はじめまして、妖精です。

第1話 土砂降りの雨の理由

俺は雨が嫌いだ。

ジメジメするし鬱陶しい。特に夏の雨は嫌い。

カラッと晴れた綺麗な青空を消し去ってドス黒くしてしまうから。

気分も下がるし髪型も決まらない。そして「よし、今日はいい感じ！」と出来のいい日ほど雨が急に降ってきたりする。

どうやら俺はこいつと相性がすこぶる悪いらしい。

だから全く好きになれそうにないのだ。

「…あーあ、ムキになんなよな」

そんな俺の心の声が聞こえたのか、外を見ればいつの間にか更に勢いよく降ってきていて。

ザーザーとうるさい音を立てながら地上に落ちてくるその小さな粒たちはたくさんの傘に当たりながら下へ下へと落ちていき、やがてソレは集合体になりドロドロと地面を這っていく。

そして色んなものと混ざり合って、ドロドロ、ドロドロ、汚くドス黒くなって排水溝に流れていく。

「…」

そんな姿を見ていれば、なんだかセンチメンタルな気分になった。

一瞬にしてなくなっていくその一粒一粒が。

色んな異物と混ざり合って汚くなりながら消えていくその姿が、今日は妙に儚く見えるのだ。

「雨はね、心の涙なんだ」

「泣きたくても泣けない人の代わりに泣いてくれているんだよ」

そんな言葉を、ふと思い出した。

昔、祖父がよく言っていた言葉だ。

「心の涙、ねえ」

だとすればこの世の中には泣きたくても泣けない人が結構たくさんいるもんだ。

甘える人がいなくて泣けない人。プライドが高くて泣けない人。

泣く、という行為を知らなくて泣けない人。

そういえば、俺もいつから泣いていないのだろう。

子供の頃はよく泣いていたが気がつけば隠すようになっていた。

社会人になってからはもう泣いた記憶がない気がする。

勿論泣きたい出来事は山ほどあったし今もある。けれど、大人とは少々面倒で、素直に「泣く」という行為をできる人は多くないのである。

そんな祖父は、昨日死んだ。

８８歳、まあまあ生きたほうだった。

お通夜なしの家族葬はあっという間に本日終わり、なんだかまだ全く実感が湧いてこない。

ガタン、ゴトン、大きく揺れる毎日聞き慣れたＢＧＭを耳にしながらそんなことを考えていれば、いつの間にか最寄り駅に着いていた。

相変わらず憎たらしいほど強く降る雨を睨みながらビニール傘をさせば、頭から聞こえる雨音はさっきよりも耳にやたらと響いてきた。

「最悪だ。この距離でも濡れるわ」

駅から徒歩５分。

いつもならスムーズに帰れるマンションまでの道のりも、今日はうまくいきそうにない。

ぴちゃん、ぴちゃん、と大きくできた水溜りを避けるように走って行けば、最後の一歩を勢いよく踏み出してマンションのエントランスに駆け込んだ。

「……えっと、どちら様？」

そして部屋の前まで着くと、口から飛び出したのはそんな言葉でした。