プロFPSプレイヤー、王道ファンタジーゲームに挑む。
はち
異世界(別ゲー)から問題児達が来た。
第1話
「種族って何だよ」
現代に普及するオンラインゲームにおいて殆どの場合に自身の分身たるキャラクターを作成する所から始まる。
そして、そんなキャラメイクでネームの次にあった種族を前に固まっていた。種族は膨大な量があり、種族毎にのちに有利になる職業が決まる。
例えばドワーフを選べば高い体力と腕力を獲得出来、最初から“鍛治スキル”を保有していたり、エルフを選ぶと魔力の総量が多種族より多くまた、高位の魔術を行使し易くなる。
そんな訳で、大量にある種族を前に我らが主人公、キャラネームはモリゾウは頭を悩ませていた。
種族や外観を丸々飛ばして職種を選ぶ。これはすでに決まっている。ガンナーである。
すると、種族は自動的に妖精種(ギリードゥ)となった。それに伴い外観を選択できる様になったが、その外観はギリースーツを纏った顔のない人物という風体で変更可能な部分も瞳の色だけであった。
性別も無く、種族特性は妖精種で魔力値が高く初期の状態で隠匿や音送り、幻覚等の相手を一時的に惑わせたり驚かせたりする様な魔術が使えるのと、草原や林、荒野、砂漠等自然物が多い場所では周囲の風景に適した色に体が変化すると書いてあった。
「最高じゃん」
モリゾウは大喜びで目の色をランダムにしてキャラクリを終わらせ、オンラインに飛び込んだのだった。
彼は元々FPS界隈の人間でファニーキルと言う相手を面白おかしく殺したり超絶テクニックを持って殺す動画をメインに上げている配信者である。
そんな彼が何故、剣と魔法の王道RPGと呼び名の高いウルティマ・トゥルー・ストーリー、通称UTSをやろうと思ったのか?と言えば彼が単に彼が今し方選択した“ガンナー”と言う職種である。
つい1ヶ月程前に3周年の大型アップデートを受けて実装した新しい職種の一つで、アーチャーを超える遠距離戦特化の職としてPVなどで大々的に狙撃銃や機関銃等をぶっ放していたのだ。
そして、実装予定の銃の内いくつかが公式の案内とともに紹介された。そのうちの一丁にあったのが彼が使って見たいと思っていた三〇年式歩兵銃があったのだ。
初期の方に手に入る銃だったので彼は自身の興味を抑えきれずに買ったのだのだった。また、PVでは世界のマイナーどころの銃もチラホラと出ていたのだ。
そんなまだ見ぬ銃に憧れた有名配信者のミリオタが一匹、運営の狙いかそれとも誤算かホイホイと新規加入して来たのだった。
ゲームを開始するボタンを押したモリゾウの視界が白く眩い光によりホワイトアウトしたと思ったら、次の瞬間には何処かの、ヨーロッパの田舎町みたいな風景の場所に居た。
大きな噴水と、それを囲む様にベンチが置かれておりプレイヤーやNPCが雑談をしたり、マーケットをしたりしている。
そんな中で1人ギリースーツに身を包む不審者はかなり浮いていた。
しかし、モリゾウはそれを気にせずにステータス画面を開く。初期武器の確認だ。
「おいマジか!?」
そして、大興奮した。その心拍数上昇からゲーム側から身体に極度の興奮状態が出ていますと警告される始末だった。もちろん、そんなものを無視したモリゾウはその興奮の元凶を早速装備した。
「なーんで十八年式村田銃?
三〇年式じゃねーの?」
モリゾウはうひょーっと奇声をあげながら銃を構え、適当なNPCに狙いを定めて引き金を引こうとする。弾は出なかった。視界には“このエリアは非戦闘エリアです”と表示されている。
つまりは無闇矢鱈にPKやNPCを殺したり出来ないと言うエリアに指定されているのだ。モリゾウは仕方ないと言う顔で周囲を見渡す。
周りのプレイヤー達は奇妙な格好をしたモリゾウを訝しげに眺めるだけで話しかけたりはしない。
モリゾウはそんな周囲の目を気にせず街の外に向かう。その間に他の武器を探すと拳銃としてウェルロッドMk.2と柄付き手榴弾があった。
「なんでウェルロッド?
イかれてんな!」
モリゾウはウハハと笑いながらウェルロッドを抜き放ち、目の前を歩いているプレイヤーの頭を撃ち抜いた。情け容赦無いPKだ。
PKをしてもモリゾウはそのプレイヤーの死体を漁ったりせずに素通りをする。その後、目に付く範囲のプレイヤーをPKしまくった。その理由としては単純に銃の性能評価だ。
ゲーム内では基本的に手ブレを除けば、照星と照門が一直線上にあればその先に弾は飛ぶ。其処にゲーム内独自に弾の能力と称して射程と弾道を決めれる。ゲームによっては射程を決めてそこで弾が消失したりもするが、このゲームは極めてリアルな、と言うかモリゾウ達がやり込みにやり込みを重ねているVRFPSのコール・オブ・オナーと全く同じであった。
「CoOと同じやん。
つーこと……」
モリゾウはウェルロッドを仕舞って十八年式を構え、300メートル先に見えた子供の様な大きさの人影に狙いを付ける。
負い紐を伸ばして左腕に巻き付け、呼吸を整える。大きく吸って少し吐いて止めると同時に引き金を絞った。
11.15mm口径の黒色火薬を使用する単発式のボルトアクションライフルだ。弾倉を保有しない為に一発撃ったら一発装填しなければならない為に継戦能力は低い。
「おー、当たった!
