何処の世界《ゲーム》でもやる事は基本変わらない。

第22話

 2016年代にその存在が世間に認知され始めたVtuberは今の時代でもしっかりと残っている。そして、最早かつてのアイドルと対を成すほどに成長した彼女或いは彼らの世界は技術の向上と共に出来ること、行ける場所も増えた。

 そして今、新エリアが開放されて1週間が経ち、そんな彼女達も新エリアにやって来た。しかも、今回は公式からのオファーもあり、複数社跨いでのかなり大規模な企画である。


「見ろよ見ろよ軍曹。

 PTRS1941だぞー?」

「バッカお前、こちとらM79とパンツァーファウスト100やぞ!」


 そんなアイドルアイドルしているVtuber達の脇でマガトとMi-75は自分達の話をして盛り上がってた。2人とも、モリゾウ達が見たらキモいと断言するぐらいはニコニコだ。

 そして、そんな2人を眺めるのは3人のガンナーで、メイドと白黒エルフである。


「気持ち悪いですね」


 メイドが断言し、黒エルフと白エルフは笑う。


「まぁ、仕方ないだろうね。

 彼等もこのゲームにハマったんだろう」

「僕等と一緒だ。

 君もそうだろう、クアトロ?」


 黒エルフことシェリフが笑い、白エルフことアキが嗜めた。メイドことクアトロ・セブンはそうで御座いますねと頷き、それと同時に否定した。


「ですが、私はあの様にデレデレと気持ち悪い表情と態度はしていませんよ」


 3人もやはり目の前でキャピキャピと進行しているVtuberとそんな彼女彼等を補佐するUTSプレイヤー達をまるで他人事の様に眺めている。

 彼等5人が呼ばれたのは単に都合があい、尚且つガンナーの腕が高いからだ。


「しかし、ミナコ君のグレネードランチャーならあのワイバーン攻略は非常に楽になるのだろうね」

「そうですねー

 サンパーなら1人で30分で倒せましたよ。通常榴弾です」


 Mi-75の言葉に4人は笑う。


「あの3人が聞いたら君しか出来ないと断言するだろうね」

「因みにマガトはタンクゲベーアで15分だったよ。検知ギリギリされない距離からずっと目と鼻の穴と喉の奥撃ちまくってた」

「射距離800、僕なら余裕。

 と言うか、僕等より君達の方が異常でしょ」


 マガトの言葉にMi-75は大きく首を縦に振る。


「僕等は順当だろ」

「正面から普通に戦ったよ。モリゾウ君達からアドバイスは貰ったけど」

「手榴弾は使いましたが」


 ワイバーンに挑んだのは2人だけでなくメイドと白黒エルフも3人で挑んだのだ。しかし、その戦い方は最前線に拳銃を持ったエルフ2人とオートマチックライフルを握ったメイドが超接近戦しながら戦っているのだ。

 しかも誰もダメージを負っていない。一切HPが減っていないのだ。


「今度このメンバーでなんかやろーよ」

「中間いないじゃん。

 トドさんみたいな人1人は欲しいよ」

「ならトドさん呼ぶ?」


 5人は番組そっちのけでメンバー編成を話し始め、話題を振られたのに気が付かなかった。


「あ、あのぉー?」


 そして、その名を知らぬ者は殆どいないと言われる程に有名なメインMCを務めるVtuber、轟マジメが声を掛ける。


「ん、ああ、終わったのかね?

 皆んな、終わった様だよ」


 シェリフがそれに気がついて4人に告げる。


「いえ、まだ終わってませんよ!?

 私たちの話聞いてました!?」


 マジメがちょっちょっとと芸人の様な動きで突っ込む。


「いや、興味無いから聞いてなかった」


 マガトが話聞いてた人ーと尋ねると誰も何も聞いていないので全員首を振る。


「えぇ……

 では!改めて説明するのでちゃんと聞いていて下さいよ!

 皆さんがそのジョブを選んだ理由とその魅力を教えて下さい!」


 マジメが言うと全員がお互いの顔を見合い、それから代表する様にシェリフが答えた。


「理由はモリゾウ君が銃を使えると言ったからだよ。魅力?銃が使える事だろうね。

 そもそも、銃が使えなかったら僕等はここにいないよ」


 シェリフが笑いながら答える。コメント欄は炎上一歩手前だ。マジメは勿論運営サイドは焦っている。


「な、なるほど!

 では銃はかなり強いと話ですが、実際どうなんですか?」

「さぁ?

