第15話 占いなんて信じない
「準備できました」
そんなレイナの声を耳にして時計を見れば、いつの間にか時間は予定時刻5分前になっていた。
振り向けばすでに着替えを済ましてワンピースを着たレイナがいて、先ほどまでひとつに結ばれていた髪もおろしていた。
さらり、と綺麗な金色がゆらりと揺れて不覚にも胸は高鳴った。
そんな彼女に「すぐ準備する」と伝えて慌てて着替えを済ませると、歯を磨いて髪の毛をセットしていく。
目の前には二つの歯ブラシが並んでいて、なんだか同棲していた頃を思い出して思わず苦笑いしてしまった。
「よし、行こうか」
「はい」
思えばデートなんていつぶりになるのだろう。
これをデートと言っていいのか微妙なところではあるのだが、それでも休日に男女で買い物に行く、ということはそう言ってもいいだろう。
…いや、正確には、男(人間)女(妖精)になるのだが。
そもそも休日に外に出歩くこと自体かなり久しぶりになる。
大学時代はよく遊んでいた友達とも、社会人になるとなんだかんだ皆忙しくなりあまり遊ばなくなっていた。
皆で集まったりするのは忘年会とか新年会とかそれくらいだ。まぁ、唯一職場が同じドラゴンとはよく仕事帰りに飲みに行くのだが。
「すみません、サンダルお借りしてもいいですか?」
部屋の電気を消して玄関先へ向かえば、彼女はシューズボックスを指差してそう言った。
「うわ、ごめん。そうだった。忘れてた」
「昨日も勝手に借りてしまいました」
「帰りに買ってこればよかったな」
そしてレイナのその言葉で彼女と出会った時の光景を思い出す。
そうだった、レイナは靴を持っていないのだ。初めて会った時、彼女は裸足でうずくまっていた。
その時は色々驚くことが多すぎて、すっかり忘れてしまっていたのだ。
…なるほど、これでは外に出られないではないか。
目の前を見れば、レイナは俺の汚れたビーチサンダルを取り出していた。
確かに彼女が俺の靴で履けるモノはこれくらいしかないだろう。
しかし、綺麗な白いワンピースにはそんなモノは到底似合わない。ましてや彼女の外見が加われば、とんでもなく不釣り合いな足元になるだろう。
「…あ、ちょっと待って」
どうするかな、なんて考えていれば、ふと思い出すのだった。
クローゼットの奥に押し詰めたままになっている物の存在を。
ゴミで出すのもなんだか気が進まなくて、捨てたくても捨てられなかったアレらが多分どこかにまだあるはずだ。
「…確かここらへんに入れたような」
急いで寝室へ戻りクローゼットを開ければ、ごそごそと目的の物を探した。
すぐに大きなゴミ袋が見つかって中を見てみれば、俺には必要のない女物の洋服や化粧品たちが乱雑に入っていた。
「あー、よかったあった」
そして目的の物を見つければ、それを片手にすぐに彼女の元へと戻るのだった。
「サイズ合うかわからないけど。とりあえず今日はこれ履きな?こんなビーサンよりはマシだと思うから」
「…え、いいんですか?」
玄関先に戻ると、そう言って持ってきた物を彼女に渡した。
少し埃がかかってはいるがあのビーサンよりはマシだろう。
けれど、彼女はどこか浮かないような表情をしてしばらくそれを眺めると、「でも、」と小さく言葉を続けたのだった。
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