魔鉱石のアーキテクター
只野 段
第1話 ダンジョン
ダンジョンの薄暗い通路を進むレイとエリナは、重苦しい緊張感に包まれていた。
ひんやりとした空気が漂い、得体の知れない恐怖が彼らの心を徐々に蝕んでいく。
突然、耳障りな音が響き渡り、地面が微かに揺れた。
レイは瞬時に振り返り、その音の正体を探る。
暗闇の中で静寂が破られ、洞窟の壁がかすかに震え、遠くから低い唸り声が聞こえてくる。
何かが、闇に潜んでいる。
突如、鈍い光が現れ、その正体が明らかになった。
それは、肉厚な体躯を持ち、無数の触手が不規則にうねりながら近づいてくる存在だった。
触手の先端には鋭利な刃物のような器官が並び、獲物を捕らえる準備を整えている。
その吐息は生温かく、独特の生臭さが周囲に広がった。
瞬間、獲物が動く音がした。
触手が一瞬で伸び、獲物に絡みつく。悲鳴が洞窟に響き、絶望感が漂う。
その存在は無情に、捕らえたものを貪り食らった。
喉からグロテスクな音を立て、内臓をむさぼり、残酷に肉を引き裂いていく。
血が暗い岩の間を滑り落ち、洞窟の奥深くに染み込んでいく。
その影は不気味に動き回り、捕食のたびに新たな恐怖を暗闇に生み出す。
息を呑むような圧倒的な存在感が、彼らの前に立ちはだかった。
その巨大な魔物――『デバウラー』と呼ばれる存在がそこにいた。
その体は不気味に歪み、無数の目が不気味に光を放っている。
レイは恐怖で体が動かなかった。
彼の視界の端に、エリナが震えながら近づいてきた。
「レイ、準備はいい?」
エリナが剣を握りしめ、少し引きずる足で問いかける。
彼女は足にハンデを負いながらも、天才的な剣の使い手だった。
敵の動きを見極め、最小限の動きで致命的な一撃を放つスタイルを持っていた。
「うん、行こう!」
レイも強化された短剣を握りしめ、戦いへの覚悟を決める。
彼らは、レイが制作したパワーグローブと防御マント、パワーシューズを装備しているのを確認し、戦闘体勢に入った。
デバウラーが動き出した。
エリナは機敏に上半身を動かし、触手をかわして剣で一閃、魔物の触手を切り裂いた。
「やった!」
エリナの声が洞窟に響く。
鮮血が飛び散り、デバウラーは不快そうに体をうねらせた。
レイも短剣を振るい、魔物の肉厚な体に深々と突き刺した。
「今のうちに逃げよう!」
レイはエリナに叫び、後退を促した。
しかし、デバウラーはさらに怒り、触手と巨大な舌で二人を襲い続ける。
レイは短剣を振り上げ、素早く触手を斬り払い、ナイフの刃が光を帯びた瞬間、敵の目を一瞬眩ませた。
それは、フォトン結晶がもたらす光エネルギーによるものだった。
そのまま、その体躯に突き刺すと強烈な光と共に魔物の厚い外皮を貫通していた。
エリナはレイの背後に下がり、剣を構えた。
彼女の呼吸は荒く、足の痛みが顔に浮かんでいたが、レイは彼女を守るため、前に立ち続けた。
レイのマントはフォトン結晶とエネルギー結晶を織り込んだ特殊な素材で作られており、魔力を吸収して耐性を高める効果を発揮していた。
再び触手が襲いかかってきたが、レイはパワーグローブを活かし、触手の勢いを逆転させ、敵に突き刺した。
エリナも後方から援護攻撃を加え、レイは素早く後ろに跳び退った。
パワーシューズが彼の動きを軽快にサポートし、体力の消耗を抑えた。
「今だ、エリナ!」
レイの合図で、二人は同時にデバウラーの弱点を狙い、エリナの剣とレイのナイフが魔物にとどめを刺した。
デバウラーは絶命し、二人はようやく息を整えたが、油断はしなかった。
洞窟の奥から、新たな唸り声が響く。
何かが動き出す音が耳に届き、暗闇から再び鈍い光が現れた。
今度は、一体ではない――複数のデバウラーたちが、うねりながら近づいてきた。
「嘘だろ…!」
レイは背筋が凍るのを感じた。
彼らが倒したのは、ほんの一体にすぎなかったのだ。
エリナも絶望の表情を浮かべ、立ち尽くしていた。
「これ以上は…無理だ…」
レイは心の中で呟き、必死に逃げ道を探そうとしたが、すでに四方をデバウラーたちに囲まれていた。
「このままでは…」
エリナは苦しげに呟くと、剣を強く握り直した。その目には決意が宿っている。
「レイは逃げて…!」
そう言い放つと、彼女は迷いなく魔物に向かって突っ込んでいった。
レイは息を飲んだが、その声は彼女の耳に届く前に、エリナの剣が鋭く閃き、魔物の触手を切り裂いた。
彼女の動きは俊敏で、初めはなんとか攻撃をかわしつつ、次々と魔物を切りつけていた。
だが、その時だった。
「危ない!」
レイの叫びが響いた瞬間、エリナは予想外の方向から伸びてきた巨大な触手に捕まり、宙を舞うように吹き飛ばされた。
「エリナ!」
レイは絶望的な気持ちで彼女に駆け寄ろうとする。
しかし、エリナは痛みに顔を歪めながらも、彼に手を伸ばして制止した。
「レイは…逃げて…」
彼女は弱々しくも断固とした声でそう言い、倒れたまま魔物の注意を引くために必死に動こうとしていた。
その姿を見て、レイの胸は締め付けられるように痛んだ。
しかし、次の瞬間、デバウラーの巨大な舌が恐ろしい速度でエリナに向かって飛び出した。
「エリナ!」
レイの叫びが洞窟にこだました。
彼女の体が舌に捕らえられ、無情にも魔物の方へ引き寄せられていく。
エリナの目が驚愕と痛みで見開かれ、彼女の剣が手から滑り落ちた。
レイの手が彼女に届く前に、魔物はその巨大な口を開き、エリナを無情に飲み込んでいった。
彼女の姿が、レイの目の前から消えていく――
「エリナ…!」
レイの叫び声が虚しく洞窟内に響いたが、彼女の返事はなかった。
デバウラーの喉奥で、かすかに彼女の声が聞こえた気がした。
レイの胸に広がるのは痛みと絶望だけだった。
彼が震える手で剣を握り直し、何とか立ち上がろうとしたその時、背後から異様な気配が迫っていることに気づいた。
振り返ると、デバウラーの別の触手が恐るべき速度で彼に向かってきていた。
「くっ…!」
反応が遅れたレイの腕に、鋭い爪が深く食い込み、冷たい痛みが全身を貫いた。
目の前でエリナが消えていくのを見ながら、彼は絶望的な運命に飲み込まれようとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます