第40話 大噴火

 となりの豚トロと別れてからクモの大福たちはレレムの街へと戻って来ていたのだが、異常事態が発生していた。

 大地震が頻発しており、火山活動が明らかに増していたのである。


「おい、なんかやべぇぞ! こんなの初めてだ!」

「どうする!? 逃げるか!」

「逃げるったってどこに逃げる! ダイフクの姉さん、あんたは逃げないのか?!」


 ライルに問われて、愚問とばかりにクモの大福は鼻を鳴らす。


「わらわはレレムの街に害をなすものがあれば全て守るとトロポーク様より命じられておる」

「だ、だが、現状だと――」



 ドガァァァァン!!!



 そう述べようとした瞬間、山が爆ぜた。


 火口付近にあった山肌は消し飛び、大量のマグマが溢れ始めている。

 それと同時に、上空へと飛来した火山弾が大量に降り注いできていた。


「なっ! 噴火しやがっただとっ!!!」

「マジかよ……。レレム山は噴火しねぇって学者も歴史も言ってたじゃねぇか……

「やべぇぞ! ここには噴火時の対策がろくに用意されてねぇぞ!」


 ライルやリンディスはおろか、周囲にいる住民たちの顔からも生存に対して諦めの色が浮かび始める。


「くそっ! 逃げるぞ! 諦めんな! まだ命がある! だったら最後まで足掻くぞ!」

「あ、ああ……、そう、だな。すまない、弱音を言った」

「ダイフクの姉さんもっ!」

「わらわはここに残る。それが主命じゃ」

「何言ってんだ! ここに残ったって死ぬだけだぞ!」

「例えそうであってもじゃ」


 火山弾が降り注いでくる。


「わらわは――」


 五百年も待ち続けた主の言葉を思い返す。


『レレムの街に害を為すものがあれば、これを全て守ること。

 たとえ相手がなんであろうとも』


「――守ってみせる! スキル【破邪の衣】!!」

「何してんだ姉さん!? 相手は溶岩だぞ! 人間がどんだけ足掻いたって大自然の猛威になんて敵うはずがねぇよ! 今すぐ逃げよう!」

「そうかもしれんの。おぬしらは逃げたければ勝手に逃げよ。守るべき者が減った方が、わらわとしても都合が良い」

「守るだとっ!? あの降り注ぐ火山弾をどう防ぐ!? それにこのあとマグマも押し寄せてくるんだぞ!」

「関係あらん。それがわらわのすべきことじゃ」

「なんで、そんな……。今日初めてこの街にやって来たレレムになんの関係もない人なのにっ!」

「時間が惜しい。おぬしらと喋ってる暇はあらん。ゆくぞえ!!!」


 クモの大福はそのまま助走なしに飛びあがり、街の外壁の上へと飛び乗る。


「乱るるは栄華にして、舞い散るは不可視! 【百花・繚乱】」


 手先から無数の斬撃蜘蛛糸を飛ばし、降り注ぐ火山弾を撃墜していく。


「な、なんだ、これはっ……?! 何が起きているっ!」

「姉さんなのか? これをやってるのは?」

「逃げぬのならはよお避難誘導をせい! こう人が散らばっておっては守るもんも守れんからして!」

「わ、わかった! リディ、やるぞ!」

「おい! 逃げないのかよ!?」

「逃げてられっかよ」


 ライルがリンディスと顔をつき合わせる。


「今日はじめてこの街に来た者が命を懸けてレレムを守ってんだぞ。ここで逃げたら男が廃るぜ」

「くそっ、仕方ねぇな!」


 大量に降り注ぐ火山弾を迎撃するに当たって問題は数だ。

 いくら超性能を誇るクモの大福であろうともすべての迎撃は困難となる。

 いくつかは街へと被弾し周囲を焼き始めていた。


 そこへこの街の衛兵隊長と思しき人物がやってきた。


「君は冒険者か!? 衛兵隊長のローラントだ! 助力感謝する! 何か手伝えることはないか!?」

「邪魔じゃ! さっさと避難せよ!」

「だ、だが我々はこの街の衛兵だ。それにあれを見ろ!」


 少し向こうの方から森を焼きながら大量のマグマが押し寄せてきている。


「石製の外壁でも多少は持ちこたえられるだろうが、氷の魔法で可能な限りマグマの侵攻を阻止しようと思う。君は火山弾の方の処理をお願いできるか?」

「どちらともわらわのみで対処可能じゃが?」

「けっこうなことだ。では我々はこの街を守る衛兵として、この街の防衛活動に入る!」

「勝手にせい」


 襲い来る火山弾を次々に迎撃しながら、ついにはマグマが街の外壁近くへとやってきた。

 衛兵たちから大量の氷魔法が飛んでいるが、いかんせん威力が弱く焼け石に水の状態である。

 おまけに――


「うあああああ! く、くるな、くるなぁ!!!」


 その溶岩の中からは魔物たちまで飛び出してきたのであった。

 出てきたのはレベル800ほどの凶悪な魔物たち。

 この街の衛兵では一発でHPを全損してしまうであろう。


 火山弾の対処に魔物の撃滅、そして溶岩侵入の阻止。

 どう考えても手が足りない状態であったため、クモの大福はやむを得ず変化の術を解いてアラクネの姿へと戻っていく。


 その姿に衛兵たちは最初こそぎょっとしていたが、こちらに危害を加えることなく、魔物たちだけを屠っていくのを見て、ややもすると味方と認識するようになっていた。


 外壁上を飛び回りながら、クモの大福は魔物たちを八つ裂きにして回る。

 その一方で火山弾の迎撃の手も緩めることができない。

 問題は――


「くっ、マグマの量が多すぎるの……」


 アラクネ種は炎が弱点属性となっている。

 むろんクモの大福は対策スキルを多数兼ね備えているのだが、さすがに押し寄せるマグマを食い止めるスキルは持ち合わせていない。


「姉さん! とりあえず住民を第三門の内側に逃げるよう誘導してる! 姉さんもいざとなったらそっちまで逃げて下さい!」


 なんて言葉が壁下にいるライルから聞こえてきた。

 レレムの街には内壁が全部で三つある。

 彼が言っているのは一番内側の門であろう。


「くっ、このままではもたんの。じゃが、わらわはそれでも守って見せる!! 壁に耳あり障子にメアリー防衛責任者! こんなところで負けはせんわっ!!」

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転生生活をまったり過ごしたいのに、自作キャラたちが私に世界征服を進めてくる件について ihana @ihana_novel

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