僕はまた心に鍵をかける
紫雨
鍵をかける
私のこと、どう思っているの?
彼女はそう言って不安そうに僕をみつめる。
「愛してる」と口は動く。
何度目かのやり取りにやはり僕は呆れてしまう。
結局、言葉など味のない飴でしかないのだ。
彼女と出会ったのは、春の兆しを微かに感じた日。
泣くように笑う彼女の瞳に僕の心は動いた。
本当に恋をしていた。
頬をくすぐる髪も小さな手も
彼女が奏でるギターの音も
全て大切な宝物だった。
当時の僕は彼女の役に立ちたくて必死だった。
僕の心の中で一番脆く温かい場所を彼女に渡した。
彼女を僕の居場所にした。
それが、きっと、間違っていた。
だけど僕には自信なんて一つもなくて、
自分を偽った。
好かれようと必死だった。
笑顔も言葉も少しずつ離れていく。
気がつけば、僕は傷まみれ。
占い師は僕に優しく語る。
恋愛なんて冷めてからがはじまりだとさ。
そのときは、わからなかった言葉の意味が、
僕の恋の名前だった。
カチャリと心に鍵をかける。
愛する人を騙すように、笑顔も言葉も偽る。
合鍵はつくらない。誰にも渡さない。
僕が中から開けない限り、
誰も僕を知ることができない。
もう恋は冷めた。
嘘で日々を春色に染める。
それでも、たぶん、
僕はまだ愛してる。
傷つけないように
傷つかないように
僕はまた鍵をかける。
僕はまた心に鍵をかける 紫雨 @drizzle_drizzle
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