第4章 - 成長の章
135. 定期検診
ゆすらちゃんとの奇跡的なコラボがあったドラハンライブの、次の次の日。
一人反省会をしていた俺の元に、一件のメールが届いた。
定期検診のご案内……?
内容を詳しく読んでみると、「6歳になったから健康診断に来い」とのこと。
なんでも、男である俺はこれから年に1度は健康診断に行かないといけないらしい。
場所は男性保護省。
そこにある男性健康庁という省庁に、専門の医療施設があるらしい。
男性の健康診断や治療などは全部、そこで行われるそうだ。
これは、外出のチャンス……!
「ヨシ!」
早速ママンに報告してこよ。
リビングに行くと、ママンがスマホを眺めていた。
「母さん」
「あら〜、どうしたのかしら、ゆうちゃん〜?」
「定期検診のメール受け取った」
「それならママの方にも届いているわ〜」
「いつ行く?」
「いつでも良いわよ〜」
「じゃあ今日!」
せっかくの外出のチャンスだ。
できるだけ早く行きたい。
「うふふ〜、ゆうちゃんったら〜、本当に可愛いんだから〜」
ママンがいきなり抱っこしてくる。
そして、流れるような動きでスリスリしてくる。
ちょっ……ママンっ……思いっきりスリスリするの止めて……!
フクロモモンガの愛情表現みたいになっちゃってるから!
ふぅ……。
ひとしきり俺をスリスリした後、ママンは何事もなかったように話してくれた。
「残念だけど〜、今日はさすがに無理よ〜。
定期検診は予約が必要だから、早くても明日ね〜」
「じゃあ、明日で」
「分かったわ〜。
ママが予約しておくから、今日は早く寝るのよ〜」
「は〜い!」
ヨシ!
久々の外出だ!
男保省とか初めて行くから、スゴい楽しみ!
そうと決まれば、早めにお風呂入って寝よ!
というわけで、次の日。
健康診断という名の外出です。
我が家の敷地を離れるということで、東さん達T308警護隊のみんなの警護付き。
一晩かけて護衛プランを練ったらしい。
……ごめんね、「明日」とか言って無理させちゃって。
外出のチャンスに浮かれて、警護のことすっかり忘れちゃってたよ……。
で、案の定、俺は変装を要求された。
用意されたのは、女児らしさ全開のフリフリワンピースと、中性的なワイシャツと短パン。
「個人的には、こちらのワンピースがオススメです。
万が一人目に触れたとしても、これなら完璧に女児と誤認させられるでしょう」
東さんがフリフリワンピを推してくる。
……ごめん、東さん。
安全上、そっちの方が正解なんだろうけど……。
それを着るのは、俺のプライドが耐えられそうにないんだ……。
「で、でも、僕、スカート履いたことないから、動き方が分からないっていうか……。
それだと、歩き方とかぎこちなくなって、逆に不自然になるかな〜って……。
だ、だから、こっちのシャツと短パンにするね!」
なんか、初めてのお出かけのときも同じようなやり取りしてたなぁ……。
自分で言うのは癪だけど……俺の顔って、かなり可愛らしいんだよね。
髪の毛も、ショートにはしているけど、耳が隠れるくらいには長いし。
この容姿なら、ワイシャツと短パンでも普通に「ボーイッシュな女児」で通じる。
グムムッ……!
いつか絶対、渋々なゴリマッチョになってやる……!
そんなわけで、俺の服装はライトブルーのワイシャツに紺色の短パンに決まった。
顔を隠すために、麦わら帽子も装備している。
当然、可愛らしい黒リボンが付いている、女児向けの可愛らしいやつだ。
クッ……!
ここでも女児用とは……!
こうなったら、トップクラウンのところに折り目をつけて、無理やりパナマ帽にしてやるッ……!
俺は、渋カッコいい男になるんだッ……!
ちなみに、ママンは白シャツにタイトスカートというザ・秘書コーデだ。
髪はきっちり纏めてあるし、伊達メガネもしっかり装着している。
普段のゆるふわなママンからは想像できないくらい「有能な秘書感」が漂っている。
さすがは我がママン、こういうオフィスカジュアルも大変に似合っていらっしゃる。
着替え終わると、秘密の地下通路から東さんの家……という名目の待機所へと向かう。
そこから、警護隊の男性護送車に直接乗って、そのまま男保省に向かうのだ。
「普通であれば、こちらからお車でお迎えに上がるのですが、それだとどうしても周囲に見られる可能性がありまして……。
警護員失格な発言になってしまいますが、裕太様がこちらへいらしてくださるのは正直とてもありがたいです……」
「ああ〜、東さんたちの車、うちのと車種が大分違うもんね。
いきなり見知らぬ車が家に出入りしたら、ちょっと不自然に感じる人も出てくるかも知れないね……」
男性護送車って、大体がデカくてゴツいワゴン車だもんね。
で、うちの自家用車はどこにでもありそうな軽バン。
別にうちをずっと監視している一般住人なんて居ないと思うし、違う車の出入りくらいなら「親戚かな?」くらいで済むと思うけど、何事にも絶対はない。
それに、こういうのはご近所さんの噂でいくらでも話が膨らんでいくもの。
妄想たくましい人が「むむっ、あの家、ときたま見知らぬ車が出入りしている……さては男が住んでるな?」とか思って喧伝したら、かなり厄介なことになる。
その点、秘密通路から東さんたちの家にこっそり行って、そこから直接車に乗って出発すれば、我が家からは誰も出ていないことになる。
なんでも、普通の男性は慣れ親しんだ自宅から離れるのを嫌うことが多いらしく、待機所から出発しようとプランニングしても、待機所に来てくれないそうだ。
俺みたいに度々待機所に遊びに行くなど、考えられないらしい。
お城の抜け道から脱出する王族みたいで、ちょっとワクワクしない?