 我々はそれが当たり前と使っているからね。特段強いとは思わないよ。と、言うかそう言う話なら我々よりファニーキルカムズの面々の方がよかったんじゃ無いかな?」


 シェリフの言葉にアキが苦笑する。


「師匠、あの3人がこんな依頼受ける訳ないじゃないですか」

「なるほど、確かに」


 アキの言葉に4人は笑う。


「取り敢えず、我々は余り気にせず話を進めると良い」


 シェリフはお前ゲストだろうがというコメントを一切無視して話を進める。

 因みに全員が番組公式のコメント欄と各プレイヤーが流す自身のチャンネルが見れるのだが、シェリフ以外は自身のチャンネルコメント欄しか見てないし、その窓の大きさも非常に小さい。コメント欄もこの5人に対して思う事はいつもと変わらないので寧ろ放送そっちのけで5人のパーティーで盛り上がっている。

 それから、ボスモンスターを討伐しに行くとのことで移動する。道中そこそこ強いゴブリンなどが出て来てそれを皆でタコ殴りする戦いを見ながら、クアトロ・セブンが暇そうに告げる。


「つゆ払いなら我々が出た方が早いのでわ?」

「まーまー彼等が楽しそうだから良いじゃないか」

「そーそー私らも付いてくだけで金貰えるし」


 そんな話をしていたら空を飛ぶ、鳥タイプの魔物が出て来る。

 格闘武器が届かず速度も速い為に弓矢が当たらない。魔術も弾速が矢よりも遅い為に言わずもがな。全員が5人を見る。5人は最早番組と言うことを忘れて取り敢えず5人で何処のボスを狩りに行くかと言う話をしていた。


「あの!あのモンスターを落とせますか!?」


 やはりマジメが代表して話し掛けると5人はめんどくさそうにお互いを見やり、無言でじゃんけんを始める。

 しばらくしてMi-75が負けた。


「じゃ、軍曹よろしくー」

「チクショー」


 Mi-75がどれどれと立ち上がり、M79を担ぐ。


「ギブアップするなら早めに言ってくださいまし。

 私が次なので」


 準備をするMi-75にクアトロ・セブンが告げるとMi-75は中指を立てて返事をする。

 そして、マジメに連れられてMi-75が前線に来た。


「で、私はどの鳥落とせば良いの?」

「全部だよ!」


 隣で弓矢を持ったVtuberが告げる。


「え、全部落として良いの?」


 Mi-75が担いでいたM79を捧げ銃の様に顔の前に持って来た。そのM79は虎柄のペイントがされている。


「頑張れローチ」


 マガトはそう笑って応援し、クアトロ・セブンはBARに弾倉を込める。アキとシェリフはタバコを咥え、マガトは楽しそうにPTRS1941を撫でていた。

 Mi-75は丁寧な所作で40×46mmHE弾を込める。そして、スッと構えると引き金を引く。ポンと可愛らしい音がし、その数秒後に弾が当たって爆発音がした。


「当てやがった!」


 UTSプレイヤーやVtuber達が驚いた



「そのネタ分かる奴らなんか居ないんだからさ、さっさと片付けなよ」


 アキが紫煙を吐きながら告げる。


「いーもんねー!

 私のリスナー全員分かってるもんねー」


 Mi-75が謎に自慢しながら新しく弾を詰め、それから少し狙って撃っていく。その間もMi-75はアキやクアトロ・セブンと言い争いをする。

 その間もグレネード弾は的確に空を飛ぶ鳥の様なハーパーの様な奇妙なモンスターに直撃し、数を減らした。

 ものの5分ほどで全滅する。


「す、凄い……」

「矢より弾速遅いのによく当てれるな」


 Vtuber達が驚きな声を上げる中、残りの4人はよっらせと立ち上がる。


「遊び過ぎだよ軍曹」

「早くしないと新しい敵が来てしまうからね」

「散弾は無いのか」

「やはり私が出れば良かったですね」


 それからMi-75に辛辣な言葉を投げかけて先を歩き出す。


「そろそろ飽きたからちゃっちゃとボスまで行こう。

 僕等も活躍しないとスポンサーに怒られる」


 アキがめんどくさそうに腰のM1851を撫でる。シェリフも笑いながら葉巻に火を付けた。


「ファンタジアの皆様は暫しご歓談を」

「僕もゴカンダンしてて良いかい?」


 クアトロ・セブンの言葉にマガトが尋ねるとクアトロ・セブンは笑った。


「新しいおもちゃを手に入れた貴方が?

 面白いご冗談ですわ」

「真顔で言われてもなぁー」


 マガトはハッハッハッと笑いながらPTRS1941を担ぐ。

 先頭はクアトロ・セブン、中衛にアキとシェリフ、後衛にMi-75とマガトが並ぶ。


「では、行きます」


 運営の想定ではガンナーは基本後方職で最も火力が高いと言う立ち位置を想定していた。勿論前衛にも回れるようにショットガンやサブマシンガン、拳銃と言った武器達もある。しかし、それでも最前衛で戦えるだけの近距離は行けないと踏んでいる。

 そしてこれはUTSプレイヤー達の今も尚ある共通認識であり、何ならモリゾウ達のワイバーン攻略でより一層強く認識された共通認識と言って良い。

 しかし、今この編成は本来中衛であり、何なら区分的には後衛に属しても良いクアトロ・セブンとBARが最前衛に来ている。


「あの、何故クアトロさんが最前衛にいるのですか?」


 やはり代表としてマジメがMi-75に尋ねた。


「は?

