第39話 初めて挑むダンジョン

 見たこともない洞窟を前に、それまでのがっかりとした気持ちから一転、胸が躍り始める。

 レレムの街には何度も来たことがあったし、周囲のマップは当然のごとくすべて把握していたが、この洞窟は見たことがない。

 つまりここはエクスペディションオンラインには実装されていなかった場所ということになる。


 もしかしたら何か隠されたレアアイテムがあるかもっ!

 魔力結晶がなかったとしてもそれをお土産にすれば皆に言い訳くらいはできるはずっ!


 そんな想いとともに、私は洞窟の中へと進んでいった。

 内部にはレレムの街近辺では見られないようなレベル700代のモンスターがうようよ生息しており、こんなのが出現したらレベルが100や200しかないレレムの住人たちは全滅してしまうことであろう。


「ってことは、入り口はつい最近まで閉じてたのかな……? それかさっきの地震で地上とつながったとか? なんにしても未探索領域の可能性が高いってことねっ!」


 住民からすれば凶悪な魔物であろうが、私はそれらをスキップしながらなぎ倒していく。


「あら? また地震……? ホントに頻発してるみたいね。こうやって地震を生で経験できるのもなかなか楽しいなぁ」


 エクスペディションオンラインだとVRの技術限界で地震現象は実装されていなかった。


 たびたび地震が起こる中でモンスターを倒しながら、先へ先へと進み続けて二時間ほど経ったであろうか。

 モンスターのレベルは1000を越え始めており、おまけに洞窟内も溶岩マップへと変遷していっていた。

 まあこの山は現在活火山であり、溶岩流が流れているのも当然と言えよう。


 普通の人であればこの段階で死亡してしまうのだが、私は特殊称号『朱雀の想い』を持っている。

 この称号は四神朱雀を時間制限付き単独撃破することで得ることができる。

 称号効果の中には『鳳凰炎舞』というスキルがあり、このスキルを保持していれば火属性ダメージを常時90%もカットできるのだ。


「いやぁ、滅茶苦茶大変だっただけに、鳳凰炎舞は強いなぁ。溶岩なんて浸ったらHPがガリガリ削れてくけど、ヒーリングスキルをかけ続ければ進めちゃうんだもん」


 気分的にはプールの底を歩いている気分だ。

 溶岩の中でも視界が確保されているのも、おそらく別の称号スキルの効果であろう。

 たまーに溶岩の中を泳ぐ巨大なドラゴンのような輩が襲ってくるが、適当に氷属性の魔法を放って倒していく。

 まだまだ私を焦らせるほどの敵ではない。



 なんて具合に進み続けたら、巨大な扉の前にたどり着いた。


「おお! ここは明らかにボス部屋だ! ヤバい! ちょっと緊張してきた!」


 見たこともないダンジョンでの初見ボス。

 何とも楽しみで仕方がないではないか。

 いつもの癖で装備ウィンドウを確認しようとするも、異世界だったことを思い出す。


 ……そっか、今までずっと同じ装備だったけど、装備一つ変えるのも着替えなきゃいけないのか。

 ゲームではワンクリックだったからなぁ。


 とは言っても今の装備で問題ないため、変更などそもそも必要ない。

 なんとなくの癖だ。


「よしっ! 張り切っていくぞ!」


 扉を開くとそこは広大な広間になっていた。

 周囲には大量の溶岩が溢れていて、その中心には推定高さ二十メートルほどの巨人型の岩石魔物が居座っている。

 部屋は非常に広いはずなのに、巨大なボスからすると少し手狭な感じだ。


 私が部屋を進むと、ゲームのときのように扉は勝手に閉まり岩石魔物が活動を開始する。


 うん、ここらへんはゲーム通りだね。

 ボス部屋は扉が閉まると戦闘開始。

 入れるのは1パーティまで。


 ただ、このボスは見たことがないな。


「ほぉ、ここにたどり着く人間がいるとはな」

「おお!? 喋るんかい!」

「んん? 喋るに決まっているであろう。貴様は我を何だと思っている」

「うーんと、ボス? 的な?」

「フハハハハハ! ボスか! なるほどな! 確かにその通り、我はこの火山の主でありボスと言えよう。貴様には感謝している。我はずっと貴様のような者が現れることを待ち望んでいた」

「感謝? 待っててくれたの?」

「ああ。我ら八卦神はとある創造神によって創られたのだが、この狭き空間に封印されていてな」


 八卦神……?

 なんだっけ、聞いたことがあるような……。


 創造神の方は普通にボスでいたな。

 エクスペディションオンラインでは究極限界創造神アマテラスがいちおうこの世界を創ったという設定になっていた。


「その創造神様はご丁寧に封印を解く方法まで教えてくれているんだ。その方法は、一度も敗北することなく人族、魔族、亜人のいずれかに256勝することだそうだ」


 なんだその半端な数字は。

 8bitかっつーの。


 だがその瞬間、私はとある事件を思い出す。


「あっ! そっか! そういうことなんだ!」


 かつて、エクスペディションオンラインでは、呪怨の祠にいるはずの『魔毒の精霊』がワールドマップへ暴れ出すという事件があった。


 これまでにない仕様に、プレイヤーたちは発生条件を血眼になって探したのだが、ついぞその事件は一度きりで終わった記憶がある。

 呪怨の祠は到達時点でのレベルに対して難度が非常に高めに設定されている。

 もしかすると、偶然プレイヤーが立て続けに256回ボス戦で敗れてしまって魔毒の精霊の封印が解かれたのかもしれない。


「なるほどねぇ。運営はあなたたちの封印解除にたった8ビットしか使わなかったってことね」

「ふん! 何をわけのわからんことを」

「あれ? でもどうやって255回も倒したの? ここに人なんて来れないでしょ?」

「ここはちょうどレレムの山の火口の真下になっていてな。人族というのは面白い生き物で、たまに火口へと身投げをする輩がいるんだ。それがこの五百年に255人いた。最期の一人を今か今かと待っていた時に、貴様がやってきたというわけだ。おまけに扉を通って堂々と戦いにやってきた。大手を振って封印を解けるというものだ!」

「はえ~、そんなやり方ありなんだ。なるほどねぇ」

「感心している場合か? 貴様はこれから死ぬのだぞ」

「うん! 初見ボスなんてわっくわくするよっ! よしっ! だいたい事情はわかった。そしたら、やろっか」


 武器は出さずに不敵な笑みを差し出しておく。


「ふん! 恐れ知らずめ! 我の封印解除記念になってもらうぜ!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る