04. 価値観ってなんだろう

 ママンにスーハースーハーされながら、テレビを見る俺。

 イケメン女性へのインタビューの続きだ。


『なるほど! ポイントは腰回りに布を巻くことなんですね!』

『はい。そうすることで、男性らしい骨格を再現できるんです』


 男装の麗人の言葉に、リポーターの女性がゴクリと生唾を飲み込む。


『そ、それは、ま、まさか、実際に男性の腰を見たことがある、ということですか……?』

『えいえいえ、残念ながら、そんな機会はなかったですね。でも、私は美大生なので、男女の骨格の差というのを学んだことがあるんですよ』

『なるほど、解剖学的に男性の体の構造を知っている、と』

『ええ。それに、AVをたくさん見ているので、画面越しなら割と実物を拝見してますね(笑)』

『あ、それ私もです(笑)』


 ねぇ。

 色々と明け透けすぎじゃない、このインタビュー?

 この前も、街頭インタビューで「バキバキ処女です」って堂々と答えてた女性とかいたし。


 まぁ、現地球では女性が圧倒的に多い。

 なにせ、男女比が1:2400だ。

 男の姿を見るということが殆どないので、至るところで女子校化現象が起きている。

 つまり、女性ばかりだから取り繕う必要を感じなくなる、という心理状態になるのだ。

 だから、結構色んな所で公然と猥談がなされていたりする。


 でもさぁ。

 流石にテレビで言うのはマズくない?

 こんなことを全国ネットで言ったら、同性にもドン引きされるよ?

 前地球でだって「俺、めっちゃAV見てんだよね」なんて堂々と言う男がいたら普通に引くし。


「へんなの」


 思わず呟くと、ママンが後ろから俺の顔を覗き込んできた。


「どうしたの、ゆうちゃん?」


 ふむ……。

 これはチャンスだ。

 ちょっとママンのこと困らせてやろう。

 日頃のママ呼び強要への仕返しだ。


「ねぇ、母さん……『えーぶい』ってなに?」


 あ、ママンがおっとりした笑顔のまま固まった。

 ピシャって音がしてきそうなくらいだ。


「………………それはね、ゆうちゃん……」


 あ、再起動した。

 こころなしか、声がちょっと震えている。


「……どうやったらお嫁さんになれるかを教えてくれる……教育番組のことよ」


 かなり誤魔化し気味ながらも、ちゃんと説明してくれるママン。

 こういうところが、うちのママンの長所だよね。

 普通なら「お前にはまだ早い」って放り投げるのに。


「僕も、それ見たい」


 そう言うと、ママンが再度ピキリと硬直した。


「……そういうのはね、女の人向けなの。だから、男の子のゆうちゃんは見れないのよ〜」


 なんとか絞り出すママン。

 これ以上いじめるのは流石に可哀想だ。

 大人しく「分かった」と応じてテレビの続きを見る。


 でも……ごめんね、ママン。

 実は俺、家にあるタブレットでもう何回か見てるんだよね、現地球のAV。

 閲覧履歴残さないように、プライバシーモードで。


 で、めっちゃ後悔した。

 だって、マジで全部が全部、女性向けなんだもん。


 映像の主役が男だし。

 カメラ視点が女性側だし。

 内容の殆どがイチャラブ会話だし。

 雰囲気やシチュエーション重視だし。

 いわゆる本番はハグだけだし。

 キスまでいくと有料コンテンツだし。


 ……これがアダルト向けってマジ?

 今どきの少女マンガの方がもっと過激だよ?


 まぁ、仕方ないか。

 なにせ、こういうのに出たがる男性が殆どいないからね。

 国の規制も厳しいみたいだし。

 本物の男が出ている大人向け実写映像は、古文書なみに少ないらしい。


 調べてみたら、アダルトコンテンツの本場は、大体が2次元だった。

 ただし、こちらも女性向けオンリー。

 ハグとキスの先にある展開を、妄想込み込みで描いているらしい。

 だからなのか、「いやそうはならんやろ」っていう展開が結構ある。

 ……あのね、男って、ブルブル振動したりウィンウィン回転したりしないんだわ……。


 まぁ、これも仕方がないといえば仕方がないかな。

 男が少ない上に、この世界の男は色々と「弱い」からね。

 ネタの提供元がないから、創作物もファンタジーなことになりがちである。


 女性の方が圧倒的に多いなら、サービスやコンテンツがほぼ女性向けになってしまうのは自然な流れ。

 だから、男性向けのコンテンツは殆どないと言って差し支えない。

 これが、この世界の価値観だ。

 異物である俺がどうこう言うのは筋違いというもの。


 ただ、正直、俺は自分の将来がちょっと心配だ。

 詳しく言うと、だいたい5〜6年後──思春期になったときのことがね。


 今の俺は、身体が子供だ。

 すぐに眠くなるし、欲望そのものが皆無に等しい。

 だから、男性向けコンテンツなんて無くても全然気にしない。


 でも、思春期を迎えたらどうなるか。

 これは、流石に俺も分からない。


 ……男ってな、白米だけじゃ飯食えへんねん。

 ……食欲を促すものがないとあかんねん。

 ……ご飯のお伴が必要やねん。

 ……何もなかったら色々と捗らんねん。


 まぁ、こんな事を今から心配してもしょうがない。

 なるようになるだろう。

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