対邪神兵器ちゃんも恋がしたいっ!

藤原くう

第1話

 ミズホはめくるめくユリ・ワールドへ旅立とうとしていたのだ。


 それを邪魔したのが、読んでいた同人誌の角から飛び出してきたナニカだった。


「いったいなあ……なにすんのよっ!」


 にらみつけた先には少女が二人。


 ミズホの目が最初に捉えたのは、背の高いすらりとした少女だ。

 

 光を吸収するほどの黒い髪。


 黒曜石こくようせきのように鋭い瞳。


 神が設計したかのようなプロポーション。


 そして、たゆんと揺れるもの。


 ただでさえなものが、ダイビングスーツのようにぴったりとした服のせいで過剰に強調されていた。


 ミズホは自らの胸を見、それからふたたび少女の胸を見て、ごくりとつばを飲みこんだ。


「――やっと見つけました」


 ハスキーな声が、ミズホの耳朶じだを心地よくでる。


「なにを……?」


「貴女です」


 ――秋津ミズホ。


 ミズホの名前を口にした彼女は、あまりにも美しく、綺麗で、戦乙女ヴァルキュリアのよう。


 そんな彼女がやってくるのをミズホは茫然と見つめていた。


 天使の羽根のように少女の腕が広げられ――。


「ちょっとまったああああああっ!!!」


 冥王星ユゴスにまで届くような声量は、もう一人の少女のもの。


 かわいらしい少女である。ミズホの目の前にいる少女と比べると、頭一個分ちいさい。


 ミルクのように白い、腰まで伸びる髪。


 くりくりの瞳には、星々が瞬いている。


 だが、なによりも目立つのは、ちいさな手に掴まれているイヌみたいなガスだった。


 図鑑にも載ってなさそうなソイツと目が合って、ミズホはちいさな悲鳴を上げた。


「いろはお姉さま、ぬけがけはダメだよっ」


「キョウ、黙ってください。近所迷惑です」


「それを言ったら、どっちも不法侵入だと思うんだけど……」


 ミズホがツッコめば、いろはお姉さまと呼ばれた少女がじろりと視線を向ける。


「いえ、これから恋人となるのですから不法侵入には当たらないですね」


「恋人? やってくるなり何言ってるのさ」


「わたしのこと、すきになってくれないの……?」


 二人の少女がミズホのことを見てくる。


 視線に耐え切れなくなって目をそらせば、同人誌がころがっていた。


 開かれたページには、18歳より下には見せられないような、あられもない少女の裸体が――。


「と、とにかく! 出ていって! ごーほーむ!」


「ひどいことを言いますね。折角会いにきたというのに」


「そーだそーだ!」


 キョウに首根っこをつかまれたイヌのようなガスが、くうん、と沈痛そうな声をあげる。


「いきなり現れるなんて非常識だよ。変な臭いはするし」


「それはねー、猟犬こいつのせいなんだー」


 キョウがイヌをかかげる。


 そのイヌは、たえず形を変えるガスでできていた。


 瞳も、脚も、なにもかも。


「イヌなの……?」


「高次元に生息する生命体です。時空跳躍を行った際に目をつけられましたので、撃退したのです」


「……よーするに」


「タイムスリップ中、猟犬とエンカウント」


「なるほど、わかった」


「話が早くて助かります」


「でもやっぱり、なんでうちに? 自分で言うのもなんだけど、平々凡々なJKでしかないのに」


「いえ、ミズホは平凡ではありませんよ」


 そう言われて、ミズホは小躍こおどりする。自分のことは一般ピーポーだと思っていた。かしこくないし、運動神経もそこそこだし、と。


「もしかして、未来のわたしは億万長者でモッテモテ――」


「貧乏でボッチです」


「…………」


 ズーンとミズホは肩を落とす。


 知りたくもない事実だった。今の自分と未来の自分が何も変わっていないとわかったのがなおのことつらかった。


「でも、わたしたちをつくってくれたんだよー」


「へ?」


 顔を上げれば、いろはとキョウが見える。その顔は、対照的なものだったが、どことなく似ていた。


「わたしが……?」


「ええ。ミズホがつくったのですよ?」


 だから責任を取ってください、といろはがささやいた。

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