オレは希望を持てたことに喜ばずにはいられなかった。
エリナの傷を癒すことができるかもしれないっ!
そう思えたことが嬉しかった。
例え、全快はしなくても今よりは断然ましなはずだっ!
ほかの鉱石は…
部屋に置いていたはずっ!
オレは、自分の部屋に急ぐ!
すこしでも早く、すこしでも急いで、オレは力の限り走ったのだった。
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