06. 学校に通えない系男子

「そう言えば、今日のお勉強がまだだったわね」


 俺をお膝に乗せたママンが、テレビのリモコンを手に取る。

 イケメン女子を見つける番組はチャンネルチェンジ。

 切り替えた先は、国営局である日本教育放送N K H

 文字通り、教育番組が主体の局だ。


「毎日お本だけだと飽きちゃうから、今日はテレビでお勉強しましょうか」


 どうやら、今日は教育番組を教材にするようだ。


 男である俺は、幼稚園と小学校に行けない。

 行けないというか、行くことを国が禁止している。

 男が学校に通えるようになるのは、中学校から。

 理由は、基礎教育が済んでいない女児ではまだ男性の希少性を理解できないから。

 好奇心に駆られて男児を乱暴に扱ったり、感情的になって男児を傷つけたりすることがあるらしい。


 現地球では、男性は「人類存続の要」「無条件で保護すべき存在」というのが共通認識だ。

 しかし、共通認識とは先天的に備わっているものではなく、後天的に養われるもの。

 教え込まなければ身につかない。

 なので、まだ幼い女児だと、男子に向かって安易に「みんなと違う」「なんかへん」などと言ったり、自分との差異を確認するために男児の体を見たり触ったりしようとするそうだ。

 もちろん女児側には無邪気な好奇心しかないが、それを受けた男児側は普通に傷ついてしまう。

 それが原因で男児が女性恐怖症なんかになってしまったら、目も当てられない。

 というわけで、女児たちが共通認識を身につける小学校卒業まで、男児は学校に行けないのだ。

 謂わば、一種の隔離政策である。



 まぁ、この世界では男性が色々と「弱い」し、女性が色々と「強い」からね。

 双方、変な拗らせ方させちゃったら、男女比が更に酷いことになってしまう。



 そんなわけで、男である俺は、幼稚園にも保育園にも行ったことがない。

 もちろん、小学校にも行く予定がない。

 勉強はすべて家でやっている。

 教えてくれるのはもちろん、我がママンだ。


 通常、男児を産んだ家庭には国が専用の家庭教師を派遣する。

 公認家庭教師というらしいが、残念ながらうちには来たことがない。

 なぜなら、うちのママンが派遣を断ったからだ。

 代わりに、ママンが教員資格を持っている。

 っていうか、自分で教員資格を取った。

 わざわざ俺のために、ゼロから勉強してね。

 どうやら、俺の性別が判明した段階で資格勉強を始めたらしく、俺が1歳になる頃には既に資格をゲットしていたようだ。

 流石ママン、我が子への愛がい……。



 いや、まぁ、実際はただママンが息子である俺を独占したいだけなんだけどね。



「うふふ〜、今日もママといっしょにお勉強しましょうね〜」


 上機嫌に俺を抱きしめるママン。

 甘やかしが止まらない。


 まぁ、これも仕方がない。

 男児は、どの家族でも溺愛され、囲われるからね。


 男は、希少で貴重な存在だ。

 なので、男児を産んだというだけで、その家庭はハイソ入りが確定する。

 社会的地位は一気にトップクラスとなり、政府からあらゆる補助と支援が入る。


 すべては生まれた男児を健康的に育てるため。

 そして、人類の存続に貢献させるため。


 現に、俺たちが今住んでいるこの大豪邸は、国からの支給品だ。

 生活費も、国から補助金やら給付金やらがいっぱい出ている。

 俺のための買い物であれば、だいたいが公金で落ちるらしい。

 生活費が経費扱いってマジかよ……。


 国が負担してくれるのは、俺の養育費だけではない。

 どうやら、俺には警護まで付いているらしいのだ。

 我が家の周辺にはSPみたいな人たちが配備されているらしく、常に厳戒態勢を保っているとのこと。


 さっきから「どうやら」とか「らしく」とか「とのこと」と曖昧に言っているのは、SPの人たちに一度も会ったことがないから。

 たまに電話越しにママンと会話しているのを見るけれど、実際に会ったことは一度もない。

 だって、うちのママン、SPの人たちは基本、家に入れないんだもん。

 理由は、他の女性を俺に会わせたくないから。


「だって〜、ゆうちゃんに会っちゃったら〜、絶対ゆうちゃんのこと好きになっちゃうんだもん〜。

 そんなのダ〜メ」


 ということらしい。


 いや「ダ〜メ」じゃなくてね、ママン?

 彼女たちも仕事なんだからさ。

 自分の独占欲優先して人のお仕事邪魔しちゃ駄目でしょ。


「ゆうちゃんは〜、ママだけのゆうちゃんなんだから〜」


 と、割と重いことをにっこり笑顔で言っていた。


 ちょっとママン?

 息子への溺愛が過ぎませんかねぇ?。

 将来モンペアとかになりそうで、俺、ちょっと心配だよ……。


 でも、まぁ。

 こういうのは、どのご家庭でも同じらしい。


 日本人男性の総数は、僅か5万人ちょっと。

 国中の男集めても東京ドーム埋まらんやん、ってくらい少ない。

 しかも、その数は年々減り続けているという。


 こうなると、男性はもはやレアキャラ扱いだ。

 一度も男性と触れ合わずに生涯を閉じる女性は極めて多く、中には「男なんてユニコーンと同じ空想生物だろ」と考える女性すらいるという。

 そんな状況だから、自分の息子が人生で初めて触れ合う男性、などということも決して珍しくはない。

 だから、大体の女性は、社会的ステータスや公金扶養うんぬん関係なく、男児を溺愛する。

 うちのママンのこの独占欲の強さも、ここに由来している。

 なので、この過剰な溺愛も、ヤバいくらいの独占欲も、社会的には「普通」だったりするのだ。


 教えてくれウー○ェイ、俺はあと何年待てばいい?

 何年待てば、ママン以外の人と会えるんだ……?


 まぁ、どのみち中学までは登校禁止だ。

 今まで通り、ママンと一緒に自宅学習するとしよう。

 幸い、前世の記憶があるから、勉強自体に不自由はない。

 前世と違う歴史や公民などは、ママンに内緒でネットで勉強してるし。

 更なる学習は、中学に行ってからでも遅くないだろう。


 ……中学になっても学校行かせないとか、流石にないよね、ママン……?

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