第15話 タキヒコ、スキルアップして念願の【うどん屋】への目途が立つ

 ――結論から言うと、ワシのスキル【汁の生成】は【汁・具の生成】へと成長しておった。

 驚くべきことに、その効果は、これまでの人生で食べてきたあらゆるうどんの具材を生成できるというものじゃ。

 一日に生成できる量には限度があるようじゃが、1軒のうどん屋に卸すには十分な量が確保できそうじゃった。



「……これなら、具材の仕込みで夜遅くまで仕事するということはせんでもよさそうじゃな」

「うむ、安心して『うどん屋神在』を開けるというものじゃよ」

「娘たちをほったらかして店の準備をするというのも、忍びなかったからのう。ありがたや、ありがたや」

「しかも、じゃ。前にも言うたかもしれんが、この具材を使って作ったうどんには、色々と能力を上げる効果が付いておるらしい」



 その言葉にいち早く反応したのは、やはり娘たちじゃった。

 スキルの説明はワシらにはピンとこないものだったのじゃが、三人の方は相当な驚き様じゃったからのう……。

 どうやら、食事するだけで能力の向上……ステータスアップができるというのはとんでもないことらしい。

 なにせ彼女ら曰く――



「おとぎ話みたい!」

「絵本に出てきた、魔法使いのお食事だよ!」

「人が集まりすぎて、お店にはいりきらないという事態にならなければいいのですが……」



 ということじゃからの。

 何でも、一般的な『ステータスアップ』は、高価な道具や高度な魔法を利用するものであるそうじゃ。

 ワシのスキルのように、食事をするだけでよいというのは、物語の中だけの話じゃったと……。



「やはり、これがお店の売りですよね……お店に入ってすぐわかるように、張り紙を作りましょうか?」

「いや、それには及ばんよ。お品書きの横に書かれている分で十分じゃ」

「目立たせすぎてしまって、うどん屋じゃなくて別の店と思われるのも困るからのう……」

「たしかに、その可能性は十分にありましたね……」



 そういえば、この世界に来る前に【異世界転移管理課】の方が、ワシとヒサコさんの有り余る『いいカルマ』を使ってレアスキルを付与すると言うておったな……。

 恐らく、ワシらのスキルがこれ程までに規格外なのは、その影響なのじゃろう。

 それはそれで有難いのじゃが、気を付けないといけない場面も出てきそうじゃのう……。



「さてさて、皆の衆。スキルについてはこのくらいにして、うどん屋の開店に向けての話をしようかのう」

「ん、それじゃいいじゃろうな。まず、この辺りはうどん自体になじみがない様子じゃったし、お試し期間を設けるのはどうじゃ?」

「「おためし?」」

「皆にうどんというものを知ってもらうための期間じゃよ。開店記念という事で、少し割引してみてもいいじゃろうな」

「それはいい考えじゃ。まずは一週間くらいの間、炊き出しの日以外は店を開けるとして……うどんは全品銅貨3枚が無難な所かの」

「そんなに安くていいのですか? もう少しくらい高くてもいいと思いますが……」

「よかよか。まずは食べてもらわんことにはどうにもならんでの」

「タキヒコさんのうどんが旨かとはわかっとるばってん、自然と客足も伸びていくじゃろう」

「なるほど……そういった考え方もあるのですね」

「そんなところじゃ。さて、スキルの確認も終わったことじゃし、ファビリアさんを呼びに行こうかの」

「それじゃあ、私が案内しますね。アイリにカイリ、二人も準備して?」

「「はーい!」」



 こうして、ワシらはレイチェルの先導で崩壊した住宅地を歩いていく事になった。

 ファビリアが住んでおるのはレイチェルたちが住んでおった家のすぐ近くということで、かつて見た景色を越えてしばらく歩くと、ボロボロになった家が見えてきた。

 レイチェルが壊れて斜めに掛かっておる扉をトントンと叩くと、奥から同じように扉をを叩く音が聞こえた。

 それに応えるように、更に細かく扉を叩くと、その向こうから声が聞こえてきた。



「この合図を知っているってことは……あなた、もしかして……!」

「ファビリア? レイチェルだけど」

「レイチェル!? やっぱりあなただったのね!」



 勢いよくドアを避けて出てきたのは、レイチェルより少し年上の女性じゃった。

 ワシらの世界でいえば、高校生か大学生くらいの見た目じゃろうか?

 レイチェルたちを見つめる目には驚きが隠せておらず、心なしか涙で潤んでいるようにも見える。



「幽霊……じゃないわよね?」

「失礼ね、ちゃんと生きてるわよ」

「だって、最近は何の音沙汰もなかったし、あなたたちの家に行っても誰もいないし……私てっきり……」

「すぐに連絡できなくてごめんなさい。私も、最近ようやく動けるようになったの」

「皆が元気ならそれでいいわ。けれど、あなたのその服……?」

「ああ、そのことも話さないといけないわね。私と妹たち、死にかけてたところをこちらのタキヒコさん夫妻に保護して貰ったの」



 そう言ってワシらを紹介したレイチェル。

 ワシとヒサコさんは頭を下げてファビリアさんに挨拶をしようとしたのじゃが――。



「ああ! 知ってる知ってる! 炊き出しの人!」



 向こうはワシらのことを知っておったようで、ワシらの手を握ると感謝の言葉を伝えてきた。

 元気はつらつといった感じで、握られた手は勢いよく上下に振られておる。



「いつもありがとうございます! なんかもう、食べた後凄く幸せになって、お腹も一杯になるし、スープも美味しいしで!」

「おやおや、嬉しい言葉じゃのう」

「レイチェル達のことも、本当にありがとうございます!」

「礼にはおよばんよ。あたしもタキヒコさんも、好きでやったことなんじゃから」

「ファビリア、まずは落ち着いて? タキヒコさんの手が取れてしまいそうよ?」

「ああ! ごめんなさい! レイチェルが元気だったのと、炊き出しのお礼を言いたいのと、なんか色々噴き出しちゃって――!」

「変わらないわね……けれど安心した。この様子ならお店のこともお願いできそうね」

「お店……?」



 ワシは首を傾げるファビリアさんに、うどん屋を開こうとしていることを伝える。

 従業員を探そうとしたところでレイチェルが紹介してくれたという事を説明すると、感極まったのかレイチェルを抱きしめておった。

 しばらくして落ち着いた後に改めて返事を聞くと、その場で迷うことなく承諾してくれたのじゃった。



「宜しくお願いします! あと、私のことはファビリアでいいですよ。恩人みたいな人たちに、さん付けされるとちょっとくすぐったくて……」

「ほいほい、わかったよ。それで、ファビリアが望むのなら住み込みという事にもできるのじゃが、そこはどうするかの?」

「住み込み……お店に泊まり込むっていうことですか?」

「いや、住居はべつにあるぞい?」

「最近噂にならなかった? 大きな家が突然現れたって。私たち、そこに住んでいるのよ」

「「広いし、きれいだし、お風呂も大きいよー!」」

「突然現れた家って、まさか、あの凄い家のこと!? 嘘じゃないわよね! ぜひお願いします!」



 頭のてっぺんが見えそうなほど深々とお辞儀をするファビリアに苦笑しつつ、今後のことを簡単に話し合う。

 まずは店と家を見てもらおうということになり、ワシらは揃って来た道を引き返すことにしたのじゃが……。

 その道中、ワシらは気になる話を聞くことになるのじゃった――。




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