しないですかそうですか……。
車庫に行くと、案の定、黒塗りのワンボックスカーが俺たちを待っていた。
前にも乗ったことがある、男性護送車だ。
完全密閉の防弾仕様で、殺人許可証持ちのスパイや蝙蝠コスのヒーローも真っ青の仕掛けが色々と搭載されているらしい。
何がとは言わないけれど、女の子の送迎に使ってそうな外見なのに……。
「裕太様。
乗るお車は、そちらではありません」
……え?
違うの?
「こちらになります」
そう言って連れて行かれたのは、黒塗りワンボックスの隣。
どこのご家庭にでもありそうな、普通の軽バンだった。
「本日向かうのは、男保省です」
「うん」
「裕太様はご存じないかも知れませんが……男保省の外には、男性の出待ちをしている女性が常に居ます」
……え?
「で、出待ちって、なんで?」
「生の男性を一目見たい、あわよくば轢かれてそのままお近づきになりたい、という魂胆らしいです」
いやそれはもう完全に当たり屋の発想なんよ……。
ってか、登校中に曲がり角で運命の相手とぶつかる感覚で車に轢かれようとしないで?
絶対にただじゃ済まないから。
「通常であれば、そういったミーハーな人間が殆どなのですが……残念ながら、中には男性の住所を特定しようと男性護送車を尾行する不届き者もおります」
「えぇ……」
いやそれはもう完全に半グレの手口なんよ……。
人の住所とか特定して何するのさ……。
っていうか、東さんも、自分から車に轢かれに行くような人を「ミーハー」で済ませちゃダメじゃない?
「もちろん、そういった行為は違法となりますので、発見し次第逮捕するのが普通ですが……いかんせん尾行かどうかを100%見分けることは難しく、過去にはそれで男性宅がバレた事例もあります」
「なにそれ怖い」
男性宅がバレたって当局が把握したってことは、絶対なにか良くないことが起きたよね……?
そんなことしても、誰も幸せにならないのに……。
「ですので、そういった事態を防ぐためにも、男保省に入る男性には道中で2回ほど車を乗り換えてもらうことになっております」
「乗り換える?」
「はい。
先ずはこの軽バンで自宅を出発し、通常の外出を偽装。
道中、特定の建物の駐車場で別の乗用車に乗り換えていただきます。
そして、その乗用車で更に別の建物へ向かい、そこで偽装車に乗り換えていただき、今度こそ男保省へと向かいます」
「なるほど」
いかにもな黒塗りワゴンを尾行しても、道中で何回か乗り換えるから、最後まで見失わずに追跡するのは難しい。
よくある撹乱方法だが、よくあるだけにその効果は折り紙付き。
そうやって「男保省に出入りするのは男性護送車だけ」「自宅に出入りするのは軽バンだけ」っていう風に限定することで、「男保省」と「男性宅」を完全に切り離しているのか。
……いよいよスパイみたいになってきたな……。
とは言え、それが作戦ならちゃんと従う。
俺としては、外出できるだけで嬉しいのだ。
車の乗り換えにしたって「いろんな車種に乗れて超お得」くらいに思ってるし。
「申し訳ありません……。
本来であれば、遠く離れた山奥にある男性専用の秘匿施設から特別地下列車に乗って男保省に入るのですが…………裕太様の場合、その、色々あって、それを利用できない状況です」
本当に申し訳ありません、と再度謝ってくる東さん。
いやまぁ、別に謝られるようなことじゃないんだけどね。
「秘匿施設」からの「特別地下列車」とか聞くとスゴくワクワクするけど、乗れないのは仕方がない。
東さんが言いよどむ程の「色々」ってなんなのか、ちょっと気になるけど、聞いたところで子供の俺がどうにかするのは無理だろう。
だから、この話はこれで終わり。
東さんの指示に従って、軽バンに搭乗する。
うちのママンが普段お買い物に使ってる軽バンとはまた違うメーカーのやつだ。
ちなみに、うちの車、運転してるママンの安全を守るために、滅茶苦茶な改造がなされているらしい。
なんでも、男性の家族の安全は男性本人の精神安定に直結するらしく、男性宅の自家用車には、事故っても搭乗者が怪我しないよう完璧な保護システムが組み込まれているそうだ。
まぁ、俺も、ママンが安全なのは嬉しいしね。
そんなわけで、健康診断にレッツゴー!
◆◆◆◆◆ あとがき ◆◆◆◆◆
というわけで、第4章スタートです。
(○·ω·)ノやったるで!
相変わらずの見切り発車ですが、お楽しみいただけたら幸いです。
(o_ _)o今度こそ不定期更新に……
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