第12話 タキヒコ達、【うどん屋】オープンに向けて相談し合う

 ――明けて翌朝。ワシとヒサコさん、そしてレイチェルは『うどん屋』をいつから営業するかについて話し合いをしておった。

 というのも、まだスキルレベルが足りないせいで『素うどん』くらいしか提供できそうになかったからじゃ。

 店を開くこと自体はいつでもできるが、流石にそれだけでは問題があるからのう……。



「――やはり、暫くの間は炊き出しに力を入れた方がいいのではないでしょうか」

「うむ……せめて品数をあと3つか4つは増やしてからとは思っておる」

「品数もそうじゃが、このあたりの金事情についても知っておかんといかんたい」

「お金のこと、私がわかる範囲でなら教えられますよ?」

「そいつはありがたい。まず聞きたいことはじゃな……」



 レイチェルに教えてもらったことをまとめると、まずこの世界の通貨は『銅貨』『銀貨』『金貨』が主流らしい。

 他にも何種類かあるらしいが、ふつうの市民や商人はまずお目にかかれないものということじゃった。

 また、貨幣価値について比べてみたところ、銅貨1枚がだいたい100円くらいの価値だそうじゃ。

 銅貨10枚で銀貨、銀貨10枚で金貨……つまり、銀貨1枚が1000円、金貨1枚が10000円ということじゃな。

 街が破壊される前、大衆食堂では一食あたり銅貨5枚からといった値段設定が多かったそうで、それらを踏まえてうどんの値段を決めねばいかんの……。

 

 話に一区切りついたところで、次は炊き出しについても話し合おうとしておったのじゃが……。

 不意に聞こえたドンドンという音に遮られてしもうた。

 誰かが家の扉を叩いておるようじゃ。

 頑丈な造りとは言え、呼び鈴くらいはつけておくべきかのう。



「どちらさんかの?」

「俺だ、冒険者ギルドの――」

「ああ、その声はマスターさんか、ちと待っておれ」



 はて……いったい何の用事じゃろうか?

 そう思いつつ扉を開けて中に招くと、入ってきたギルドマスターさん他数名が目を見開いて家の中を見渡しておる。

 


