第8話 ダンジョンの存在意義

 少し前に話してから、オレとエリナはよく話すようになっていた。

 情報交換のような形で、お互いが知り得たことを話すのだ。


 それは、オレもエリナもまだ、ここから抜け出したい一心だったからかもしれない。


「ねえ、レイ。最近、ダンジョンの話をよく聞くけど、本当に危険なのかな?」


 エリナが不安そうに尋ねた。

 彼女の瞳には、恐れと好奇心が交錯している。


「うん、そうみたいだ。特に普通の人たちが入るには危険なダンジョンは、魔物がすごく凶暴らしいよ」


 レイは、最近耳にした情報を思い出しながら答えた。


「魔力が漏れ出していて、周りの生態系に悪影響を及ぼしてるみたいだ。だから、変異した魔物がたくさんいるって」


「じゃあ、どうしてみんなあんな場所に行くの?」


 エリナは首をかしげながら続けた。


「私たちもこの業者にいるのに、わざわざ危険なところに行くなんて…」


「それはね、鉱石や魔鉱石がたくさん取れるからさ」


 レイはため息をつく。


「でも、そのリスクがあるから、無計画に入るとあっという間に命を落とすことになる。最近、そんな話を聞いたばかりなんだ」


「でも、私たちのダンジョンはまだ安全な方だって聞いたことがあるよ」


 エリナは少し安心した様子で言った。


「業者の人たちが長年の経験で、魔物が出るのを抑えてるんだよね?」


「そうだよ」


 レイは頷く。


「だから、ここでの採掘は他のダンジョンに比べれば安全なんだ。ただ、それでも油断は禁物だと思う」


 エリナは少し考え込み、目を伏せた。


「私たちが育てられているのも、そういうダンジョンから集めたものがあるからだよね。みんな、子供たちを口減らしのために集めて、才能のある者を育ててるって…」


「そうだね」


 レイの心も沈んでいく。


「まるでオレたちが道具みたいに扱われている気がする。王様が絶対権力者で、国の運営が腐っているって聞いたことがあるし、オレたちには平穏に暮らせる場所がないな…」


「ほんとに最悪だね!」


 エリナは小さな声で言ったが、その目はキラキラしている。


「でも、どうして大人たちはそんなことするの? みんな私たちを助けてくれないのかな?」


「うん、国の鉱石発掘業者を優遇して、何でも目をつむってるって。でも、オレたちのような底辺は過酷な生活を強いられてる」


「なんだか、すごく悲しいね…」


 エリナは少し考え込みながら、続けて言った。


「もっとみんなで楽しく暮らせたらいいのに。なんで大人たちはそんなに難しいことを考えてるんだろう?」


「そうだね…」


 レイは彼女の無邪気な疑問に微笑んだ。彼の心の中には、エリナの純粋さが一筋の光をもたらしているようだった。


「オレたちも、そういうことに巻き込まれているんだ…」


 エリナは再び目を伏せた。


「でも、私たちもいつか自分の未来を掴むことができるかもしれない」


「そうだといいけど…」


 レイはエリナの言葉に少し希望を見出しながらも、心の中には不安が広がっていた。


「でも、今はまず目の前のことを乗り越えないといけないね」


 二人は、国やダンジョンの厳しい現実を通じて、未来の不安や希望を共有しながら、少しずつお互いを支え合うことを誓ったのだった。

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