第26話 バイトはじめます
「…なにしてる子、ねぇ」
「教える気になった?」
しかし、黙っていてもいつかは多分バレることになるのだろう。
レイナのバイト先は家からすぐ近く。ということは駅近になるわけで。
そして前に駅前の商店街でばったり会ったとおり、ドラゴンも中野に住んでいるからだ。
「…メイド、かな?」
そんなことを考えれば、とりあえずそう言ってみる。
俺は間違ったことは言っていない。
レイナの妖精界の本職は「メイド」だ。
そして今のバイトも喫茶店の給仕になるわけで、メイドといえばメイドなのだ。
「お前さ、このタイミングで夜の話してくんのかよ」
「…え?」
「なんだよコスプレとかするタイプ?楽しそうだなオイ」
「…いや、まぁそれができたらまじで楽しいだろうな」
「くそが!リア充!くそ!うんこ!」
「…んー、リア充ちゃぁリア充だなぁ」
なかなか話が噛み合わないながらもそんな会話をして、俺たちは昼食を終えて仕事に戻った。
横では今だに「うんこうんこ」と小学生のように大声を出す恥ずかしい大人がいるが今はとりあえず知らない人のふりをしよう。
そして、そんな恥ずかしい大人に仕事終わりにも予想通りしつこく絡まれるハメになったので、結局レイナのバイト先の話をすることになるのだった。
◇
「まじかよ。すげぇ近いじゃん絶対行くわ。明日行くわ」
「絶対来なくて大丈夫」
仕事終わり、ドラゴンと毎度お馴染みの居酒屋へと向かい俺たちはいつも通りビールを飲んでいた。
そしてバイト先の話をするや否や、こうして血走った目で俺をガン見するドラゴンの姿が出来上がったのだった。
いつも思うのだが、ドラゴンがモテない理由は見た目とかじゃなくてこういうところだ。
何ならこいつ、スポーツ全般得意だし高校時代はサッカー部キャプテンで全国行ってたくらいだ。
見た目だって悪くはない。凛々しく整った切れ長の目に、がっしりとした身体、爽やかな短髪。黙ってスポーツでもしていればめちゃくちゃモテるはずなのだ。
…なのに、全力でモテない行動に自ら突っ走って行くのはなぜなんだ。
というか「メイド」なんて言った俺も悪いのだが、ドラゴンはこの店をどうやら勘違いしているのだろう。
きっとあのポケットティッシュのような店だと思い込んでこんなにも目を血走らせているのだ。
「明日、休みだよな?」
「…おー、そうだな」
「行くよな?」
「…」
「お前が行かなくても行くけどな?」
「…おぉ、」
結局、ドラゴンの怖すぎる目力に負けて、不本意ながらも一緒にレイナのバイト先へ行くことが決定したようだ。
…わかったよドラゴン、行くからその目を早く落ち着かせてくれまじでこえーから。
未だにギラギラとした視線を向けられた俺は、冷めたフライドポテトを食べながらそんな明日のことを考えて頭が痛くなっていくのだった。
しかし、そんなことはとりあえず置いておき、考えることは一旦やめた。
今日は、待ちに待った華金なのだ。
俺の楽しみを邪魔する奴は、何人たりとも許さない。
キンキンに冷えたビールを一気に飲み干せば、仕事やドラゴンのせいで溜まった疲れが一瞬ですぅっと吹き飛んでいく。
…あぁ、酒の力は素晴らしい。
というわけで、今は全力で至高の時間を楽しませてもらうことにする。
「くぅーうめぇー!…すいませーん!」
「あ、俺も生!」
「生二つくださーい!」
「あ、あと揚げ出し豆腐とおまかせ串5本!」
そうして俺たちはいつもの流れで愚痴をこぼし、どうでもいいことでゲラゲラと笑い、いつも通りの調子で酒を飲み明かすのだった。
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