こりゃ良い!風さえ読めればどんな距離でも弾は当てれるな!」
モリゾウはヒャホーと楽しそうに森の中に入る。
そして、息を殺して木の影に。すると、徒党を組んだプレイヤー達が殺気立ってやって来るのが見えた。
「復讐に来たのかな?」
モリゾウは楽しそうに笑い、ウェルロッドの弾倉を確認する。弾薬には既に4発しかなく、薬室の弾を入れても5発だ。
十八年式は薬室に1発、手元に6発の7発しかない。近接戦闘用の武器は小さな錆びたダガーが一本で説明欄にも“ギリードゥが森で見つけた錆びたダガー、研げばそこそこの切れ味になるが、こんな物を研ぐなら新しいものを買った方がまだ安い”等と書いてあった。
プレイヤーの数は12名と全弾ミス無くヘッドショットを決めれば対処可能だ。
「あの野郎どこ行った!」
「こっちの方向に向かったのは間違いない!
あんな変な格好してるんだ!すぐに見つかるはずだ!」
街道の様に少し整備された道をまっすぐ歩いていく新人達は道から外れた森に体育座りをしているモリゾウには気が付かなかった。
モリゾウ自身もそうだがこのガンナーと言う職種自体がこのゲームでは非常に評判が悪い。理由は簡単、まず弾が当たらない。勿論、FPSで遊んでいたプレイヤー達はある程度の仕組みを理解してるのでそれを踏まえて射撃をしたが、この銃と言う仕組みがこれまた厄介な代物だった。
基本的にゲームには即死部位と言う物があり、その細部はゲームによって違うが基本的には皆同じだ。頭部と胸部、特に心臓だ。最も本当の意味で即死するのが頭部のみで、尚且つそれを防ぐ為に防具で固める。
そして、FPSとRPGゲームの大きな違いとして防具の存在だ。
勿論、FPSにも防具はあるがその概念は現実に密接にリンクしておりファンタジーの要素たるINTやらSTRという項目の伸び代が殆ど無い。
レベルと言う概念もパワーアップでは無く使える銃や技能獲得が増えるだけで、身体能力は殆ど変わらないのだ。
そして、このゲームではFPS界隈と違いこのレベルや各種ステータス値がより密接に反映される。つまり、STR値を上げたプレイヤーは銃弾の攻撃力を大きく上回る防具を付けており、手ブレや風、そもそもの飛翔距離等を考慮に入れていない射撃は防具により全て弾かれる。
そして、その音と光、発砲煙は一瞬でも自身の視界を塞ぎ、相手に付け居る隙が出来た。また、STRやDEXなどと言った値をいくら上げてもそれを乗算出来ないので実装1週間ほどして“こんなもの使うなら普通に弓矢に魔術乗せて射る方が強い”となってしまった。
また、ギリードゥと言う種族に関してもその能力はエルフや既存の攻撃魔術が扱える妖精種の方が初心者にオススメだし、そもそも顔がないので外見を弄れないと言う事で人気は皆無だし、何よりも公認YouTuber達が皆一様に「これ使う奴は縛りプレイ+ドMプレイだろ」と笑うレベルだった。
故にこのギリードゥを扱う新人プレイヤーは勿論玄人も態々課金して新しいキャラクターを1から作るなんて事はしなかった。扱ったプレイヤーも本実装前にあったβテストサーバーで限定的な性能のこのギリードゥは自然物の中で停止していると気配がゼロになり、魔力感知にも反応しない。
また、体力回復も徐々に行われ、日光や雨等の天候によるHP回復の増進もあるのだ。
なので、モリゾウがこうしてじっとしていると初心者の彼等は勿論高ランクのプレイヤー達も発見出来ない。
「じゃあ、後ろから襲っちゃいますかー」
モリゾウは培った技術で音を立てることもなく素早くその場に伏せて十八年式を構える。
そして、杖を持ったプレイヤーの頭に狙いを付けた。引き金を絞って遊びを消す。手ブレや筋肉のブレが最小になった瞬間に引き金を絞った。
プレイヤーは頭部に防具を付けておらず、綺麗に撃ち抜く。ところで、人間は撃たれた際にどちらに倒れるか知っているだろうか?
