第14話 隠し持った変化の扉

 頭に浮かぶ文字のことを考えていたら、出口に近づいてきた。


 出口には、警備が待ち受けていた。

 国の管理のもと、冒険者たちは全ての持ち物を検査される。


「危険な鉱石の有無を確認する。包み隠さず、持ち物を出してくれ」


 経験豊富なドワーフが低い声で言う。

 ドワーフは短身でがっしりとした体格をしており、鍛冶や採掘の技術に長けている。彼の鋭い目がこちらに向けられるたびに、冷や汗が背中を流れた。

 

 手元のポケットを確認したい衝動を必死に抑え、平静を装い続ける。


 この国には、様々な種族が共存している。

 亜人は人間に似た姿をしているが、特異な能力を持つ者も多い。

 獣人は動物の特性を持った者たちで、野生的な本能が強い。

 エルフは長命で優雅な姿をしており、魔法の才能に恵まれた者が多い。

 ドワーフのように、地下での生活に適応した種族もいる。


 と、この冒険の中でガレックさんから教えられた。


「わかってるよ。早く終わらせてくれ。これから、今回の報酬でぱぁーとやるんだからさ」


「やらないわよ…」


「えーー! なんでさ! やろうよっ!」


「酔うと、あんたはめんどくさくなるからよっ!」


 ぎゃあぎゃあと騒ぎながら、冒険者たちは次々と検査を受けていた。


「これは、エーテルクリスタルか。良い素材だ。これは安全だな。よし、いいぞ」


 ドワーフは大きな袋や目立つ道具を重点的に確認していた。

 小さなポケットまではさすがに見られなかった。

 胸を撫で下ろし、心の中でほっと息をつく。

 ポケットの中の小石ほどの鉱石は、無事隠し通せた。


 検査が終わり、ドワーフの説明が始まる。


「まず、このダンジョンは国の管理下にある。それは危険な鉱物が多く含まれているからだ。下手に持ち出すと爆発を引き起こしかねない。それで国が厳格に管理しているわけだ。だから、入場料は一人銀貨5枚。これでも安いほうだぞ」


「確かに、安いな。だから人が集まるんだろう?」


 冒険者も納得する。


「そうだ。だが発掘したあとの報酬は別の話だ。この国では発掘の出来高制を採用している。だから所持品の検査が必要なんだ。理解してくれ」


「わかった、わかった。続けてくれ」


「報酬についてだが、持ち帰った物の1割が国へ、その半分が管理費として取られる。つまり、お前が持ち帰った物の1割5分を払ってもらうことになる」


 厳しい口調で説明が続く。


「金がない場合、王国財務局発行の債務契約書にサインしてもらうことになる。期限までに払わなければ逮捕されることもあるから、忘れるな」


「厳しいな……けど、了解だ。それで、いくら払えばなんだ?」


「ざっと見積もって、お前たちが国に支払う額は金貨二枚ってところだろうな」


「おおっ! 結構な額になっているな。え~と…1割5分だから…いくらだ?」


「ちょ、ちょっと…それくらいの計算、出来るようになってよね…」


「じゃ、じゃあ、おまえは分かるのかよっ!」


「そんなの簡単じゃない。まず、金貨二枚が15%に当たるんだから、全体はどうなるかを考えればいいのよ」


「全体…? どういうことだ?」


「金貨二枚が15%分なんだから、全体はその逆算で求められるわよ。つまり、金貨二枚 ÷ 0.15よ!」


「…で、いくらになるんだ?」


「大体金貨13枚ちょっとよ…ほんと、簡単な計算じゃないの…それか、まず、1割を計算して(金貨2枚÷3)×2≒1.33×10でもいいじゃないの…っとに」


「う、うるさい…それくらい、分かってたよっ!」


「はぁぁ…ほんとに…?」


「…話は終わったかね? じゃ、この紙を持って冒険者ギルドで精算してくれ」


「あいよ。そんじゃ、小僧、これはお駄賃だ」


 そう言って、冒険者から銀貨2枚を渡された。


 しかし、使う場所もないし、下手すれば取り上げられる可能性もある。

 そもそも、この世界の通貨の価値すら、まだよくわかっていない。

 貰ったところで今は役に立たないが、いつかのために隠しておこう。


 冒険者たちは賑やかに去り、俺も静かにその場を後にした。

 隠し持った鉱石の感触が、これからの旅路にどんな影響を与えるのか、不安と期待が交錯していた。

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