三つ子の魂百まで

明鏡止水

第1話

ある日のこと。

3歳のむすこが、ハッキリと、りゅうちょうにはなしだした。


「三つ子の魂百までってあるでしょ。ぼく、さんさいまでしか生きないから」


「ふあぁっ……?!」


俺の方が赤ん坊のようなリアクションをした……。


ある日のこと、とは言ったが。

その日はそいつの誕生日でケーキも予約してあるし飾り付けも午後する予定の、休日、あさ7時くらいの時だった……。


「さんさいでぼく死んじゃうけどさ、まあ、夭折っていうか。天才って早く去らないと世界が加速しそうじゃん? それじゃ、あと1年、ちょっとたのむよ、パピー」


いつもはパパだろ?! 誰だお前。


「いや、ま、待ってくれ、太郎。お前は期待の長男だから、長生きしてくれないと、じゃなくて、パパ、太郎のこと、ア、アイシテルから一緒に長くいたいなー? どうちたのかなー? 太郎ー?」


「どうちたの、じゃないよ。パピーがどうしちゃったんだよ。わかったらぼくが死ぬまであと1年、立派に『長男』の面倒を見てね。ぼくが死んだらその後の親族や知人友人からも心配されるだろうからね。せいぜい良い父親でいなきゃ」


一人息子は淀みなくパパたる俺に説教する。俺は、バグるしかなかった。


「あのな、太郎。人間そんな簡単に死ぬなんて言うもんじゃないぞ。検診とかもしっかり受けてお前は特に発育に問題はないし、ママは医者、『女医』さんだぞ? 臓器も血液も骨髄も健康そのもの。ハッキリ言ってけんこう、健康」


むすこよ、パパもパパになってからまだ年数が浅いのだ。うまいこと言いたいがこれが限界。というかだいたい……、三つ子の魂百まで、なんて言葉ほど未来に向けられた言葉はないじゃないか。


「太郎、お前は医者のママのヒモだったパパと違って聡い子だ。それこそ、百までいきろ。男だろ」


……われながら、なんなんだよ、おとこだろ、って。心の中ではせめて間違ったことだけは言わないようにつとめてみた。


「パピー、男性の平均寿命知ってから出直そうよ。この1年でぼくもできる限り、生き抜いてみせるからさ……。ママは悲しみ過ぎちゃうと今後の人生、救える命がたくさんあるのに潰れちゃかわいそうだし、パパ、恥を忍んで、まあ、3歳だからそんなに恥かいてないんだけどさ、よろしくたのむよ」


俺は、いよいよやばいやばいやばい、とおもった。


「太郎ッ、お前、本当に! この一年で、死ぬのか?!」


汗が出てきた。むすこの肩をつかんで真正面から訴える。どうした、どうする、どういうことだ。


「ぼくは、さいこうにしあわせなハッピー最期を迎えるからさ、まあ、つきあってくれよ、パパ。男だろ? 男同士、魂で語ろうぜ」


「……! 太郎!!」


真っ直ぐに涙をこらえて太郎を見る。不意に疑問に思った事を太郎に聞く。


「太郎……、3歳、三つ子でしんじまうのか?」


「うん」


「……おまえ、1歳、って、生まれてからどれくらい経ってる?」


「365日。閏年だとプラス1日」


「じゃあ、2歳は……」


「更に1年プラスで、ふたつごってやつかな……」


じゃあ……。


「おまえ、もうオギャアとうまれて3年たったから、三つ子じゃね? それとも4歳になるまでは三つ子期間なの? 猶予みたいなやつ? 俺、パパ、パピー、バカだからわかんねえよ」


「あ」


「『あ』?」


……。


むすこがだまる。俺よりはるかに頭のいい、母親似の美形の、俺と血がつながってるとは思えない男児だ。


「……ちょ、……っと、交信してくる!」


「待て!! なんだ交信て!」


「ネットで仲良くなったヒト! ちょっとTikTo◯でコメントして聞いてくる!」


「バカなの?! お前?!」


我が家にはIQとか誰かの生まれ変わりなのか、はたまた宇宙人なのか、変わった3歳児がいるが。


とりあえずネットと子供の吸収力こえーな。


とんでもない過去。

とんでもない未来。


天才はいつもいる。


かんがえていることは、ことばやたいどにしてだしてくれるとバカな俺でもわかるけど。


親凸? したら相手のアプリのアカウントがまもなく消去された。そこでむすこが。


「あー、ぱぱ。もっとたくみなわじゅつでじょうほうをひっぱりださないとー」


「いっきに、昔の俺に似るのヤメテ。ヒモな自分マジ凹む。女の子の家にズルズル居座るテクだったのに。いまさら子供に取り入ろうとするネットのヤバい奴に披露したくねえよ……」


「ぱぱのヒモテクはそんけいしてるよ、ひ・も! ひ・も!」


朝から、あさから!


わけわかんねえ!!


三つ子の魂百まで、の三つ子って結局どの期間まで?!


あと、愛息子はどこでそんなん覚えたの?!


この一連のミステリーとサスペンスとホラーみたいなコメディアンもとりあえずネタの段階で受けるかわかんないコントなに?! 


「なあ、太郎」


「なあに、ぱぱ」


「おまえ自分が死ぬの怖くねえの?」


「めっちゃこわい。ままならたすけてくれるかな? ……ぱぱも、たすけてくれる?……」


「……。あたりまえだ!!」


わがやの、3歳児と親である俺は、普通じゃないかもしれない。


それでも。


「大きくなって幼稚園行け。誕生日おめでとう。きょうケーキ食うぞ」


「……うん……」


むすこが泣き出した。


……死にたくなったらパピーが抱きしめてママがそばにいるよ。死にたくないならやっぱりお前のそばにいて繋ぎ止めるし、ママもママでできる事フルでやるぞきっと。

遠くに行きたくなったら安全な国や地域に旅立てや。


だから、それが、できるまで……


「おまえは、おれの、だいじなこどもだ。いつまでたってもな……!」


頭をなるべく大きく広げた手のひらで力強くぐりんぐりん撫でてやる。


「ぱぱ……」


泣き続けながも愛息子は強く言う。


「ままもあたまいいけど、ぱぱもあたまいいよ……」


「……。そうか。学がねー、学がねー、って言い続けて不安に、心配にさせたな。パピーが悪かった。大人にできる精一杯を、一生懸けて、おまえに見せるよ、太郎。俺の背中はまだ大きいぞ」


「どういういみ?」


「おおきくなったら自分で気づけ! しばらくネットは一緒にチェックだぞ。 ほかにもやりとり、コメントとか投稿とかお話したやつ洗いざらい言いやがれ! ママが帰ったら、驚愕するぞ」


「ままがおどろくところみてみたい」


「そんなんお前が大きくなって背を抜くなり勉強がんばるなり恋人ができるなり、生きてるだけでママ喜怒哀楽しまくるぞ! わかったか!」


「はい! ぼくおにいちゃんになってもがんばるね!」


「ナニソレ?!(驚)」byパパ  

                    〜完〜






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三つ子の魂百まで 明鏡止水 @miuraharuma30

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