第11話 初めてのダンジョンと魔鉱石

 暗い洞窟の中、湿った空気が肌を包み込む。

 冷たい石壁には水滴がぽつぽつと伝い、奥深くへと続く道が薄暗く広がっていた。

 心細い、たいまつの光を頼りに奥へと進む。

 時折、中のなにかの鉱石が光を放ってはいるが、それでも心細い。

 オレは緊張しながらも、仲間たちの様子を見守っていた。


 前方には、周囲に散乱する岩の隙間から、獰猛な姿をした小型の魔物が姿を現した。

 体は小さく、灰色の毛皮をまとっているが、その目は鋭く光っていた。

 

 名前は 『ロックリスプ』。


 小型で灰色の岩のような皮膚を持つトカゲ型の魔物。

 ダンジョンの岩場に隠れていることが多く、動かないと岩と見間違えるほど擬態が上手い。

 攻撃力は低いが、隠密行動が得意。


「魔物だ、全員、構えろ!」


 剣士が叫ぶと、即座に冒険者たちは戦闘の準備を整える。

 オレは、彼らの背中に隠れつつも、緊張で体が震えていた。


 そのとき、魔術師が手をかざし、すでに詠唱を始めていた。


 「炎よ、我に力を与えよ!」


 彼女の手のひらには、鮮やかな炎が生まれかけていた。


「待て、火は使うな!」


 剣士が叫ぶ。


 彼は瞬時に魔術師の前に飛び出し、火の玉を消し去った。


「この洞窟の中で火を使うのは危険だ。湿気と共に煙が充満して、我々も危険に晒される」


「…たしかに、そうね」


 魔術師は焦りの表情を浮かべている。


「冷静に! 相手は小物だ。力を使う必要はない」


 スカウトが彼女を冷静に諭した。


 その言葉に、魔術師は少し落ち着きを取り戻した。

 オレも彼女の表情を見つめながら、少し安心した。

 確かに、火を使うことが自分たちにどれほどのリスクをもたらすか、考える余裕がなかった。


 小型の魔物は、こちらに気づき、吠えながら突進してきた。

 剣士が素早く刀を構え、華麗に攻撃をかわす。

 その瞬間、ヒーラーが後方からサポートし、彼に強化の魔法をかける。


「行け、今だ!」


 剣士の声に応じて、魔術師は風の魔法を使い、魔物を押し返した。


 その隙に、スカウトが一気に近づき、素早い動作で魔物の首に一撃を加えた。

 魔物は悲鳴を上げながら崩れ落ち、静寂が戻ってきた。


「これが冒険か…」


 オレは恐る恐る言葉を漏らし、戦闘の終息を迎えたことに安堵した。


「見ろ、これくらいなら簡単だろ?」


 剣士がにやりと笑う。


「ただの小物だから、火を使わなくても十分だ。」


 オレはその言葉に少し安心しながらも、次に何が待ち受けているのか、不安が募っていた。


 その時、頭の中に不思議な感覚が走った。

 まるで、石そのものが語りかけてくるかのように…


 ――「青白い結晶、透明な層を持ち、魔力を増幅する特性がある」


 不意に頭に浮かんだその言葉に、オレは目を見開いた。


 今のは何だ?


 声が聞こえたわけではない。

 だが、確かに頭の中に文字が浮かんだのだ。


「気のせいか…?」


 オレは首を振り、忘れようとした。


 しかし、その後も何度か同じような現象が起こった。

 視界の片隅にある鉱石や岩を目にすると、頭の中にその名前や特性が浮かび上がってくるのだ。

 最初は自分の想像かと思っていたが、あまりにも具体的な情報が次々と現れる。


 次に目を向けたのは、足元に転がっていた鉱石のかけらだった。

 青白い光を放つその石を見た瞬間、またしても頭の中に文字が浮かび上がった。


 ――「エーテルクリスタル。魔力を増幅し、強力な魔法を発動させる」


 オレは息を呑んだ。


 ――「エーテルコアと違いクリスタル化された状態。安定した形態を持つ」


 これがエーテルクリスタルだと?


 先ほど業者たちが話していた魔力を増幅するという石…

 オレは荷物持ちとしてその石を持っていたが、それがどれほど貴重なものかなど、全く気付いていなかった。


「これは一体…」


 オレは自分の頭を抱え、混乱した。

 どうして突然、鉱石の名前や特性が分かるのか?

 何度も目にするたびに、正確な情報が頭に浮かぶ。

 この奇妙な現象の正体は何なのか、オレは自問自答するばかりだった。


「どうした?」


 スカウトが不思議そうにオレを見た。


「いや、なんでもないです…」


 オレは苦笑いを浮かべながら、心の中で静かにその謎を抱え続けた。

 

 この力が一体何なのか、まだ答えは見つかっていないが、少なくともこの先の冒険で、オレにとって重要なものになることだけは確かだと感じていた。

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