燐陽鬼譚

七夕真昼

追憶:彼の予言、あるいは。

 全て白で統一された天井、壁、床がより一層広さを感じさせる空間。演習場の中で、二人の男が刃を交えていた。



「先生」



 両者激しく攻防を繰り返す最中、片方がこの場に似つかわしくない調子で語りかけた。灰色の髪を一つに束ねたその顔には、まだ少年の幼さが残っている。



「あ?」



 いつもの事なのか、「先生」と呼ばれたもう片方も決して動きを止める事なく応じた。



「世界、救えるって言ったらどうします?」


「急に何ふざけた事かしてんだ」


「やだなあ、本気ですよ」



 他愛無い世間話を交わすと同時に、模擬刀の刃が鋭く空気を切り裂く音が鳴る。どうにも、この二人は戦いを止めて話すつもりは無いらしい。



「昔から、人々は餓鬼に怯えながら生きてます。」


「その餓鬼をぶっ飛ばすのが俺らの仕事だろーがよ」


「さすが、機関最強が言うと心強いですね」


「茶化してんじゃねェ。何が言いてぇんだよ」



 くすり、と灰色の髪の男が笑う。一方が距離を取れば、手元の刀をヒュン、と一振り、淡々と歩いて距離を詰める。



「五年……いや、三年で世界を救って見せますよ。」


「てめェが餓鬼共を殲滅するってか?」


「まあ、そういう事ですね。けど世界を救うのは俺ではないです。」


「意味が分からねェな」



 両者が踏み込み、再び刃がぶつかり合う。一切無駄の無いそれはまるで、共に舞を踊っているかのようだ。



「今手持ちのカードがすごく良いんです。切り札が二枚もある。先生もご存知でしょう?」


「…………。」


「もちろん二枚だけじゃあ勝てないですけどね。先生、残りの手札は俺が揃えます。そしてこのゲームのプレイヤーは先生。」


「はァ? てめェが救って見せるんだろうがよ」


「残念ながら俺もカードの一枚なので。美味しい役は先生にお譲りしますよ。」



 手から模擬刀が弾き飛ばされたにも関わず、その手で人差し指を立てると唇に添え。灰色の髪の男はぱちりとウィンクをして見せた。



「あ、そうだ先生。俺の弟をよろしくお願いしますね。」

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