第44話 タキヒコ達、教会と敵対する②

「ロージーさん、ロージーさんはおるか!」



 冒険者ギルドの一室――以前、ウズミルを捕縛するための会議が行われていた部屋の扉が勢い良く開かれた。

 中にいた者たちが慌てて振り向くと、そこには真っ白なスライムが怒気を漲らせながら仁王立ちしている。

 ……スライムに仁王立ちという表現は少々無理があるかもしれないが、とにかく、そういった雰囲気を放っているのだ。

 名指しで呼ばれたロージーは、つい先日教会の視察から戻ったばかりで疲労困憊していたが、ただならぬ気配を感じ取ったのか、弾かれるように椅子から立ち上がった。



「ひ、ヒサコ様? いったいどのようなご用件ですか?」

「教会の件でお前さんに相談があってな。帰ってきてくれておったのは幸いじゃわい」

「なんと……ヒサコ様が教会にご用とは何事でしょう。私でお力になれるのであれば喜んで協力いたしますぞ」

「うむ。それではまず、今朝の出来事について話すとしようかのう」



 ヒサコさんは教会の司祭が店に乗り込んできたこと、ワシらを邪教徒呼ばわりしたこと、そしてアイリとカイリに手を上げたことを伝える。

 黙って話を聞くロージーさんじゃが、その顔色は赤くなったり青くなったりと忙しい。

 最後には背中を丸めて小さくなってしまった彼の肩を叩きつつ、ワシらは話を再開する。



「とまあ、そういった事情があってな。これからちょっと教会の連中を懲らしめてやらねばと思っておるのじゃよ」

「ロージーさん、ワシからもお願いしますじゃ。実害が出ないのであればもう暫く待つこともできたが、娘たちにまで被害が及ぶとなれば話は別じゃからな」

「それは……教会に属するものとして恥ずかしい限りです。その者に代わって謝罪申し上げます……」

「謝罪は求めておらんよ。それより、お主の方でも教会を調べておったのじゃろう? 結果はどうだったのじゃ?」



 その言葉を耳にした途端、ロージーさんは両手を机に叩きつけるようにして立ち上がった。

 表情には怒りがにじみ出ており、それだけでもこの街の教会が黒だったということが分かる。



「よくぞ聞いてくださりました! それはもう、酷いという言葉では足りないほどで……! 私は巡礼の旅をしている一司祭としてこの街の教会を訪れたのですが――」



 ロージーさんは、教会内部で自ら見聞きしたことをつらつらと語り始める。

 教会に到着して最初の祈りを捧げた後すぐに、世話役として攫われた子どもたちの一人をあてがわれたこと。

 怯えておったその子に話を聞いたところ、他の子たちも同様の扱いを受けていること。

 そして、司祭をはじめとした教会の者たちに夜な夜な酷い目にあわされているということ……。



「何より許せなかったのは、その者たちがそれらの行為を『気晴らし』と称していたことです! 神に仕える身として、なんと嘆かわしい!」

「そんな……そんなことがあったのかい? 教会といえば、皆の心の拠り所となるべき場所じゃろうが……!」

「ええ、ヒサコ様の仰る通りです。……その場で子どもたちを救えなかった事は口惜しいですが、証拠は揃いました。教皇様のお許しも頂いていますので、いつでも動けますぞ」



 そう口にして顔を上げたロージーさんの目には決意が込められておった。

 ヒサコさんも強く頷きを返しており、準備ができ次第すぐに動くことになるじゃろう。



「……そういえば、ひとつ気になることがあるのじゃが」

「おや、どうしたんだいタキヒコさん。何か気づいたことがあるのかい?」

「いやなに、あの司祭と名乗った男がヒサコさんに向けて何か光のようなものを撃っておったじゃろう? 何か害がないか心配でのう」

「な――っ! ヒサコ様に対して、神の御威光を放ったと? そう仰ったのですか!」

「う、うむ。その場では何事もなかったのじゃが、後から何かあったら嫌じゃからのう。ロージーさんなら、何か知っておるじゃろう?」

「なるほど、そういったことでしたか……。結論としましては、その光がヒサコ様を害することは一切ございません」



 なんでも、『神の御威光』とはロージーさんたちが属する教会の秘奥のひとつらしい。

 聖別、祝福された神具を介して女神様の力の一端を振るうというもので、相手が神を害するものであればその光は刃のごとくその身を貫くという。



「ヒサコ様は『使徒』であらせられます。それは、言葉を替えれば女神様がこの地に遣わされた御身の分身! 自身の身を貫く力がどこにありましょうか!」

「わかった、わかったから落ち着きんしゃい。さっきから興奮しすぎじゃて」

「おっと……失礼、取り乱しました。ともかく、ご安心ください。ヒサコ様が何の影響も受けていないという事実は、我々の正しさを証明することにもなりましょう!」

「ほっほ、それはまた痛快なことじゃわい。あの司祭、自ら墓穴を掘ったということか!」



 かんらかんらと笑うヒサコさん。

 ロージーさんが言うには、ロザリオのようなものが崩れ去ったということもまた、司祭の行いが女神様の意に反していたことの証明になるという。

 司祭が自らの行いで神具を失うということは破門を言い渡されるのと同義であり、その身はもはや教会の庇護の下にはないと言えるそうじゃ。



「それでは、大手を振ってあいつらを懲らしめてやることができそうじゃな。早速、準備を進めるたい」

「御意に。早急に手筈を整えましょう。準備が整い次第お迎えに上がりますから、それまでヒサコ様たちはごゆるりとお休みください」

「そうか……? なんだか任せっきりも申し訳ないのう……」

「何を仰いますか! 『使徒』の求めに応じるのは信徒として当然のこと! 相手が同胞というのは、少々頭を抱えたくもなりますが……」



 顔を曇らせるロージーさんじゃが、表情とは裏腹に、てきぱきと動き回っておる。

 この様子なら、昼前には諸々の準備が整いそうじゃ。

 ワシらは張り切るロージーさんに後を任せ、一旦家へと帰るのじゃった――。




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