女装の麗人は、かく生きたり
ショーン田中/角川スニーカー文庫
彼と彼女の前日譚
――生とは執着の結果だと、僕は知っている。
命への渇望、愛への粘着、家族への拘泥。
誰もが何かに執着するからこそ、生は生たり得る。執着がない生など灰色だ。
だから、きっと僕の人生は灰色そのものだ。リオ゠カーマインと名乗る少年には執着がない。
村の誰かが、僕を気味の悪い人間だと言った日も。
村の長が、僕を彼女への生贄に選んだ日も。
心に揺らぎは起こらなかった。
必要ならば仕方がない。むしろガリガリと骨を削るような労働に勤しみ死んでいくよりは、そちらの方が幾分かマシな色合いかもしれない。
興味を覚えたのは、ただ一つ。
村の誰もが怯え、恐怖し、生贄さえ差し出そうという彼女――
傲慢にして不遜。
猟奇的にして美食家。
唯一であり至強。
世界最高の位置から全てを睥睨する彼女は、一体どんな景色を見ているのだろうか。きっと、僕とは全く違う景色が見えているのだ。
「――死にたいか、それとも生きたいのか?」
果たして、僕は竜と出会った。
彼女は美しい死のようであり、底知れぬ海のようであり、咆哮する山そのもののようであり。
――執着を失った少女のようだった。
これが、世界に殺せるものがいないと語られる精霊の頂点で。生物にとっての最高の到達点。
きっと僕は、がっかりしたのだ。彼女には、竜と語られるソレには、隔絶した存在でいて欲しかった。僕には想像もつかない、超越した在り方をしていて欲しかった。
こんな――ありきたりな生き物だったなんて。
だから僕は言った。手の平ほどの失望と、諦観を込めて。
「――」
今でも、覚えている。幼過ぎる僕には、その言葉の意味も分かっていなかった。
それが――竜と命の獲りあいが始まる合図になるだなんて、欠片も気づいていなかった。
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