第6話 想定外の大事件
さて、以上のような、話のやり取りが交わされている、正に、その直後の事である。
驚愕の事件が、またも、この日本の「あの村」で勃発したのである。
さて、この事件の勃発こそ、今までの事件の、私や明菜ちゃんの迷(?)推理を、更に、数歩も一挙に推し進めるような、大事件だったのである。
その驚愕の事件とは、実は、今回の事件とも、これも、切っても切れない程の事件だったのである。
その事件もまた、書くのもはばかれる程の、酸鼻を尽くす程の大事件であった。
要は、今、日本中で大問題になっている、この「人杭村」の「万能荘連続不同意性交殺人事件」に、大変な興味を持った地元の私立の日本海総合大学の大学生ニ人の男性グループが、惨殺され、大きな鍋に入れて、多分、明らかに誰かに喰われたであろうとの、大事件であったのだ。
やはり、「人杭村」とは、本物の「人喰村」だったのか?
即、県警は、今までの倍の人数での捜査本部を立ち上げた。
今度こそ、真犯人を捕まえれば、前の事件との関係性も明らかになって来る可能性が生じて来るのだ。
では、日本海総合大学の学生達が、何故、この村にやって来たのか?
それは、故:林先生の遺稿『人喰村伝説考』に影響を受けた学生達が、自分達のみで、この恐怖の村での、人肉食時代の証拠を集めに来ていたと言うものだ。
この話は、大学の同級生達に、出発前に事前に伝えてあったから、その目的は、多分、その通りであったのであろう。
しかも確か『人喰村伝説考』では、人肉食時代の証拠を見付けたと書いてあった筈だ。
私の記憶でも、生前の故:林道夫先生は、今度、発刊する筈の『人喰村伝説考Ⅱ』で、その自ら発見した場所の、証拠写真を載せるぞと豪語していた筈だった。
とするならば、「人杭村」の何処かに、何らかの人肉食の時代の証拠が残っているのは間違いが無かった筈なのだ。
それは、ある意味、かってのカンボジアのポルポト政権によって虐殺された人民の頭蓋骨の山になったような写真であったかも知れなかったのだ。
それとも、あのドイツのアウシュビッツ強制収容所で、山積みにされた、ユダヤ人の死体の山のような写真だったかも知れないのだ。
しかし、その本家本元の故:林道夫先生は、『人喰村伝説考』を出版した、わずか2週間後、謎の交通事故で亡くなっていた。
更に、今まで勤務していた『万能荘』の守衛さんも、不思議な事に6月末に謎の病(多分、心臓麻痺か?)で急死しているのだ。
何か目に見えない巨大な力が、この事件の後ろで動いていたのかも知れなかったのかも知れない。
ここは、もっともっと、早く、気が付くべきだったのかも知れなかった。
だが、全てが、時、既に遅しだった。
日本海総合大学の学生ニ人は、チェーン・ソー状の機械か、電動ノコギリか何かで、バラバラに切断され、三本の大きな木で作られた柱から吊された大鍋にて、グツグツ煮込まれていたのである。しかも何と、その味付けは、ニンニクと赤味噌味だと言う。
ただし、この赤味噌味等の話は、マスコミには、あまりに残虐な為、一切、公表されていない。
ともかく、正に「人肉鍋事件」と言う名称がピッタリだ。
しかし、これ程の犯罪は、一人では起こす事は難しいのだ。最低でも大人二名程度の力が必要なのだからだ。それでも、狂気に狂った強大な男なら、ヒステリー的な馬鹿力で、あるいは一人でも可能なのかもしれないが……。
この恐怖の「人肉鍋事件」の発見から、かって、人肉食の習慣があったと噂された「人杭村」の住民、約八百名が、全員が、徹底的に疑われた。
県警の捜査本部は、一軒、一軒、しらみつぶしで調べて見て廻ったが、大学生二人を切断したと思われる、チェーン・ソーも、電動ノコギリや、普通のノコギリも、大きな肉切り包丁も、一切見つからなかった。
また、怪しい容疑者とは言うものの、当日は、「人杭村」の「秋祭り」の当日だった事もあり、皆、「秋祭り」にそれぞれ逞しい男性達や女性達がほとんど参加しており、この中を抜け出して、大学生二人を惨殺し、大きな鍋に入れて、グツグツと、ニンニクと赤味噌で煮込む事は、とても出来そうにも無いように思えなかった。
これは、県警が調査すればする程、明確になってきた事実なのだ。
極、簡単に言い換えれば、「人杭村」全員にアリバイがあるようにも、見えるのである。
この構図こそは、まるで、アガサクリスティーの小説『オリエント急行殺人事件』との状況とも、大変にダブって見えるのだ。
この事を、最初に指摘したのは、私の恋人の白石明菜ちゃんだ。
「ねえ、純一さん。ここで、どれだけ「人杭村」の住民を徹底的に調べてみても、あのアガサクリスティーの小説『オリエント急行殺人事件』と同じように、村人全員が、お互いのアリバイ工作の片棒を担いでいるとするならばよ、多分、永久に、真犯人は見つから無いと思うわ……」
「だったら、この私らは、今後、どうなるのだろう?」
「大丈夫よ。
誠に、不謹慎な言い方だけども、この事件が起きた時、私ら、慶早大学のミステリー研究会の生き残った会員ら全員は、事実上、まだこの『万能荘』で、ほぼ軟禁状態だった筈よね。
逆に言えば、この事件の勃発によって、この「万能荘連続不同意性交殺人事件」の容疑者からは、大きく外れる事が証明されたようなものよ。
だから、問題は、今後は、私達を除いての、真犯人探しが、今後、どうなっていくかでしょうね?」
「では、明菜ちゃんは、一体、これからどうするの?」
「お父さんに頼み込んで、もう少しお金を送ってもらい、この村に、あとしばらく、いさせて貰う。
そして、ほとんど真っ暗な藪の中に入ったと思われる、この究極の真犯人を捜し出すのよ」と、白石明菜ちゃんは、断言したのである。
「でも、明菜ちゃん。
警察ですら、犯人を見付けられないのに、この私らで、見付けられるのかなあ……」
「何、弱気な事言っているの?