基本的に撃たれた方向から反対側に、詰まる所、弾丸が抜けていく方向に倒れる。これは弾丸による衝撃により人間が勝手に倒れるからだ。
しかし、一定の条件を満たすと射手側、つまり撃たれた方に倒れるのだ。
そして、その条件はいくつかあるが今回はプレイヤーがモリゾウに背を向けて居た、そして、攻撃されるとは思っても居なかった、モリゾウの銃弾が非常に大口径で至近距離故の高速だった事だ。
これにより、弾着した弾は捻転しつつプレイヤーの前頭葉の殆どを吹き飛ばしながら前方に突き抜ける。弾丸は侵入口と脱出口ではその大きさは全く違う。
そのせいで、吹き出される形の反動で身体はモリゾウ側に倒れる。この際でモリゾウ以外の全員が誤認した。敵は前にいる、と。
「あ、ここまで同じなんだ」
モリゾウは驚いた様に笑い、それから膝射の姿勢を取る。それから後方から目にも留まらぬ速さで残る弾を全て撃ち込んだ。鎧も革鎧、11ミリもある鉛玉を至近距離から浴びて防げる物はトップランカーレベルの装備する防具だ。
また、基本的にモリゾウは金属防具を付けるプレイヤーは喉や頭を狙っていた。故に彼に狙われたプレイヤーは振り返る頃には半数になっていた。
また、優先的に杖や弓矢等を持った者を撃ち殺したので復讐者達は最早遠距離攻撃の手段がない。
「弾切れ!」
モリゾウはそう笑うとウェルロッドと錆び付いたダガーを抜く。
そんなモリゾウの様子を見たプレイヤー達はニヤリと笑う。得物が銃で、尚且つボロボロのダガーを持っていたのだから。
「舐めんな!」
「苔野郎!!」
そして、盾と剣や槍を持った男達が突進して来るのでモリゾウは首を傾げた。ウェルロッドを構えるがプレイヤー達は避けない。最も、プレイヤー達は大きく勘違いしていた。この距離で拳銃なんか当たらない、と。実際、現実ではそうだ。銃弾はバレルの長さによりその弾道の振れ幅が決まる。勿論それだけではないが、全く同じ品質の銃身が2本あり、同じ条件、同じ弾で射撃した場合銃身が短い方の拡散率が高い。
実際、拳銃射撃で人間サイズの的に致命傷に至る部位に着弾させられる距離は大凡25メートルだ。そして、モリゾウの距離が50メートルもあった。故に彼等は勘違いした。
「バカだなー」
モリゾウは笑いながら引き金を引いた。弾丸は槍を持ったプレイヤーの額に命中。その場で一回転する様に倒れる。
「何で当たるんだよ!?」
「嘘だ!」
先頭を駆けていたプレイヤーが倒れたので全員の足が止まるが、その瞬間には盾を持ったプレイヤーの目に当たる。距離は40メートルを切っていない。
モリゾウは笑いながらウェルロッドの槓桿を操作して次弾を込める。瞬く間に2人殺され、プレイヤー達は戦慄した。残り3人だ。
「ま、待て!
何故お前は初心者狩りをする!!」
プレイヤーの1人が叫ぶ。
「何でって、PKすんなって規約に書いてねーじゃん。モンスターどこにいるのか知らねーし。
銃の性能知りたいじゃん?」
「ま、魔物の位置が分からないからプレイヤーを殺したのか!?」
モリゾウの言葉にプレイヤー達が呆れ返った。当たり前だ。PKは確かに規約違反では無いがマナー違反ではある。
「この道をまっすぐ行けばゴブリンなんか大量にいる!」
「そーなの?」
「そうだよ!
何でwiki見ねぇーんだよ!」
プレイヤーの言葉にモリゾウは確かにと頷いた。
「でも、ウィキ見ても全然ガンナーの情報とか載ってなかったからカスかと思ってたわ。
スマン。別にお前らに恨みも無ければマジで射的の的くらいにしか思ってなかったわ。
お前らがリベンジしないなら別に俺もお前等殺す理由も無いしこのまま一旦帰ろうと思う」
モリゾウはそう告げるとプレイヤー達はお互いを見合い、それから構えていた武器を下ろす。
「分かった。俺達もアンタの提案を飲む。
だから、今後は無闇にこの街のプレイヤーを襲うな。あと、アンタ、今、低ランクのプレイヤーPKしまくったから賞金首掛かってるのも注意しろよ。
現実時間で約一日放置したら解除されるから他のプレイヤーにPKK、つまりはプレイヤーキラーキルされたく無ければ街から出ない様にな」
「成程。分かった。
あと、この世界の地図とか弾とかってどこに売ってんの?」
モリゾウもダガーを仕舞い、ウェルロッドを右腰のホルスターに戻す。
「地図は雑貨屋のNPCから、弾丸は確か武器屋が売ってたな。
金はアンタPKしまくったから足りるだろ」
「PKしたら金貯まるの?」
「ああ、金と経験値は自動的に入る。まぁ、俺等も初心者だからほとんど金持ってねぇけど、こんなに倒してたら余裕だろうよ」
それからモリゾウに対してのプレイヤー達からの親切な初心者ガイドが暫く続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます