07:微熱S.O.S!!
完全無欠の最強アイドル、袋小路ぴっころちゃんの元旦配信がいよいよ始まる。
今回のアルバムも最高だったよな、袋小路ぴっころちゃん。
歌だけじゃなくダンスも最高だけど、古参の信者としてはアルバムを買わざるを得なかった。まっデビュー前から注目してたのはぼくくらいだろうけどね!
デビュー前に踊ってみた動画をアップロードした時からオーラが違ったもんね。そんじょそこらのアイドルとは格が違うよ、格が。
テレビにも配信にも引っ張りだこなのに、ブログの更新を忘れずライブチャットでぼくたちファンとの交流も忘れないでくれる。まさにアイドル・ザ・アイドルなんだよね!
でも、何だろう?
わざわざ元旦にリアルタイムで配信するなんてそうそうできることじゃない。デビューから約五年、これまで一度も元旦当日の配信は無かった。
これはやっぱりいよいよ結婚の『御報告』かもしれないな。もしかしたら噂の『弟』がやっぱり彼氏だったのかも。
袋小路ぴっころちゃんの『弟』……、デビュー前から頻繁に袋小路ぴっころちゃんのブログに出てる『弟』くんだ。
もちろんぼくも含めてほとんどのファンは本当の弟だなんて考えちゃいない。
でも、だからと言ってぼくは他のファンと違って暴動を起こしたりなんかしない。ぼくは彼氏持ちなところも含めて袋小路ぴっころちゃんを推してるんだからね。
だから多分、今日の配信で『弟』くんとの結婚を発表するんだろう。大騒ぎになるかもしれないけど、ぼくはずっと推すからね、袋小路ぴっころちゃん!
「いつも観てくれてありがとー! みんなのアイドル! 袋小路ぴっころちゃんだよー! 今日もどうぞよろぴっこ!」
おっと色々考えてる内に全裸待機してた配信が始まっちゃってたな。
結婚の『御報告』かはさておき、とにかく刮目して見届けないと!
「今日はね、さっそくみんなの気になってることを『御報告』したいと思うんだ。ぼくね、ずっとずっとみんなに『御報告』したかったんだよ!」
ああ、やっぱり声も可愛いな、袋小路ぴっころちゃん!
長い黒髪で童顔なのに一人称が『ぼく』なのが尊過ぎる。トレードマークのペンギンのブローチもよく似合ってるし。
ってそれより『御報告』! やっぱり結婚の『御報告』をしてしまうのか?
「まずはみんなに紹介しておきたい人がいるんだ。ブログを読んでくれてるファンのみんななら知ってるよね? そう、ぼくの『弟』のじゃじゃまるくんだよ! あっもしかして本当の弟じゃないと思ってた? ざーんねん! そう思われてるのは知ってたけど正真正銘血の繋がった弟なんだよ!」
あれっ?
袋小路ぴっころちゃんの隣に出てきた男の人、確かに何となく袋小路ぴっころちゃんに似てるな。本当に弟だったんだ。
あっそうか、勘のいいぼくは分かっちゃったね。これから姉弟ユニットで活動するってそういう『御報告』なんだ。
「実はね、ぼくはね……、今日からこの弟のじゃじゃまるくんと……」
うんうん。
「結婚します!」
………。
……。
…。
えっ?
「もちろん法律が認めてないのは知ってるよ! でもね! ぼくは弟と結婚するんだ! そう決めたんだよね! だって、愛してるんだもん!」
何これギャグ?
チャット画面が爆速で読めないよ。
いや……、えっ? 本気じゃないよね?
でも元旦からギャグでこんなことやったら炎上するのは分かり切って……、じゃあ逆に正真正銘本気の『御報告』……?
最強アイドル袋小路ぴっころちゃんが元旦配信で実の弟と結婚報告……?
そ……そう来たかァ……!
読めなかった……、この袋小路ぴっころちゃん信者のぼくの目をもっててしても!
あっ配信BANされた。
まっなるよね……。
☆
衝撃の配信から一ヶ月が過ぎた。
瞬く間に話題が廃れるこの時代においても、袋小路ぴっころちゃんの話題が尽きることはなく、最強アイドルの『御報告』は世界に波紋を広げていた。
世論は一気に袋小路ぴっころちゃんを容認する方向に向かった。最強アイドルなんだ。その影響は誰にも止められない。
考えてみれば袋小路ぴっころちゃんの他のアイドルとの違いはそこにあったのかもしれない。
何としても自分たちを認めさせるために最強アイドルに成り上がったんだ。勇気ある最初のペンギンになるために。
ぼくとしてはもちろん袋小路ぴっころちゃんを応援するつもりなんだけど……、一つ個人的な問題が起こってしまっている。
あの『御報告』以来、各地で姉弟で結ばれる案件が増えているらしい。いや本当かは知らないよ。
だけどこれだけは間違いない。ぼくは今間違いなく弟に狙われている。あれだけドルオタ陰キャ姉のぼくを気持ち悪がってたあの弟が、ぼくの着替えを覗いてたりするんだ。
アイドルの、有名人の、発言の熱がこんなにも影響力があるものだったなんて、ドルオタのぼくですら思ってなかった。
一体これからどうなるんだろう、ぼくたち姉弟は……。
とにかく近いうちに弟と家族会議をせざるを得ないのは、間違いない。
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