そんな弱気じゃ、私のお父さんの跡を継いで、あの大会社を切り盛りできないわよ」
「そりゃそうだが……」
「純一さんは、文学部心理学科在学中なんでしょう。
心理学的な分析で、プロファイリング的に、迫ってみたら、どうなのよ?」
「やっとやっと、この慶早大学に合格したこの私には、非常に、難しいなあ……」
「そうかなあ、やってみなきゃ分からないと、思うけどね?」
「まあ、そう言って、元気付けてくれるのは、明菜ちゃんだけなのだけどさあ」
さて、県警の必至の捜査にもかかわらず、この「万能荘連続不同意性交殺人事件」や「大学生グループ人肉鍋殺人事件」の、その後の進展は、ほとんど無かった。
しかし、今まで、日本中を二分していた、「万能荘連続不同意性交殺人事件」の、外部犯行説か内部犯行説の大議論は、この「大学生グループ人肉鍋殺人事件」をキッカケに、一斉に、外部犯行説へと傾いていった事だけは、特筆すべき事柄だった。
ここに、この二つの事件に関与する、不気味な歴史的な黒い集団が、見え隠れしてきたのだ。
多分である。
あくまで、推測であるのだが……。
多分、この「人杭村」には、何かの組織や秘密の集団があって、このような、狂気の事件を起こしている事だけは、ほぼ、間違いが無いと考えられて来た事なのだ。
その一番の理由として挙げられるのは、やはり、数百年も続いたと思われる人肉食による、異常タンパク質(プリオン)の住民らへの大脳内への蓄積か、もしかしたら大脳内遺伝子の突然変異等が、大きな理由であろう事は、既に、慶早大学医学部3年生在学中の大外修一のXへの投稿でも、指摘されていた事でもある。
そもそも、一番最初にも書いたとおり、この「人杭村」は、冬場で、特に多い時は積雪4メートルを超える大雪が積もるのである。
当然、食物、特に、動物性タンパク質の不足は、非常に深刻な問題で有り、一応、塩と米糠(こんか)漬けの鮭やニシン等は、一斗樽にいれて、準備しているとは言え、道に迷って、この「人杭村」に紛れ込んできた旅人らは、絶好の動物性タンパク源だった事は、間違いが無かったのではなかろうか?
屋根全体を幾十もの茅(かや)で覆った大きな建物の中で、大雪の中を紛れ込んできた旅人は、内臓までが綺麗に(?)に解体され、「人肉鍋」となって、皆で、箸でつつき合って分け合って、寒い大雪の時代を乗り切っていたに違いが無いのだ。
でも、多少の疑問も残る。
何故、ワザワザ、大雪の中を無理して踏破する必要があったのかの疑問である。
これは、だが、地形的にそうせざるを得ない理由もあったのだ。
この「人杭村」には、隣に存在する、大きな藩に行く時に、どうしてもこの村を通らねばならない道が一本のみだが、あったからである。
実に貴重な一本道だったのだ。
だから、いくら冬場でも、貴重な医薬品や、重要な連絡書類は、この「人杭村」を無理して通ってでも運ばれなければ無かったと言う、地理的な理由が一番大きな理由なのであった。
さて、いつまでも、犯人を挙げられそうにも無い県警は、遂に村長と副村長を、任意調査で、県庁の建物に隣接する県警本部にまで呼んで、徹底的に締め上げる方針に転換していた。
こうなると、最早、カッコもクソも無い。
これが、戦前の日本なら、どう言う汚い醜い手段を使ってでも、強制的に自白に持って行けたであろうが、現在の日本中が、注目している大事件でもある。
強権的な取り調べは、即、マスコミに漏れる為、絶対に不可能なのだ。
ここは、当該県警一の「落としのプロ」で、対応する事になった。勿論、警察庁の全面的バックアップもあっての事であろう。
「ところでよう、村長さんよ。
聞いた話ですが、貴方の住んでいる「人杭村」は、別名、「人を喰らう村」=「人喰村」と言う、伝説や噂話が、数百年以上も前からあるそうですね……。
この、伝説や噂話を、一体、貴方自身は、どう考えていますか?」
「イエイエイエ、刑事さん、それは、あくまで全くの伝説や噂話に過ぎません。
現実に、私らには、一斗樽に、塩と米糠(こんか)漬けにした、鮭やニシンの、保存方法が、先祖伝来伝わっています。
何が、悲しくて、どうして人肉まで食べる必要があるんでしょうか?
