第三章 お泊り回

第13話 どうした!?生徒会長

 二次元同好会にとって初めての課外活動から数日が経過した。


 新しい部活部屋ならぬ部活小屋では、今日も今日とて部長のこのかと部員である栞奈かんないそしんで部活をしている。


「そこよプリシア!そこでファイアボールよ!」

「危ないわシエル!そこでウロウロしていたら敵の不意を突かれるわ!」


 ――と言っても、いつもと変わらず異世界もののアニメの円盤ブルーレイを観て絶叫しているだけだが。


 二人が観ているのは、『S級ランクの最強騎士ナイトはの前世は陰キャJKだった』――S級のSと前世のゼンの字を取って『エスゼン』という略称で知っている人は知られているウェブ小説発の原作付き作品。


 学校ではいじめられ、家庭環境も最悪なメインヒロイン――プリシアが、不慮の事故によって異世界で暮らす平凡な女性に転生。しかしプリシア自身が、常軌を逸したハイステータスであることが判明。それ以降は持ち前のハイステータスを生かして、新たな仲間と共に悪を滅ぼす――という内容だ。


 内容からしてオーソドックスな異世界ものではあるが、時々登場する百合シーンや派手さが際立つアクションシーンが特に高評価を得ている。


 物語は第六話――すなわち、アニメとしては折り返し地点にあたる回の終盤。


 プリシアが仲間と共に魔王幹部の討伐に挑む最終決戦のシーン。


 流石は幹部とだけあって、その強さは作中最強だ。これまでありとあらゆる敵をひれ伏した一行は、これまでとは比べものにならないくらいの強さに大苦戦している。


 何としてでも、プリシアたちに勝利という勲章を授けたい!そんな思いで、このかと栞奈はテレビの前で大絶叫――いな、大応援をしていた。


「はぁ〜……。楽しい意味で疲れたわ。テレビの前でこんなに絶叫したのは久しぶりかもしれないわ」

「きっ気に入って貰えて光栄です。セッセレクトした甲斐がありました」


 栞奈の大満足な感想と笑顔で、このかも大変喜んでいる。


「…………………………」

「…………………………」


 アニメ一本というのは平均して二十四分。熱狂しても集中しても結果は同じ。あっという間に終わってしまうはかないコンテンツだ。終わってしまうと、現実に戻ってしまうこの悶々とした胸の内。


 しかし二人に襲った胸の内は、単なる心苦しさという理由ではない。


 その理由を探るには、数日前にさかのぼらければならない。


(せっ生徒会長!……いや、かっ栞奈!)


 栞奈の友達のいないツラく切ない過去を聞いたこのかが、唐突に栞奈を下の名前で呼んだのだ。


 その時の栞奈は、なぜこのかが何の迷いもなく自身の名を呼んだのか分からず戸惑いでいっぱいだった。


(やっぱりここは真相をくべきよね。だって、相手のことを下の名前で呼ぶのはせいぜい友達か、その、えっと……)


 栞奈は心の中で以前のこのかの行動を不思議がる。


 しかし考えれば考えるほど、どうも友達という概念を通り越してもっとを想像してしまう。


(はっ!な、何を考えているのかしらわたくしったら!べ、別に讃井さぬいさんとは同じ天高あまこうのイチ生徒と生徒会長の間柄よ!何もそう本気で考えてなくても――)


 そう心では理解しても、ついこのかの困惑する表情を見てしまう。その時に二人が目を合わせところで、お互いすぐに逸らしてしまう。


(どっどうしよう……。生徒会長の様子をうかがいたいだけなのに、すぐにそっぽを向いちゃったよ……。やっぱり怒ってる?怒ってらっしゃいますよね?これはやっぱり謝罪した方がいいのでは……?)


 方やこのかは、太もも辺りのスカートを掴みながら、下を俯いて栞奈の反応をうかがう。当の栞奈は冷静ではないが、目線を合わせてはすぐに逸らしたものだから機嫌が悪いのではと勘違いをする。


「あっあの、生徒か――」

「讃井さん!」


 このかの呼びかけと栞奈の呼びかけが同時に起こる。


「……………」


 そして数秒間に起こる、よそよそしい空気。


「な、何?讃井さん。御用があるならまずあなたからお話して」

「いっいや。まっまずは生徒会長から……」


 お互い遠慮がちになり、話し始めの押しつけ合いをする。


「……んっ?ひょっとして讃井さん。わたくしが選日の課外授業での一件に怒っているとでも?」


 そんなことをしている時、栞奈はこのかが言い淀んでいるには理由は、自身の機嫌が悪いのと勘違いしているのではと問いただす。


「あっはい……」


 図星を突かれたこのかは肯定するしかなかった。


「はぁ~。あなたったら……」


 このかの返答に栞奈はため息混じりで呆れる。


「わたくしね、下の名前で呼ばれただけで怒るような器の小さい人間とでも思うの?」

「い、いや。そんな考えなど一ミリもございませんのでその、あの、はい……」


 栞奈の質問返しに、このかは萎縮しながら返答する。


(やっぱり怒ってるじゃないのぉ〜……)