「こいつは……店もそうだったが、家の中も凄いな」

「ほっほっほ、ありがとうよ。ところで、何ぞ用事があったかの?」

「おっと、すまんすまん。お前さんたちの炊き出しで生きる気力が沸いたという連中が、礼の言葉を伝えたいとギルドに来たんだよ」

「そのまま大勢で押し掛けるのも大変ってんで、俺たちが代表で来たんすよ」



 それは何とも嬉しい報告じゃ。

 後ろを振り返ると、いつの間にか来ておったヒサコさんも小さく飛び跳ねておる。



「あらあら、そこまで喜んでもらえるなんて……タキヒコさんや、やった甲斐がありましたなぁ」

「ほんにのう」

「ひとまず週2回の炊き出しが行われるとは伝えてあるが、問題なかったか?」

「ああ、それでええよ。ところでじゃな……」



 彼には以前、近いうちに店を開くと話していたからの。

 この機会に必要なことをいろいろと聞いてしまうのじゃ。

 そうして、幾つか質問に答えてもらっていると、マスターさんの腹が鳴る音が聞こえた。



「飯の話をしていたら腹が減っちまった……早く、『うどん』とかいうのを口にしてみたいものだな」

「ふぇっふぇっふぇ。期待してもらってありがたいが、まずは炊き出しを、しかと出来るようにならんとな」

「そうじゃねぇ、とりあえず材料については問題ないんじゃが、人手がな……」

「あぁ――確かにお前の所だと作り手が少ないか」

「いや、作る分にはワシとヒサコさんで何とでもなるんじゃが、それを配る方に人手が欲しいんじゃよ」

「炊き出しの時だけ、暇しておる冒険者さんたちを何人かよこしてくれたら助かるのう。賃金の支払いは出来んが、すいとん汁食べさせてやるくらいはできますたい」



 その言葉にいち早く反応したのは、マスターさんの後ろにおったガジュ君じゃ。

 勢い良く手を挙げ、やる気……いや、食い気?十分のようじゃな。



「飯が食えるなら、俺、ぜひとも手伝いたいっす!」

「まったくお前はがめついな……カミアリ、とりあえずカジュが手伝うそうだ。俺たちはそろそろ戻らねえといけねえが、ギルドにいる連中にも今の話をしておこう」

「ふむ、それはありがたい、よろしくお願いしますじゃ。ガジュ君も、よろしくの」

「ういっす!……旨い飯が~待っている~♪」



 最後に、ドンダー一味が近辺で悪さしているから気をつけろ、という言葉を残して彼らは帰っていった。

 警戒はしてくれるという事じゃったし、ギルドに任せておけば悪いようにはならんじゃろう。

 大きな被害がなければ一旦は様子見ということにして、ワシらは話し合いを再開するのじゃった。

 どこまで話しておったか……そうじゃ、炊き出しについて話そうとしておったところじゃ。



「さて、改めて炊き出しについてじゃな。……まず、飢えに苦しむ人々の為に炊き出しは必要じゃ。しかし、やり過ぎてしまえばそれが当たり前になり、自分で生きるという事を諦めてしまうからの……」

「それで週2回と決めていたのですね」

「うむ、その通りじゃ」

「それに、皆がいつまでも炊き出しに頼りっきりってことになったら、あたし達が満足に動けなくなるからね。本来こういうのは行政……領民を束ねる領主様が何とかするところなんじゃがのう」

「ふところ具合が厳しいんじゃろう……。ところで、今の領主様は、スタンピードの時に留守にしておった方がそのまま領主をしておるのかのう?」

「いえ、前の領主様は責任を取って交代したという事で、新しい方になっています」



 レイチェル曰く、前の領主様よりはマシだという話じゃし、街にもよく視察に来るそうじゃが果たして……。



「どうかしました?」

「いや、なんかが引っ掛かりよるのじゃ……」

「タキヒコさんの勘かえ?」

「そうじゃのう。経緯としては妥当なんじゃろうが、なんともザワザワするというか……いまいち信用ならんというか……」

「見てもおらんのに、領主様を信用せなんだったら、誰を信用せぇっちゅうんじゃ?」

「そうじゃな、難しいのう。きっと気の所為じゃ」



 そう言って笑い飛ばそうとするが、どうにも引っ掛かる。

 気の所為ならええんじゃが……。

 取り敢えず、当面の目標は炊き出しじゃ。

 もっと多くの人がやって来ることを考えれば、寸胴鍋20杯では足りんじゃろうが、ワシらにも限界はある。

 当面は寸胴鍋20杯を出す、ということにして、今以上に人が来るような場合はその時また何かしら考えよう。



「ところで、タキヒコさんの【空間収納】に入れたものは、時間が止まるんじゃったな?」

「そうじゃのう」

「それじゃあ、野菜なんぞは今のうちに切ってしまって、入れておいていいかのう?」

「ああ、そうしておこうかの。したら、ネットスーパーで野菜ば買おうかね」



 その会話をレイチェルが不思議そうな顔をして聞いておった。

 使っておるワシにもよく分らんところがあるし、そういうものなのだと話すと苦笑いしつつも納得したようじゃ。

 その後は起きだしてきたアイリとカイリにも手伝ってもらいつつ炊き出しの準備を進め、2日後の炊き出しの日を迎える。

 早朝から寸胴鍋20個分のすいとん汁を作って、お昼になったらラジカセを流しながら台車を引いてうどん屋の後ろにある広場広場に向かった。

 結果として、その日の炊き出しでワシらのスキルが上がる事は無かったが、目に見えて人が増えておったことに、1度目より大きな手ごたえを感じたのじゃ。

 そうして更に2日後、意気揚々と3回目の炊き出しを始めたのじゃが……。



「誰に断って炊き出しなんぞしとるんじゃワレェ」

「ぶっ殺すぞコラァ」



 炊き出しをするワシらの前に、なんともガラの悪そうな男たちが現れたのじゃった――。




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