逆に、この、私のほうが、聞きたい程ですが……」
「ほう、村長さんも、中々、鋭い事を、言われますね?」
「刑事さんも、またまた面白い伝説や噂話を信じて、この私らを、「冤罪」にでもかけるつもりですか?」
「「冤罪」など、トンデモ無い話です。
ですが、私の部下の調査によれば、村長さんの住んでおられる「人杭村」には、若者らによる「どぶろく祭り」という、現在で言う、バーベキュー祭りのような行事があるとか、無いとか?
ちなみに、我が県でも、トップクラスの公立学校の生物の先生、もう亡くなられましたが、自費出版された『人喰村伝説考』では、この「どぶろく祭り」は、かっての人肉食時代の名残(なごり)の一つの例だと書いておられたそうですよ。
更に、その著書の故:林道夫先生は、その本の出版後、わずか2週間後、交通事故で亡くなっています。
誰かは分かりませんが、この故:林先生を、この「人杭村」には邪魔だと考えられたのでは無いのですか?
それに、私の部下の調査では、誰も知らない、歴史的な黒い集団が、存在するとか?しないとか?
村長さんが、それを知らない筈は無い筈ですよねえ。
いい加減、ここへんで、ハッキリと答えんかいや!」
「イエイエ、それこそ、でっち上げですよ。一体、その歴史的な黒い集団とは、何なのです?」
「まあ、ハッキリ言わせて貰えば、「人肉食愛好会」と言うような存在なんですよ」
ここで、村長は、親指、人差し指、中指の三本の指を示した。
「何の真似です、村長さん?」
「刑事さん、今までは、一方的な私への質問ばかりですよね。だったら、この私にも三つの質問をさせて下さい。
ところで、刑事さんは、2023年度の『このミステリーが凄い』で日本一になった、呉勝浩氏の『爆弾』を読まれた事はありますか?」
「あのなあ、村長さんよ。捜査一課の刑事に、そう言う推理小説を読んでいる暇などは、全く無いんだよ。
最近は、我が県でも、殺人事件は、年に10件以上も起きる年もあるんだ。
当該県警を、馬鹿にしてかかると、トンデモ無い目にあうぞ。よう、覚悟しとけよなあ!」
「そうですか?ですが、その『爆弾』の主人公の、スズキ・タゴサクのように、こちらから、逆に、質問させて頂きますよ、いいですね?」
「何を、寝ぼけた馬鹿な言っているんだ、村長さん。そう言う余裕は、今の貴方には、全くと言っていい程、無いだろうが?
ええ、あんたは、我が県警を舐めとるんか?
どうなんや!!!
はよ、自白せいや!!!
何かを、隠しているんやろう、一体全体、どうなんや!!!」
「刑事さん、それは実に甘いですね。
この私の胸ポケットに刺さっているこのボール・ペンは、ボイス・レコーダー兼FM電波発信器です。この、会話は、この県警の外に待機している、我が村民の一人によって全て録音されています。
これが、マスコミに公表されたら、刑事さんの、今までの、超高圧的態度や「冤罪」云々の話がマスコミに暴露されますよ。
良いのですか?」
「うっ」、と、ここで、刑事の言葉が止まった。
「いいですか?刑事さん。
この私の家が、代々、医者なのはご存じですよね?勿論、小さなクリニックですが、こんな僻地でのクリニックですが、夏場等は、結構、流行っているんですよ。
これでもね、色んな人の心の病の相談にも乗っているんですちゃ」
「それは、聞いているが……」
「だったら、刑事さんも、この私の質問ぐらいには、答えて下さいよ」
「ウーン、ここで、断る事は出来ないかもなあ。
じゃ、一体、何を、聞きたいのだ?」
既に、この段階で、警察と村長の立場は、逆点していたのかもしれない。
村長は、最初に、極普通の質問をして来たのだ。
実に簡単な質問だった。
最初に、刑事が提示した、「人肉食愛好会」のメンバーを示せと言うものであった。
だが、これは、今のところのあくまでの噂話であり、とても、メンバーの特定などまだ全く出来ていないのだ。
次なる質問は、一体、「人杭村」の「秋祭り」の日に、一体、何処の誰が、日本海総合大学の学生二人を滅多切りして、あの「人肉鍋」にしたのか?その容疑者名だけでも教えてくれと言うものである。
しかし、これも難問中の難問だったのだ。それが分からないから、こうやって、村長や副村長を、呼び出して、任意調査しているのではないのか?
更に、最後の質問は、実は、県警も知らなかった驚愕の質問だったのだ。
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