 その口調が怒りに聞こえたようで、萎縮度が更に増していく一方だった。


「いい讃井さん。わたくしもむしろ嬉しかったわ」

「えっ?」


 思っていたこととは逆の展開が起き、このかは小さく驚く。


「この前も言ったけど、わたくしは友達というたぐいは一切いないのよ。そんな中でどういう気持ちで口にしたのかは分からないけれど、讃井さんがわたくしのことを下の名前で呼んでもらえたのは、……むしろ嬉しかったのよ」

「う、嬉しい――?」

「そうよ。人生で初めてあなたがわたくしのことを下の名前で呼んだのよ。だからその――、何だかような感じがしたのよ!」


 栞奈は火傷やけどしそうなほどの熱量で、このかに対して友達として初めて下の名前で呼ばれたことに対する喜びを説明する。


「ゆっ友情……ですか?」

「その通り!友情よ!すなわち、わたくしとあなたは『友達』なのよ!」

「とっトモダ、チ……」


 栞奈が発した『友達』という言葉に、このかは妙な反応をする。


「そっそれならば次の週末は、私の家に遊ぶのはどうでしょうか!」

「えっ?」


 このかも栞奈と同じく友達がいない。そのせいで友達という言葉には特に反応してしまう。


「あっいや。これはせっかくの友達になったのですから、友達らしくお互いのおうちに遊びに行くというのが定番といつしか読んだネット記事で知りまして――」


 このかはなんとか誤魔化そうと言い訳をして栞奈をその気にさせる。


「それは……いいけど、ご家族とかの了承とかは大丈夫なの?」

「だっ大丈夫ですよ!両親は仕事の関係で平日休日問わずいませんし、妹がいるんですけれど、妹と基本週末は家にいませんし――」


 栞奈の気がかりを払拭させようと、このかは何故か必死になりながら彼女の問いに返答する。


「で、ではお言葉に甘えてお邪魔しましょうか」

「あっありがとうございます!」


 栞奈がすんなりと受け入れたことに、このかは感激しながら感謝する。


 苦節およそ十年。同年代と自宅で遊ぶことに対して大望をいだいていたこのかにとって、ようやく訪れた学生イベントの一つ。それを同じ天高の生徒会長と共に過ごすのは、いつしかバチが当たってしまうんじゃないかと、かえって鳥肌が立つほどの恐怖を覚えてしまいそうだ。


「そっそれではいつにしましょうか?実を言うと妹が次の週末が友人と沖縄まで二泊三日の小旅行に出かけますので、土曜でも日曜でも構いません。いっいつにしましょうか?」

「両日がいい!」

「えっ?」


 栞奈の口から全く予想外の言葉を発したものだから、このかはまたしても小さく驚く。


「……あっあの生徒会長。りょっ両日というのはどういうことでしょうか?」

「どういうことって言葉の通りよ?」

「こっ言葉の通りと言いますと?」

「う~~~〜〜ん……」


 勘の悪いこのかに、栞奈は腕を組みながら言おうか否かといった感じで長く唸る。


「要するに、讃井さんのご自宅に宿泊施設したいということなの!」

「えっ!?えーっ!?」


 はっきりと宣言した栞奈に、このかは大仰天する。


「いっいや……まっ待ってくださいよ生徒会長!私、実を言うと友達をおうちに招くどころか、お泊まりすらも未経験でして――」


 栞奈のあまりの言動に、このかも動揺を隠せない様子だ。そんな感情をこのかなりに言葉で返す。


「讃井さん。それはわたくしめも同じよ。わたくしのご自宅にクラスメイトを招くなんて皆無よ。おあいこ同士、未経験のイベントを二人きりで楽しみましょうよ!」

「あ、あ〜〜〜……」


 このかはコミュ障が故に断ることができない性格。それ故に、ただ単に唸ることしかできなかった。


「そうと決まれば、早速次の週末に実行しましょう!」

(まっまだOKサイン出していないのにぃ〜……)


 栞奈の強行採決に、このかは心の中で彼女の決断にクレームを付けるのであった。

(続く)

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