第17話 占いなんて信じない



 歩くこと数分、「中野駅」と書かれた駅が見えてきたので「ここだよ」と伝えた。


「便利な場所ですよね。こんなに近くに駅があって」

「ここら辺で買い物したんだよな?」

「教えてもらったスーパーに行っただけで他は見てません」


 この街には親戚が住んでいることもあり、俺には昔から馴染み深い場所だった。

 会社が近くて交通の便もいいし、駅前にはなんでも売っているから困ることもない。すごく住みやすい場所だと思う。


 それに、今住んでいるマンションも特別思い出深い場所なのだ。


「うわー、お店がたくさん」


 駅前の商店街に入ればレイナはさっそく目を輝かせていた。

 飲食店や女の子が好きそうなお店もたくさんあって「可愛いものが沢山ありますね」と言った彼女には「今のお前が可愛いよ」と言ってやりたいくらいだった。


「よし、とりあえず服と靴に下着は絶対で」



 というわけで、取り急ぎ下着屋さんに向かった俺たち。

 店の前まで来れば、ずらっと華やかな下着が並んでいて思わず尻込みしてしまう。


 …これは、男が入るのはかなり気まずい。

 仕方なく覚悟を持って足を踏み入れると、「お似合いのカップルですねぇ」なんて、にこやかな笑顔で迎えてくれる店員さんがいてなんだか変な汗をかいてしまった。


 店にいるのも恥ずかしいしサイズのこともよくわからないので、俺は適当なことを言って店員さんにレイナをお任せすることにする。


「人間はこんなものもつけないといけないんですね」

「まぁ、大変だよな女の子は」


 綺麗に陳列された下着を見ながら、そんなことを言う彼女。

 ただ、綺麗な物はやはり好きらしい。

 商品をじっと眺めるその瞳は、いつの間にかキラキラと輝いていてなんだかとても楽しそうだ。


 俺はそんな彼女を残して「じゃぁ、お願いします」と店員さんにお辞儀をする。

 そして足早に店の外に出て行こうとすれば、


「彼氏さんのお好みはあったりしますかー?」


 と、なぜか声をかけられていて、再びその場に留まることになっていた。


「…あー、いや、彼女の好みで大丈夫です」

「彼女さんの好みが彼氏さんの好みなんですか?素敵ですねぇ」

「あははっ、」

「強いて言えば?」

「…まぁ、淡い系の色でちょっとエロい感じのが」

「ふんふん、なるほどぉ」


 店員さんの勢いにつられていつの間にかそんな会話をしている俺たち。

 ちらり、とレイナを見てみれば呆れた表情で俺を見ていた。


 その後はもう、店員さんのテンションに乗せられるがままにサイズを測って試着をして「彼氏さんも試着ご覧になりますかぁー?」なんて言葉には「どこのラブコメだよ」と心の中でつっこんだりして。

 さすがにレイナが首を全力で振っていたのでおとなしく俺は店の隅で待機するのだった。


 そして、まぁまぁな時間が過ぎた頃、げっそりと疲れ果てた様子のレイナが試着室から出てくるのだった。


「ありがとうございましたぁ〜」


 そんなわけで、無事目的の下着と部屋着を数点購入することができた。

 会計時に見た下着たちは女の子らしい淡いカラーの確かにちょっとエロい物で、「店員さん、さすがです」と彼女に賛辞をこっそり送った。


 そしてちらっと見えたサイズを見て、思わずごくりと喉が鳴るのだった。

 あぁ、天は二物を与えずとはなんのことやら。何物か与えられた女がここにはいるぞ。


「レイナ疲れた?大丈夫?」

「大丈夫です。たくさん買っていただいてありがとうございます」

「全然いいよ、後は服と布団買いに行くか」


 再びブラブラと歩いて女の子の洋服がずらりと並んだお店に入れば、先程の店でかなり疲れていたであろうレイナのテンションは再び上がっているようだった。


「か、かわいいです」


 色鮮やかな洋服を見れば「可愛い」という言葉が止まらない。

 そして俺もまた、何度目になるのか「今のお前が可愛いよ」が止まらない。


 あー、本当デートだわこれ。こんな感じだったデートって。

 そんな彼女の様子を見れば俺も自然とテンションが上がっていく。


 基本、待たされることが嫌いな俺は買い物を一緒にすることを嫌っていた。

 しかしここまで喜んでもらえるとさすがに気分がいいのだ。

 自然と緩む顔をセーブしながら、その後も彼女の買い物に付き合っていくのだった。


 そして、一枚で着れる一番着回しやすいであろうワンピースを数着買って、俺たちはその店を後にした。

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