 決まってんじゃん。勇者の機関銃持ってるからよ」

「軍曹、だからそう言うネタ通じないって。

 この人ら普通の人なんだから」

「いーもんねー!

 私のリスナー全員分かってるもんねー」


 Mi-75はそう叫ぶとM79を構えて無造作に撃つ。それに合わせてクアトロ・セブンも槓桿を引っ張り、初弾を装填した。


「だんちゃーく」


 Mi-75が告げる。


「今!」


 そして爆発音と同時にMi-75が叫び、クアトロ・セブンがBARを撃ち始める。7.62×63mm弾、または.30-06スプリングフィールド弾をばら撒き始める。

 その凄まじい音にVtuber達はキャァと可愛らしい声で耳を塞いだらするが、CoOのプロプレイヤー達は一切無視をして自身の役割ロールを熟す。


「リロード!」


 クアトロ・セブンが告げると、シェリフとアキが実に優雅に前に出て来る。羽織っているコートを翻し、両手に抜いていたリボルバーを構えて撃ち始める。

 因みにこの時点でまだUTSプレイヤーやVtuber達には敵が見えていない。


「何がいるんですか!?」

「何って、敵だよ?」


 マジメな問いにPTRS1941に漸く弾を込め始めたマガトが答えた。


「300メートル先にオーク含むゴブリンの集団がいて、軍曹が先制でオークを殺したのさ。

 で、クアトロがそこに機銃掃射で混乱と漸減しながら間合いを詰めるのさ。

 僕と軍曹は不意打ち防止要員ね」


 マガトの説明にマジメはなるほどと頷く。前方ではクアトロ・セブンがリロードを終えて丁度12発を撃ち切ったシェリフとアキと立場を代わる。

 2人ともこれまたよく言えば絵になる、悪く言えばカッコつけをしながらクアトロ・セブンの後ろに戻る。2人とも空になった弾倉を交換して、新しい弾倉を付けるとホルスターにガンスピンをさせながら入れる。

 それを右と左でやりながら歩くのだ。クアトロ・セブンもBARを構えて歩きながら撃つ。


「全滅です」

「その様だね」

「敵の強さは変わらずか」


 前衛と中衛を務めた3人はそれぞれの感想を述べる。敵の強さは相変わらず、とは些か語弊がある。

 明らかに強くなっているし基礎レベルは80代だ。それを凌駕するクリティカルヒットの補正や基礎攻撃力の高さが銃にある。

 クアトロ・セブンの射撃は一見適当に弾をばら撒いてる様に見えて実に的確に上半身や足などの機動を阻害する場所に当たっているし、シェリフとアキの拳銃弾もゴブリン達の手や鼻、目と言った急所や武器を持つための部位に弾が当たっていた。

 

「何で当たるんだよ……

 アンタもよく指位の大きさにしか見えなかったオークに当てれたな」

「勿論です。

 プロですから」


 バックアップに詰めて来たUTSプレイヤーが驚いた顔をしながらMi-75に告げるとMi-75はドヤ顔で答える。


「それよか、これ、本当にボス倒しに行くだけ?」


 Mi-75がマジメに尋ねる。右手にはパンツァーファウスト100を握り、M79も右肩に担いでいた。嫌な予感がする。過去に何度も経験した、ねっとりとした冷や汗を伴う何とも言えない感覚。片足が吹っ飛んだ時と同じ様な、それよりはマシだが、だからと言って何度も経験したいか?と言えばしたくない感覚。

 それが今、Mi-75を襲っている。


「え?ええ、そうですよ。

 この後、新緑のアルラウネと言うボスがいるのでそれを倒しに行きます」


 マジメが事前にお配りした時程表にも書いてありますよと告げて抗議して来るが、Mi-75は聞いていなかった。

 と、言うか手にしたパンツァーファウストを不安定な、腕一本で構えて撃つと言う本来の撃ち方とは全く違う用法で放った。理由は簡単、正面にチラリと何かが光った。


「敵し---


 叫ぶ前に、Mi-75の頭が吹き飛び、それと同時に側面より猛射と言うに相応しい銃撃。

 クアトロ・セブンやシェリフ、アキはそちらに対して瞬時に銃撃を開始したが、それを防ぐ様に狙撃が行われる。


「スモークスモーク!」


 クアトロ・セブンが叫び、アキやマガトは素早くスモークグレネードを撒く。


「軍曹回収しながらついて来い!」


 マガトはマジメに頭部、下顎より上から無くなったMi-75を指差し慌てふためいている他のプレイヤーに森に入れと指示を出す。

 それから手持ちの手榴弾を射撃されている森に投げまくると周りにいたプレイヤーを引き連れて森に入った。

 マガトがこの全員の指揮官になった瞬間であった。

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